2019年03月08日

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1. はじめに

大阪のオフィス市場では、まとまった空室を確保することが困難な状況が続いている。このような需給環境を反映し、成約賃料は上昇している。今後も、新規供給計画は限定的なことから、需給が逼迫した状況が続くと見込まれる。本稿では、大阪のオフィス市況を概観した上で、2023年までの賃料予測を行う。
 

2. 大阪オフィス市場の現況

2. 大阪オフィス市場の現況

2-1. 空室率および賃料の動向
全国主要都市の空室率は、いずれの都市も低下傾向で推移している。三幸エステートによると、大阪市の空室率(2018年12月時点)は3.3%となり、前年同月の4.7%から大幅に改善した。大阪のオフィス市場では、まとまった空室を確保することが困難な状況が続いている(図表1)。

大阪市の空室率を規模別にみると、全ての規模1で低下傾向が継続している。2018年12月時点の空室率は、全ての規模でファンドバブル期の水準を下回り、2000年以降の過去最低水準を更新した。特に、大規模ビルの空室率は、2016年以降急速に改善が進んでおり、1.7%まで低下した。(図表2)。
図表-1 主要都市のオフィス空室率/図表-2 大阪オフィスの規模別空室率
全国主要都市の成約賃料は、空室率の改善を背景に上昇が続いている。大阪市の成約賃料(2018年下期)も前期比+1.7%、前年同期比+2.9%の上昇となり、ファンドバブル期(2006年~2008年頃)の水準に回復した(図表3)。
図表-3 主要都市のオフィス成約賃料(オフィスレント・インデックス)
2018年の空室率と成約賃料の変化を主要都市で比較すると、大阪市では、空室率が大きく改善した一方で、賃料の上昇は小幅に留まった(図表4)。

賃料と空室率の関係を表した大阪市の賃料サイクル2は、2012年下期を起点に「空室率低下・賃料上昇」局面が続いている。前述の通り、空室率は過去最低水準に低下し、成約賃料は、ファンドバブル期と同水準に回復したことで、市況のピークが見えはじめたことから、成約賃料の伸びがやや鈍化したと思われる(図表5)。
図表-4 2018年の主要都市のオフィス市況変化/図表-5 大阪オフィス市場の賃料サイクル
 
1 三幸エステートの定義による。大規模ビルは基準階面積200坪以上、大型は同100~200坪未満、中型は同50~100坪未満、小型は同20~50坪未満。
2 賃料サイクルとは、縦軸に賃料、横軸に空室率をプロットした循環図。通常、(1)空室率低下・賃料上昇→(2)空室率上昇・賃料上昇→(3)空室率上昇・賃料下落→(4)空室率低下・賃料下落、と時計周りに動く。
2-2. 需給動向
三鬼商事によると、大阪ビジネス地区では、2014年以降の新規供給が限られる中、築古オフィスビルの滅失は増えており、賃貸可能面積(総供給面積)は微増に留まっている(図表6)。
図表-6 大阪ビジネス地区の賃貸可能面積・賃貸面積・空室面積
一方、賃貸面積(総需要面積)は2011年以降、8年連続で増加している。賃貸可能床面積は、8年間で7.7万坪の増加(212.4万坪⇒220.1万坪)であったの対し、賃貸面積は26.7万坪の増加(187.2万坪⇒213.9万坪)と大幅な増加となった。

月次の増減を確認しても、賃貸面積は、着実な増加を示しており、大阪のオフィス需要の底堅さが窺える(図表7)。

結果、2018年末の大阪ビジネス地区 の空室面積は6.2万坪(前年比▲1.9万坪)まで減少し、ファンドバブル期のボトムである9.4万坪(2007年末)を下回った。
図表-7 大阪ビジネス地区の賃貸可能面積・賃貸面積・空室面積の増減
大阪府の就業者数は、増加傾向で推移しており、2018年第四半期には449.2万人(対前年同期+10.9万人)に達した(図表8)。このような就業者の増加が大阪のオフィス需要を下支えしている。今後も、2025年の大阪万博開催の経済波及効果3への期待などから、就業者が更に増加することが見込まれる。

また、大阪府の2018年12月の有効求人倍率は1.77と、全国平均(1.63)を上回り、労働市場は逼迫した状況が続いている。人手不足が深刻化するなか、東京都心部の状況4と同じく、優秀な人材の確保を目的としたオフィス環境の改善に対する意識が高まっている。そのためには、一定程度の賃料負担を許容する企業が増えており、築浅の高機能ビルに対するニーズは強い。

また、優秀な人材を確保するために、働く場所に関して多様な選択肢を用意し、従業員の働きやすさを担保する動きも始まっている。コワーキングスペース大手のWeWorkは、2018年に竣工した「なんばSkyO(なんばスカイオ)」に拠点を開設した。オフィス需要の新たな担い手となる可能性もあり、今後の事業展開は注視したい。
図表-8 大阪府の就業者数の増減数(対前年同期)
 
3 経済産業省「大阪・関西における2025年国際博覧会の開催に向けて」によれば、大阪万博の入場者は約2,800万人、経済波及効果は約2兆円と試算されている。
4 吉田資「東京都心部Aクラスビルのオフィス市況見通し(2019年)」ニッセイ基礎研究所、不動産投資レポート、2019年2月15日
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金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

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【大阪オフィス市場の現況と見通し(2019年)】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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