2019年01月17日

EIOPAによる2018年保険ストレステストの結果について(3)-市場ストレスシナリオの影響と次のステップ-

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1―はじめに

EIOPA(欧州保険年金監督局:European Insurance and Occupational Pensions Authority)は、2018年12月14日に「2018年 EIOPA保険ストレステスト報告書(2018 EIOPA Insurance Stress Test Report)」(以下、「今回の報告書」という)を公表1した。この報告書により、EIOPAは、2018年に実施された欧州保険会社に対するストレステストの結果に基づく欧州保険会社の脆弱性と耐性力に関する状況を報告している。

その中で、前回及び前々回のレポートでは、今回のストレステスト及び報告書の概要及び報告書の第2章のストレステストの結果の中から、ベースラインの特徴及び自然大災害シナリオの影響について報告した。今回のレポートでは、第2章のストレステストの結果の中から、市場ストレスシナリオの影響及び結論と次のステップについて報告する2
 
1 EIOPAのプレス・リリース資料 https://eiopa.europa.eu/Publications/Press%20Releases/EIOPA%20announces%20results%20of%20the%202018%20insurance%20stress%20test.pdf
 報告書 https://eiopa.europa.eu/Publications/Surveys/EIOPA%202018%20Insurance%20Stress%20Test%20Report.pdf
2 今回の一連のレポートにおける図表等については、特に断りが無い限り、EIOPAの「2018年 EIOPA保険ストレステスト報告書(2018 EIOPA Insurance Stress Test Report)」からの引用によるものであり、必要に応じて、説明のための数値の強調や翻訳等を行っている。また、図表については、このレポート専用の番号を付けている。
 

2―市場ストレスシナリオの影響-貸借対照表指標―

2―市場ストレスシナリオの影響-貸借対照表指標―

市場ストレスシナリオとしては、YCU(イールドカーブ上昇)シナリオYCD(イールドカーブ下落)シナリオの2つがある。

これらのシナリオの具体的な内容については、保険年金フォーカス「欧州保険ストレステスト2018 (2)-ストレステストのストレスシナリオ及びサイバーリスクに関するアンケートの内容-」(2018.6.4)で説明しているので、このレポートを参照していただきたい。

1|資産負債(Assets over Liabilities AoL)比率
YCU及びYCDシナリオでは、参加グループは負債を上回る資産の総超過額のそれぞれ32.2%及び27.6%を失う。AoL比率への影響については、グループはYCUシナリオと比較してYCDシナリオの方が悪影響を受ける。総比率は、YCDシナリオでは2.8%ポイント、YCUシナリオでは1.9%ポイント減少する(図表1)。

LTG(長期保証)措置及び移行措置を使用しないと、影響はさらに深刻になる。 このような状況下では、両方のシナリオで、グループは負債を上回る資産の総超過額は、YCDシナリオでは▲47.7%、YCUシナリオでは▲53.1%となり、半分近くを失う。これにより、総AoL比率がベースラインシナリオと比較して、YCDシナリオでは3.4%ポイント減少し、YCUシナリオでは3.1%ポイント減少する(図表1)。
図表1 ベースラインとYCU 及びYCD シナリオにおけるAoL 比率(全体)
YCDシナリオのより高い影響は、異なるシナリオの下での異なるAoL比率バケットにわたるグループの分布によっても証明されている。 図表2は、YCUシナリオ(11)よりもYCDシナリオ(14)の方が[100%~105%]バケットに入るグループが多いことを示している。全ての参加者が100%を超えるAoL比率を維持し続ける一方で、ストレス後の100%~105%のAoL比率を有するグループの数は、5グループのみがこの範囲のAoL比率を有するベースラインと比較して、有意に増加する。
図表2 ベースラインとYCU及びYCDシナリオにおけるAoL比率(分布)
参加グループ全てが、LTG措置と移行措置を非適用としても、ベースラインのAoL比率で100%を超えている。 ただし、LTG措置と移行措置を非適用とした場合、YCDシナリオとYCUシナリオの両方で、3つのグループのAoL比率が100%を下回る。つまり、資産の価値はこれらのグループの負債の価値を下回る。 これらそれぞれの対象となっている3つのグループのうち、2つのグループは両方のシナリオで100%を下回り、他の2つのグループは2つのシナリオのうち1つのみで100%を下回る。これら4つのグループは、両方のシナリオで総資産の約10%を占めている(図表3)。YCDシナリオにおける3つのグループの負債を超える資産の総不足額(eAoL)は、合計で175億ユーロになる。一方、YCUのシナリオでは、不足額は41億ユーロになる。
図表3 LTG措置や移行措置を適用しない場合のAoL比率(分布)
2|負債超過試算額(Excess of Assets over LiabilitieseAoL
(1) YCDシナリオの場合
YCDシナリオにおけるeAoLへの影響は、主にTP(Technical Provisions:技術的準備金)(の上昇によるものである。図表4は、シナリオの影響を資産サイドと負債サイドに分けて、YCDシナリオのeAoLの変化の分解を示している。

資産面での最も大幅な減少は、▲14.7%の総合的な影響を有する株式に対するショックを反映している。その他の資産(これは主にユニットリンク契約のために保有されている資産で構成されている)は総額の7.6%減少している。ただし、ユニットリンク契約のために保有されている資産への影響は、対応するTPの同様の減少により相殺されている。社債及び国債の価値は、金利の低下により、それぞれ2.3%及び3.1%増加する。従って、スワップレートの減少はスプレッドの拡大を過剰に補償する。負債面では、TPは金利の低下(ベースラインよりも低いUFR(Ultimate Forward Rate:終局フォワードレー)トを含む)に一致して2.1%増加し、eAoLの減少の大部分を占めている。LTG措置と経過措置は、TPへの当初の影響の半分以上を補填する。

繰延税金負債(DTL)総額の同時減少(▲34.4%)に伴う繰延税金資産(DTA)総額の増加(+ 81.9%)は、シナリオの影響を部分的に吸収する。報告されたDTAとDTLの変化は、国内会計と税法の違い及びストレス後のDTAとDTLの計算に内在する自由度のため、グループ間で大きく異なることが注目される。
図表4 YCDシナリオにおけるeAoLの変化の分解
(2) YCUシナリオの場合
YCUシナリオにおけるeAoLへの全体的な影響は、RP(Risk Premia:リスク・プレミア)の増加後の資産サイドでの著しい損失によるものであり、これはTPの値の大幅な減少を上回っている。図表5に、YCUシナリオのeAoLの変化の分解を示している。これは、いくつかの点でYCDシナリオと対照的である。

国債及び社債はそれぞれ12.8%及び13.0%減少するが、株式は38.5%減少する。ユニットリンク契約及びインデックスリンク契約(その他の資産に含まれる)について保有されている資産もまた、27.6%の総減少となり、重大な影響を受けているが、これは関連するTPの減少によって相殺される。YCUのシナリオでは、不動産投資&ローン及び住宅ローンはそれぞれ27.7%と12.8%減少する。資産価値の減少は、資産サイドへのショックの適用が分離された場合、eAoLがマイナスになるようなものである(図表5のAoLの超過-資産の影響)。ただし、金利の上昇により総TPが急激に減少(▲17.0%)しても、eAoLはプラスのままである。TPの減少は、LTG措置と移行措置の影響によってさらに強化される。

また、YCUのシナリオでは、DTAとDTLの変化(それぞれ+ 170.2%と-32.2%)が規定されたショックを緩和する役割を果たすが、YCDシナリオで述べたのと同じ注意事項が適用される。
図表5 YCUシナリオにおけるAoLの超過の変化の分解
(3) eAoLの相対的な変化
図表6は、参加グループ間のeAoLの相対的な変化の分布を示している。

YCUのシナリオでは、参加グループの半数以上(22)が負債を上回る超過資産の30%以上を失っている。さらに、5つのグループが負債を上回る超過資産の半分以上を失うことになるが、そのeAoLを全て失うグループはない。

YCDシナリオでは、12グループが負債を上回る超過資産の30%以上を失い、1グループはそのeAoLの70%以上を失う。 このシナリオが実現したとしても、全てのeAoLを失うグループはない。
図表6 eAoLの相対的変化の分布

(2019年01月17日「保険・年金フォーカス」)

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