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平成における消費者の変容(3)-経済不安でも満足度の高い若者~目先の収入はバブル期より多い、お金を使わなくても楽しめる消費社会

生活研究部 上席研究員 久我 尚子
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1――はじめに~若者は消費意欲が旺盛で流行を牽引する存在から、貯蓄志向が強く堅実な消費者へ
しかし、今の日本では、若者ほど生活満足度は高く、20代以下は8割を越える(図表1)。若い世代ほど経済状況が厳しいようだが、30代の所得・収入や資産・貯蓄の満足度は、バブル世代が含まれる50代を越えている(図表2)。このギャップには何があるのだろうか。
「平成における消費者の変容(3)」では、「若者」に注目して、この30年の暮らしや消費、価値観の変化を捉える。なお、本稿では「若者」をおおむね35歳未満の未婚者とする。
2――今の若者の価値観が形成された時代背景~景気低迷・技術革新・デフレ・ライフスタイルの多様化
一貫して進化し続けたのは情報通信領域だ。「インターネット」「iモード」「ブロードバンド」「iPad」「スマホ」「ソーシャルメディア」「AIスピーカー」と進み、現在でも技術革新は続いている。
若者を中心にライフスタイルも変化した。2000年代は未婚化が進む中で「負け犬」や「婚活」という言葉が登場した。「草食男子」「歴女」「イクメン」「日傘男子」など、男女のライフスタイルのボーダーレス化も進んだ。また、若者の競争意識や消費欲が低下している様子や堅実志向が高まる様子は、「ゆとり世代」「さとり世代」「マイルドヤンキー」と称された。
「バブル世代は消費意欲が旺盛」という印象があるように、消費行動に関わる価値観は、アルバイト代やお小遣いで消費の楽しさを知り始めた学生時代、あるいは、社会人になり自由になるお金が増えた時期の社会環境に影響される傾向がある。
平成元年生まれの価値観が形成されたのは、景気低迷が続く一方、技術革新で世の中が格段に便利になった時期だ。また、デフレが進行し、ファストフードやファストファッションなど、安くて良いモノやサービスが流通した時期でもある。このような中で、今の若者では、節約志向が根底にありながらも、「お金を使わなくても楽しめる」「お金を使うことが必ずしもすごいことではない」という価値観が形成されていったのではないだろうか。
3――「今の若者はお金がない」?~バブル期より増える可処分所得、非正規でも約20万円

一方で1人暮らしの若者は、若者の中でも経済的に余裕のある層という可能性もある。
そこで、非正規雇用の若者の可処分所得を推計したところ、25~29歳では男性は月平均19.8万円、女性は17.6万円となり3、非正規雇用者でもバブル期の1人暮らしの若者よりも多い。なお、25~29歳の非正規雇用者の約3割は大卒・大学院卒であり、大卒・大学院卒の非正規雇用者の可処分所得を推計すると、男性22.1万円、女性20.2万円となる。
景気低迷の中で育った今の若者だが、実は目先の収入は案外ある。また、未婚化の進行や初婚年齢の上昇で、かつてより自由に使えるお金を持つ独身の若者が増えている。このことが、図表2の所得・収入の満足度の高さにつながるのではないだろうか。
1 久我尚子「若者は本当にお金がないのか?統計データが語る意外な真実」(光文社新書、2014)等
2 対1989年実質増減率は、1994年は男性+3.5%、女性+11.3%、1999年は男性+9.6%、女性+6.2%、2004年は男性+16.1%、女性+10.6%、2009年は男性+7.8%、女性+23.0%。
3 厚生労働省「平成25年賃金構造基本統計調査」及び総務省「平成26年全国消費実態調査」より推計。「賃金構造基本統計調査」の最新値を使って推計すると、非正規雇用者の可処分所得はさらに増える。
4――「今の若者はお金を使わない」?~消費性向の低下、経済状況によらず堅実・合理的な諸費態度

総務省「全国消費実態調査」にて、1989年と2014年の30歳未満の単身勤労者世帯の消費支出を比べると、男性は15.4万円から15.6万円へ(+2.2万円)、女性は15.3万円から16.1万円へ(+0.8万円)と名目ではやや増えているが(図表7)、実質では減っている(▲9.3%、▲5.4%)。なお、2009年までは男性は実質増加傾向にあったが、女性は1994年と1999年は減少している4。つまり、可処分所得は一貫して増えていたが、消費支出は必ずしも増えているわけではない。さらに、消費性向を見ても、男女ともおおむね低下傾向にある。
つまり、若年単身勤労者世帯の可処分所得は増えているが、増えた所得を必ずしも消費へ回すわけではなく貯蓄へ向けている。そして、その割合は増えており、若者の貯蓄志向は高まっている。
この背景には、目先の収入は案外あるものの、非正規雇用者の増加や正規雇用者でも賃金カーブが低下していること(後述)、少子高齢化による将来の社会保障不安などから、倹約志向が高まっている影響があるのだろう。一方で技術革新やデフレの恩恵を受けて「お金を使わなくても楽しめる」環境は広がっている。今の若者は「お金がない」わけではないが、将来不安から「お金を使わない」、一方で消費社会が成熟化し「お金を使わなくてもすむ」環境が広がっている影響も無視できない。

当研究所の生活者1万人を対象とした調査によれば、若者では全体と比べて「ものは買うより、できるだけレンタルやシェアで済ませたい」「計画的な買い物をすることが多い方だ」「毎月、決まった額の貯金をしている」「日常的におサイフケータイを使い買物やポイントサービスを利用している」などの堅実な消費態度に当てはまる割合が高い(図表8)。
一方で、年収400万円以上の若者(同調査で30代の上位4割、20代の上位2割)では、これらに当てはまる割合が高まるとともに、「多少高くても品質の良いものを買うほうだ」「普及品より、多少値段がはってもちょっといいものが欲しい」といった贅沢さを求める割合も高まる。
なお、今の若者は上昇志向が弱く、内向き志向だなどと言われるようだが、年収400万円以上の若者では「基本的には潜在的な成功を追い求めている」(56.1%)にあてはまる割合が全体(44.0%)より+12.1%ptも高い。
今の若者は、経済状況によらず共通して堅実かつ合理的な消費態度を持ちながら、経済的に余裕のある若者では、こだわりのあるものにはお金を使うような高級志向も持っている。
4 対1989年実質増減率は、1994年は男性+1.3%、女性▲3.2%、1999年は男性+5.7%、女性▲1.1%、2004年は男性+7.1%、女性+4.9%、2009年は男性+8.5%、女性+5.3%。
(2019年03月22日「基礎研レター」)

03-3512-1878
- プロフィール
【職歴】
2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
2021年7月より現職
・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
・総務省「統計委員会」委員(2023年~)
【加入団体等】
日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society
久我 尚子のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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2025/04/22 | 家計消費の動向(二人以上世帯:~2025年2月)-物価高の中で模索される生活防衛と暮らしの充足 | 久我 尚子 | 基礎研レポート |
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