2019年02月19日

不動産開発と容積率について考える

金融研究部 准主任研究員 渡邊 布味子

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4---- 容積率の緩和(上乗せ)を活用した不動産開発

容積率の緩和(上乗せ)とは、政策や法令の変更によって建物の容積率が増加することをいう。具体的には、(1)地区計画等、(2)総合設計、(3)国家戦略特区の制度を挙げることができる。
(1)地区計画等
地区計画等は、既存の都市計画を前提に、ある一定のまとまりを持った「地区」を対象に地域の実情に応じてきめ細かい規制を行う制度である。この際、指定容積率を上乗せして容積率が緩和5されることがある。例えば、東京都中央区において2019年7月に予定される地区計画等では、銀座地区に建築するホテルに最大400%など、地区ごとに定められた誘導用途の建物に容積率が上乗せされる(図表5-1)。また、後述する国家戦略特区と地区計画をあわせた事例もある。福岡市の「天神ビッグバン」では、国家戦略特区で航空法6の規制を、地区計画等で容積率の規制を緩和している(図表5-2)。
(図表5-1)東京都中央区の地区計画/(図表5-2)福岡市「天神ビッグバン」
 
5 より厳しい規制がなされることもある。
6 航空法の規制エリアでは、一定以上の高さの建物を建てられないため、容積率の緩和があっても容積率が未消化となる。
(2)総合設計
総合設計は行政との協議・許可により容積率等を緩和する制度である。敷地面積、敷地内の空地(くうち)等の条件を満たし、緑化推進のための樹木、高齢者住宅や子育て支援施設などを設置することで、各施設の設置面積に係数を乗じて最大400%の容積率が上乗せされる(図表6)。住宅系用途の設置に重点が置かれるため、高層マンションエリアに適した制度だと言える。

なお、総合設計は小規模の土地にはあまり適さない。空地の設置などにより建物を建てることのできる面積が小さくなり、結果的に容積の上乗せがあっても全体の床面積が減少してしまうケースがあるためである。また、オフィスビルの建替えに適用する場合、住宅用途や付帯サービス施設の賃料水準(月坪当たり)がオフィスビルより低くなるため、開発利益や建替え後の収益性について十分な検証が必要となる。
(図表6)総合設計の事例(イメージ図)
(3)国家戦略特区
「国家戦略特区」7は、「世界で一番ビジネスをしやすい環境の整備」を目的とする制度で、アベノミクスの看板政策の1つである。大規模な土地を対象に、建物グレードや設置施設、周辺への社会貢献などを盛り込んだ開発計画を、国・地方公共団体と協議し決定することになるが、そのなかで容積率の緩和が認められる。

例えば、「東京ミッドタウン日比谷」(2018年竣工)は2棟の建物を建替えて、国際的なビジネス拠点として整備した事例である。指定容積率900%に550%が上乗せされて容積率は1450%に拡大した。この日比谷エリアはかつて鹿鳴館のあった東京の中心エリアであったが、近年は商業繁華性や賃料が相対的に低下傾向にあった。建替えによって誕生した大規模複合ビルにはベンチャー拠点や商業施設、シネマ、カンファレンスセンターなどこれまでになかった集客施設が新たに設置されたことで、様々な目的を持つ人々が訪れる街となり、オフィス賃料も都内トップクラスの水準となっている(図表7)。容積率の大幅な緩和によって実現するこうした不動産開発は、建物所有者のブランドイメージの向上に貢献するなど、お金の損得だけで計れない新たな価値を創出することになる。
(図表7)「東京ミッドタウン日比谷」に開発計画
 

5---- おわりに

5---- おわりに

本稿では、不動産開発と容積率の関係を確認し、容積率の緩和を活用した開発事例について述べたが、大都市中心部(商業地域8)では用途変更による開発も多く行われている。商業地域ではほぼ全ての用途の建物を建てることができるため、地域のニーズに対応した建替えが可能となる。

例えば、大阪市の中心部ではインバウンド需要の高まりや職住近接のニーズを背景に、駅至近(直結)の場所に建つオフィスビルが解体されてホテルやタワーマンションへ建替える動きが目立っている。今後の都市部の人口集中が加速するなか、容積率の高いエリアを中心に時代のニーズを反映した不動産開発が行われて、街の新陳代謝と活性化が一層進むものと思われる。
 
8 13種類ある用途地域の一つであり、用途地域はその土地に建てられる住居、商業、工業等の建物の用途を定めたものである。
 
 

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金融研究部   准主任研究員

渡邊 布味子 (わたなべ ふみこ)

研究・専門分野
不動産市場、不動産投資

(2019年02月19日「基礎研レポート」)

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