2019年01月25日

長期化する連邦政府機関閉鎖-政府閉鎖による実体経済への影響が拡大

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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(経済への影響):毎週GDPが▲0.13%ポイント毀損。消費者、企業マインドの悪化を懸念
政府閉鎖が継続していることもあり、実体経済への影響を評価するのは難しい。現在、政府閉鎖に伴い80万人の連邦政府職員に給与が未払いとなっているほか、連邦政府ビルの警備員など政府機関の閉鎖によって中小企業を中心に1万社3程度の請負会社の職員給与も未払いとなっている。

大統領経済諮問委員会(CEA)は、これら連邦政府職員と請負業者に対する影響を反映して政府閉鎖によるGDPへの影響額は、週毎に▲0.13%ポイントの毀損と試算した。この試算に基づけば、政府閉鎖により10-12月期のGDPは▲0.2%ポイント、1-3月期は現時点までに▲0.4%ポイント減少したとみられる。このため、政府閉鎖が早期に解消される場合には、実体経済への影響は限定的となろう。一方、CEAのハセット委員長は政府閉鎖が3月末まで継続した場合には1-3月期のGDP成長率がゼロになる可能性を示唆しており、閉鎖期間の長期化に伴い実体経済への影響は拡大が見込まれている。もっとも、これらの経済損失は政府閉鎖が解消された後に無給労働した連邦政府職員に対しては過去に遡って給与が支給されるため、解消後に相当程度復元される可能性が高い。

一方、一連の政府閉鎖が経済により深刻な影響を与える可能性として、資本市場の不安定化や消費者、企業センチメントの悪化が懸念される。米中貿易戦争や海外経済の減速懸念、FRBの独立性に対する懸念を含む金融政策などを背景に、米国経済の減速懸念が意識され、12月以降株式市場は不安定な動きとなっている(図表5)。

消費者センチメントや企業センチメントは依然として高い水準を維持しているものの、昨年の秋口からのピークアウトが明確となっている(図表5、図表6)。このような中で税還付の遅延や市民サービスの停滞による市民生活への影響、主要な経済指標が発表されないことでそれらの統計に基づく民間企業の購買や投資決定の先送りなどによって、消費者や企業センチメントが悪化する可能性は否定できない。

実際、一連の閉鎖問題にみられるように、1月からのねじれ議会で与野党対立に伴う議会の機能不全が鮮明となっている。これから3月には米国債のデフォルトリスクを孕む連邦政府債務の上限引き上げ問題を控えているほか、20年度の予算編成作業など重要な法案審議が予定されている。さらに、議会が機能不全となっている状況では、景気が減速した場合の景気対策などの審議がまとまらない可能性が高い。

これらの国内政治の混乱を嫌気し、資本市場の不安定な状況が長期化する場合や、消費者や企業のセンチメントが大幅に悪化する場合には消費や設備投資の鈍化から実体経済への影響は大きくなろう。
(図表5)消費者センチメントおよび米株価指数/(図表6)ISM製造業・非製造業指数
 
3 ワシントンポスト”Nearly 10,000 companies contract with shutdown-affected agencies, putting $200 million a week at risk”(19年1月16日) https://www.washingtonpost.com/graphics/2019/business/contractors-shutdown/?utm_term=.95d04f99dc98
 

3.今後の見通し

3.今後の見通し

本稿執筆時点(1月25日)で政府閉鎖解除の目処は立っていない。1月29日に予定されていたトランプ大統領の施政方針演説(一般教書)は閉鎖解除後に行うことが既に発表されたことから、今月中に閉鎖が解除される可能性は低いとみられる。

共和党、民主党議員ともに政府機関の早期再開方針では一致しているものの、大統領が再開の条件としている「国境の壁」予算でどのように大統領と折り合いをつけるのか、解決の糸口を見出せていない。

一方、AP-NORCアメリカ全国世論調査センターが実施した最近(1月16~20日)の世論調査4では、国民の65%が政府閉鎖を「深刻な問題」と回答しているほか、60%が「トランプ大統領」が政府閉鎖の責任を負っていると回答しており、「議会民主党」(同31%)や「議会共和党」を上回っている。

前述のように1月28日からの納税申告や税還付手続きでは大きな混乱が見込まれているため、これまで以上に政府閉鎖のネガティブな側面が可視化される可能性が高い。このため、世論調査結果も踏まえて、来月以降にトランプ大統領は民主党と一定程度妥協せざるを得なくなるだろう。

また、トランプ大統領が、民主党の求めるDACAなどの移民問題での妥協と引き換えに「国境の壁」予算を確保する場合には、同大統領のコア支持層からの評価を下げる可能性もあり、同大統領としても難しい判断を迫られよう。

いずれにせよ、ロシア疑惑捜査が佳境を向かえる中で、政府閉鎖問題はトランプ大統領の政治資本を毀損させる可能性が高い。

トランプ大統領が年初から野党民主党との対立を先鋭化させたことで、新議会では同大統領が目指す経済政策で成果を挙げるのは益々難しい状況となったと言えよう。
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2019年01月25日「Weekly エコノミスト・レター」)

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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