2019年03月11日

米国経済の見通し-緩やかな景気減速予想も、高まる下振れリスク

経済研究部 主任研究員   窪谷 浩

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1.経済概況・見通し

(経済概況)10‐12月期の成長率は、高成長となった前期から低下
米国の10-12月期実質GDP成長率(以下、成長率)は、初期推計1が前期比年率+2.6%(前期:+3.4%)と高成長であった前期から低下した(図表1、図表4)。

需要項目別では、外需の成長率寄与度が▲0.22%ポイント(前期:▲1.99%ポイント)とマイナス幅が縮小したほか、設備投資が前期比年率+6.2%(前期:+2.5%)と前期から伸びが加速した。

一方、住宅投資が▲3.5%(前期:▲3.6%)と4期連続のマイナス成長となったほか、在庫投資の成長率寄与度が+0.13%ポイント(前期:+2.33%ポイント)とプラス幅が縮小した。また、個人消費は前期比年率+2.8%(前期:+3.5%)と好調を維持したものの、前期から伸びが鈍化した。

個人消費は、期待された18年の年末商戦売上高2が前年比+2.9%(17年:+5.3%)と前年を下回ったほか、全米小売業協会(NRF)の事前予想レンジ(+4.3%~+4.8%)も下回った。これは、主に12月の売上高が前年比+0.9%に留まり、11月の同+5.1%から急減速したことによる。

12月は、月初から資本市場が非常に不安定化したため、個人消費に影響した可能性がある。BREXITを巡る不透明感に加え、米中首脳会談で対中関税が緩和されるとの期待の剥落や、FRBによる利上げ懸念、マティス国防長官の辞任や12月下旬からの政府閉鎖に伴う、トランプ大統領の政権運営に対する不透明感から株式市場や社債市場は年末にかけて大幅な下落となった。

実際、株式市場ではS&P500指数が1ヵ月で▲9.2%下落したほか、投資家の先行き不安を示すVIX指数も12月下旬に一時30と18年2月以来の水準まで上昇した(図表2)。また、高金利社債と米国債との金利スプレッドも1ヵ月で1%ポイント以上上昇し、16年夏場以来となる5%ポイント超の水準に上昇した(図表3)。このため、資産価格の下落を通じて個人消費に影響した可能性は否定できない。
(図表2)S&P500株価指数およびVIX指数/(図表3)米長期金利および社債スプレッド
もっとも、マスターカードがクレジットカード利用額を元に公表した年末商戦の売上高は前年比+5.1%と過去6年で最も高い伸びとなった3としており、小売統計の結果と齟齬が生じている。このため、政府閉鎖の影響でおよそ1ヵ月遅れの公表となった小売統計に関して一部専門家は疑義を示しており、12月の結果を慎重にみる必要があるだろう。

一方、FRBは、不安定な資本市場に配慮して、今年1月の利上げを見送ったほか、当面は政策金利を据え置く方針を示した。FRBは、資本市場を不安定化させている海外経済や国内政治の状況を見極めるほか、資本市場の不安定化が消費者や企業センチメントの悪化を通じでどの程度実体経済に影響するか慎重に見極めるようだ。

なお、19年入り後の資本市場は、政府閉鎖が解消されたことや、FRBの政策スタンス変更なども好感され、本稿執筆(3月11日)時点でS&P500指数は年初からの上昇率が+9.3%となったほか、高金利社債市場のスプレッドも年初来1%ポイント以上低下しており、12月の下落分を完全に取り戻している。

今後もBREXITや米中貿易戦争・輸入自動車問題、債務上限問題など米国内外の重要なイベントが目白押しとなっていることから、資本市場が再び不安定化する可能性も燻っており、経済の下振れリスクとして金融政策も含めてその動向が注目される。
 
1 政府閉鎖の影響で速報値と改定値のデータと推計方法の組み合わせによる変則的な推計。また、成長率は当初公表予定日からおよそ1ヵ月遅れで公表。
2 11月および12月の自動車ディーラー、ガソリンスタンド、食品サービスを除く小売売上高の合計。
3 https://newsroom.mastercard.com/press-releases/mastercard-spendingpulse-u-s-retail-sales-grew-5-1-percent-this-holiday-season/
(経済見通し)成長率は19年+2.3%、20年+1.8%に低下。高まる下振れリスク
当研究所では今回の経済見通しを策定するに当り、その前提として、海外経済の減速や米国内政治の混乱に伴う米実体経済への影響が限定的に留まり、資本市場も安定するとした。この前提の下で、19年は労働市場の回復持続や減税効果に伴い個人消費主導の景気回復が続くと予想する。

設備投資は非常に好調であった18年からは鈍化するものの、法人減税や設備投資の税優遇策もあって19年も底堅い伸びが持続しよう。住宅投資は住宅価格や住宅ローン金利の上昇に伴う住宅取得能力の低下から当面回復は遅れよう。

政府支出は、ねじれ議会に伴う予算審議の遅れによって、10月の会計年度開始時点で歳出上限の引き上げは困難とみられることから、19年末にかけて減少に転じよう。

最後に、外需は米中貿易戦争に伴う追加関税策の強化が回避されるものの、輸入自動車に対する輸入制限措置の強化などから世界的に財輸出の伸びが鈍化する一方、米国内消費の堅調から19年を通じて成長率を押下げよう。

これらを踏まえて、当研究所は19年の成長率(前年比)を+2.3%と、18年の+2.9%から緩やかに低下すると予想する(図表4)。

一方、米景気拡大期間は今年7月を越えると史上最長となるため、景気循環面からは現在の景気拡大は最終局面に近いと考えられる。そのような中、雇用増加ベースの鈍化に加え、減税効果の逓減から、20年の個人消費の伸びは鈍化が見込まれる。また、金融政策や財政政策による景気刺激効果も逓減していく可能性が高い。また、ねじれ議会による議会の機能不全や20年の大統領選挙に向けた思惑から、景気対策の実現も期待できない。

この結果、当研究所は20年の成長率が+1.8%と、2%近辺とみられる潜在成長率を下回る水準まで低下すると予想する。
 
物価は、原油価格の下落により足元では物価上昇圧力が後退している一方、賃金上昇率の加速もあって、基調としての物価は堅調に推移している。当研究所は労働需給の逼迫を背景とした堅調な賃金上昇から引き続き基調としての物価は堅調に推移すると予想している。また、原油価格は足元の50ドル台半ばから19年末に59ドル、20年末に60ドルまで緩やかに上昇することを予想しているため、エネルギー価格は19年は物価押下げとなる一方、20年は物価に中立とみられる。

この結果、エネルギー価格を含む消費者物価の総合指数(前年比)は、19年に+2.1%と18年の+2.4から低下した後、20年には+2.2%へ小幅に上昇すると予想する。

金融政策は、海外経済の減速懸念や不安定な資本市場を背景にFRBは当面政策金利の据え置き姿勢を続けるとみられる。しかしながら、労働市場の回復持続に加え、物価が政策目標近辺で推移していることから、FRBは資本市場の安定を確認した後で政策金利の引き上げを再開すると予想する。当研究所は現時点で19年に2回利上げが実施され、その後は利上げが打ち止めになると予想する。ただし、19年年後半からは来年以降の一段の景気減速も視野に入ることから、利上げが年1回で打ち止めとなる可能性が高まっていることは否定できない。
 
最後に長期金利は、政策金利の引き上げ継続に加え、財政状況の悪化に伴う期間プレミアムの上昇などから19年末に3.3%に上昇し、20年末にかけても3.3%で横這いを予想する。
(図表4)米国経済の見通し
上記見通しに対するリスクは、海外経済の減速と米国内政治の混乱である。海外経済では、欧州と中国の動向に注目。EUや英国、中国の総合PMIは18年以降低下が顕著となっており、景気拡大を示す50の水準が視野に入ってきている(図表5)。
(図表5)総合PMI(主要国別) BREXITに伴う英国、欧州経済の混乱が世界的な金融危機の引き金となることや、米中貿易戦争の激化に伴い中国経済が大幅に減速し、政情不安に繋がる場合には、世界的な景気後退や資本市場の不安定化を通じて米国経済に影響しよう。

また、米国内政治では、昨年12月の政府機関の閉鎖にみられたように、トランプ大統領と野党民主党の対立は激化している。

早期の公表が見込まれるモラー特別検察官の報告書次第では、トランプ大統領の弾劾裁判開始リスクが高まるほか、20年の大統領選挙も睨んで下院民主党が調査権を行使してトランプ大統領に政治的プレッシャーをかけ続けることが見込まれる。

このため、ねじれ議会で議会が機能不全となり、20年度予算や債務上限の審議は難航が予想されるほか、トランプ大統領が自身の権限で実行可能な安全保障政策や通商政策でより極端な政策に走ることが懸念される。また、トランプ大統領が債務上限の引き上げを政治的な駆け引きに利用する場合には、最悪の場合、米国債がデフォルトする可能性もあるため、米実体経済への影響が懸念される。

2.実体経済の動向

2.実体経済の動向

(労働市場、個人消費)労働市場の回復が持続。消費者センチメントの動向に注目
非農業部門雇用者数(対前月増減)は、10年10月から19年2月まで統計開始以来最長となる101ヵ月連続の増加となっているほか、失業率も3.8%とおよそ20年ぶりの水準に低下している(図表6)。

一方、2月の雇用増加者数は前月比+2.0万人(前月:+31.1万人)に留まり、雇用増加ベースの急激な鈍化がみられた。このため、企業の採用意欲は強い(図表7)ものの、2月の結果は労働市場の回復長期化に伴い雇用確保が困難になっている状況を反映した可能性がある。ただし、民間のADP統計では2月の雇用増加数が+18.3万人(前月:+30.0万人)と+2.0万人との乖離が大きくなっていることから、2月の雇用増加数は過小評価されている可能性が考えられる。

いずれにせよ、労働力不足の業種や技能レベルが拡大している中で18年の月間平均増加ペース(+22.3万人増)のような20万人超を維持するのは難しくなっており、雇用増加ペースは緩やかに鈍化しよう。
(図表6)米国の雇用動向(非農業部門雇用増と失業率)/(図表7)大企業、中小企業の採用計画
一方、18年10-12月期の個人消費は、3%台半ばの高い伸びとなっていた前2四半期からは低下したものの、堅調な水準を維持している(図表8)。雇用者数が順調に増加したことに加え、賃金上昇や個人所得減税などにより実質可処分が前期比年率+4.2%となるなど所得が回復したことが大きい。
(図表8)個人消費支出(主要項目別)および可処分所得/(図表9)消費者センチメントおよび米株価指数
雇用者数や可処分所得の増加は今後も個人消費の後押しとなることが予想される一方、今後の個人消費を占う上で消費者センチメントの動向が注目される。消費者センチメントは、依然として高水準を維持しているものの、株式市場が下落に転じたこともあり、昨年秋口以降は頭打ちがみられる(図表9)。

前述のように19年入り後、株式市場が安定したこともあり、消費者センチメントは一部底打ちの動きもみられるが、今後再び資本市場が不安定化することや、米中貿易戦争に伴う対中関税により、中国製商品価格の上昇が明確になってくる場合には、消費者センチメントは一段の水準調整される可能性があるため、個人消費への影響が懸念される。
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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

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