2019年01月25日

長期化する連邦政府機関閉鎖-政府閉鎖による実体経済への影響が拡大

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.はじめに

米国では、暫定予算の期限切れに伴う連邦政府機関の一部閉鎖が持続しており、閉鎖期間は本稿執筆時点(東京時間1月25日)で34日と史上最長を更新している。政府機関の閉鎖に伴いおよそ38万人の連邦政府職員が一時帰休となっているほか、42万人が無給で業務を継続させられており、合計80万人が影響を受けている。1月25日には政府閉鎖から2回目の給与支給日を迎えるが、トランプ大統領と議会民主党の対立が続いており、政府機関再開の目処は立っていない。

連邦政府機関の閉鎖が長期化するにつれて、米実体経済への影響が懸念されている。大統領経済諮問委員会(CEA)は、政府機関の閉鎖に伴う経済損失について週毎にGDPを▲0.13%ポイント毀損させると試算しており、影響額は閉鎖期間の長期化に伴い拡大するとしている。米中貿易戦争などに伴う景気減速懸念が拡がる中で、連邦政府機関の閉鎖は、実体経済に対する更なるリスクとなっている。

本稿では連邦政府機関閉鎖の仕組みや、今回の閉鎖の背景について整理したほか、米経済への影響についてまとめた。連邦政府閉鎖に伴う経済への影響は不透明な部分が多いものの、閉鎖が解除されれば相当程度は復元されるとみられる。もっとも、政府閉鎖に関する一連の政治的な混乱から、今後の政治的な不透明感を嫌気し、資本市場の不安定化や、好調な消費者や企業のセンチメントが悪化する場合には、実体経済への影響は拡大しよう。
 

2.連邦政府機関の閉鎖と経済への影響

2.連邦政府機関の閉鎖と経済への影響

(連邦政府機関の閉鎖とは):合衆国法典の「不足金禁止条項」に基づく措置
連邦政府機関の閉鎖は、歳出法の不成立に伴う資金不足によって発生する。合衆国憲法は、第1章(立法部)、第9条(連邦立法権の制限)第7項で「国庫からの支出は法律で定める歳出予算によってのみ、これを行わなければならない」1と明記しており、連邦政府機関に対して歳出予算によらない国庫からの支出を禁止している。
(図表2)過去の連邦政府機関閉鎖日数(上位) また、公式法令集である合衆国法典の31編、第1341条の「不足金禁止条項」(Antideficiency Act)では、資金不足が解消されない場合に、法律によって継続的な活動を許可される場合を除き、政府機関は活動を停止しなければならないことを定めている。

このため、通年予算や暫定予算の期限が切れて資金不足が発生する場合には一部の業務を除いて連邦政府機関の閉鎖が発生する2

トランプ政権下では、18年1月と2月にも政府閉鎖が発生しており、12月からの閉鎖は3回目となる。

一方、12月からの閉鎖期間(1月24日時点)は34日となっており、クリントン政権下で95年12月からの21日間、カーター政権下で78年9月からの17日間、オバマ政権下で13年9月からの16日間などを上回り、史上最長となった(図表2)。

なお、政府閉鎖は76年から79年にかけては高頻度で発生していたが、議会調査局(CRS)によれば、当時の連邦政府機関は資金不足の状態となっても将来の予算成立を見越して通常業務を継続していたようだ。その後、80年および81年に当時のシビレッティ司法長官が「不足金禁止条項」の厳格な適用を求める意見書を提出したほか、90年には同条項の例外規定が「国民の生命や財産保護に不可欠な機能」と明確化されたため、連邦政府機関の閉鎖に伴う業務への影響範囲は70年代と90年以降とでは大きく異なる。

一方、政府機関の閉鎖対象については、前述のクリントン政権下とオバマ政権下での閉鎖が全連邦政府機関となっていたのに対し、今回の閉鎖では15の省のうち、閉鎖対象が9省に留まるなど様相が異なっている。これは、19年度の歳出法案12本の内、国防総省などを含む5本については既に通年の予算が成立しており、7本の暫定予算が期限切れとなったためだ。実際、歳出額でみると19年度の裁量的経費1.3兆ドルのうち、期限切れとなっている金額は、国土安全保障省を含む3,200億ドル分と全体の25%に過ぎない(前掲図表1)。
 
1 アメリカンセンターJAPANのアメリカ合衆国憲法参照 https://americancenterjapan.com/aboutusa/laws/2566/
2 連邦政府機関閉鎖に関して、詳しくは議会調査局(CRS)の”Shutdown of the Federal Government: Causes, Processes, and Effects“(18年12月10日)を参照。https://fas.org/sgp/crs/misc/RL34680.pdf
(連邦政府閉鎖の背景):「国境の壁」予算を巡るトランプ大統領の変心
連邦政府機関の一部閉鎖を招いた要因は、トランプ大統領と民主党による「国境の壁」予算を巡る攻防と、同大統領の変心である。19年度予算(18年10月~19年9月)審議では、昨年11月の中間選挙を前に「国境の壁」予算に関して、トランプ大統領の要求額(50億ドル)と野党民主党の要求額(16億ドル)に開きがあり、審議の難航が予想された。このため、国土安全保障省を含む7本の歳出法案が中間選挙後の12月を期限とする暫定予算となっていた。

中間選挙後に再開された予算審議では、トランプ大統領が引き続き50億ドルを要求していたものの、民主党首脳部との12月11日の会談を経て、18日にホワイトハウスのサンダース報道官が、トランプ大統領が予算額で譲歩する可能性を示唆した。この動きを受けて、19日に上院は「国境の壁」予算の審議は継続するものの、21日の暫定予算の期限を前に、2月8日を期限とする50億ドルを含まない暫定予算を可決した。

しかしながら、上院可決後にトランプ大統領が共和党保守議員を含む支持者から予算譲歩に対する非難を受けると、同大統領は50億ドルを含まない歳出法案に署名しないスタンスに変心した。このため、下院は上院の暫定予算案を修正し、大統領の要求通り57億ドルの予算を盛り込んだ法案を翌日可決した。この結果、暫定予算の期限切れ直前に、上下院で異なる予算案が可決された状況となった。

上院では、下院案に対する民主党議員の反対により、議事妨害を回避して下院案を可決するのに必要な60議席の確保が困難とみられていたほか、上院予算案を可決した後、クリスマス休暇を前に散会していたため、議員の多くが地元に帰っており、審議が困難な状況となっていた。このため、共和党のマコネル院内総務は、暫定予算の審議を断念し、21日からの政府閉鎖が決定した。

19年入り後の新議会では、過半数を奪還した下院民主党が主導し、昨年上院が可決した50億ドルを含まない暫定予算案を可決した。一方、上院では共和党が57億ドルと3年間のDACA維持を含む暫定予算案を1月24日に提出したものの、採決にかけるかを判断するための投票段階で否決されており、暫定予算案が可決される目処は経っていない。

これらの経緯を後掲図表3にまとめた。
(図表3)連邦政府機関閉鎖の経緯(1月24日時点)
(連邦政府閉鎖の状況):連邦政府職員80万人の給与未払い、多くの政府プログラムも遅延
12月21日からの閉鎖では、前述の9省に加え、環境保護局(EPA)や航空宇宙局(NASA)など多くの局や規制委員会も閉鎖対象となっている。この結果、連邦政府職員のおよそ38万人が一時帰休を余儀なくされているほか、42万人が無給での勤務を強いられており、合計80万人の給与が未払いとなっている。

一方、各政府機関における一時帰休職員の割合は省庁によって幅があり、国土安全保障省や司法省ではシェアが1割台に留まっている一方、運輸・住宅都市開発省(HUD)などでは9割超の職員が一時帰休となっている(図表4)。
(図表4)主要省庁の一時帰休率と影響を受ける業務
連邦政府職員の一時帰休などに伴い、連邦政府が提供する多数のサービスが一部休止や通常より遅延する事態となっている。例えば、米企業が外国人の採用に際して、米国での就労資格を確認するのに活用されるE-Verifyシステムは国土安全保障省の閉鎖に伴いサービスが停止されている。

また、経済統計を推計、公表している商務省センサス局や経済分析局(BEA)の閉鎖に伴い貿易統計や小売統計の発表が遅延しているほか、30日に予定されているGDP統計についても遅延する可能性が濃厚となっている。

一方、交通省所管で空港保安検査などを担当する運輸保安庁(TSA)では欠勤率が7%~10%と1年前(2.5%~3%)の倍以上になっており、一部空港で荷物検査にかかる時間が増えている。

さらに、財務省の外局である内国歳入庁(IRS)では、1月28日から納税申告受付と税還付開始を予定しているが、担当職員が不足しているほか、税制改革に伴う大幅な税制ルール変更への準備不足などが指摘されており、税還付が遅れる懸念が強まっている。このため、トランプ政権は、政府閉鎖当初に3万5千人の職員を無給労働、4万5千人を一時帰休としていた方針を1月15日に転換し、一時帰休の職員3万人に対して無給で職場に呼び戻される事態となっているが、納税申告対応が混乱することは不可避とみられている。
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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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