2019年01月10日

【東南アジア経済】ASEANの貿易統計(1月号)~輸出は米中貿易戦争の余波で上下に振れながら鈍化傾向に

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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18年11月のASEAN主要6カ国の輸出(ドル建て、通関ベース)は前年同月比0.8%増(前月:同10.3%増)と大きく低下した(図表1)。輸出の伸び率は昨年前半まで堅調に推移したが、年後半からは米中間の追加関税発動や駆け込み輸出の余波、ベース効果の剥落などを受けて上下に振れながら伸び悩む傾向がみられる。

ASEAN5カ国の仕向け地別の輸出動向を見ると、11月は牽引役の東アジア向け(同1.9%減)と東南アジア向け(同1.4%増)が再び大幅に低下した(図表2)。また相対的に堅調な北米向け(同7.3%増)と低調なEU向け(同3.8%減)についても、それぞれ低下した。
(図表1)ASEAN6カ国の輸出額/(図表2)ASEAN5ヵ国仕向け地別の輸出動向
タイの18年11月の輸出額(ドル建て、通関ベース)は前年同月比0.9%減(前月:同8.7%増)と低下して、2ヵ月ぶりのマイナスとなった。輸出の基調は主要工業製品を中心に堅調に推移してきたが、米中貿易摩擦や世界経済の減速など先行きの不透明感が強まるなかで伸び悩みつつある。一方で輸入額は前年同月比14.7%増(前月:同11.2%増)と上昇した結果、貿易収支は11.8億ドルの赤字となり、前月から9.0億ドル赤字が拡大した(図表3)。

輸出を品目別に見ると、全体の約8割を占める主要工業製品は同0.4%減(前月:同6.8%増)となり、2カ月ぶりに減少した(図表4)。工業製品の内訳を見ると、石油化学製品(同3.9%増)と機械・装置(同0.7%増)は小幅ながら増加したが、主力の電子機器(同7.7%減)や自動車・部品(同4.7%減)、家電製品(同4.7%減)はマイナスとなった。また鉱業・燃料は同21.0%増(前月:同32.1%増)と、石油製品を中心に高水準が続いた。農産物・加工品は同8.4%減(前月:同12.2%増)と大きく低下した。魚の缶詰(同9.9%増)こそ堅調に推移したものの、コメ(同22.4%減)が減少したほか、国際市況が下落している天然ゴム(同25.0%減)とゴム製品(同1.5%増)が引き続き低調だった。
(図表3)タイの貿易収支/(図表4)タイ輸出の伸び率(品目別)
ベトナムの18年11月の輸出額(ドル建て、通関ベース)は前年同月比8.5%増となり、前月の同10.8%増から低下した。輸出の伸び率は、昨年前半に冬季五輪およびサッカーワールドカップの開催、年後半も新型スマートフォン発売のタイミングが前年より早まった影響で電気電子製品を中心に上下に振れている展開が続いているが、増勢は総じて鈍化傾向にある。また輸入額についても前年同月比10.7%増(前月:同19.4%増)と低下した結果、貿易収支は1.5億ドルの黒字となり、前月から8.4億ドル黒字が縮小した(図表5)。

輸出を品目別に見ると、まず輸出全体の約2割を占める電話・部品が同4.1%増となり、新型スマートフォンの発売が昨年より早まった反動で鈍化した前月の同9.7%減から持ち直した(図表6)。一方、コンピュータ・電子部品は同3.5%減(前月:同11.9%増)と大きく低下してマイナスに転じた。アパレル関連では、織物・衣類が同17.5%増(前月:同23.0%増)、履物が同11.4%増(前月:同16.8%増)となり、二桁増を維持した。農産品は、カシューナッツ(同13.7%減)と黒胡椒(同19.4%減)が低迷する一方、コーヒー(同14.4%増)が好調に推移、コメ(同8.7%増)は3ヵ月ぶりのプラスに転じるなど、品目毎にばらつきがみられた。

輸出を資本別に見ると、全体の7割を占める外資系企業が同7.9%増(前月:同7.8%増)の横ばいとなる一方、地場企業が同10.3%増(前月:同19.1%増)と二桁増を維持した。
(図表5)ベトナムの貿易収支/(図表6)ベトナム輸出の伸び率(品目別)
マレーシアの18年11月の輸出額(ドル建て、通関ベース)は前年同月比1.2%増(前月:同19.7%増)と大きく低下した。輸出の基調は主力の電気・電子製品と鉱物性燃料を中心に概ね堅調に推移しているが、伸び率はベース効果の剥落により鈍化傾向にある。また輸入額についても前年同月比4.7%増(前月:同13.3%増)と大きく低下した結果、貿易収支は18.1億ドルの黒字と、前月から21.2億ドル黒字が縮小した(図表7)。

輸出を品目別に見ると、全体の約4割を占める機械・輸送用機器は同2.7%減(前月:同23.6%増)と、主力の電気・電子製品(同2.0%減)の減少を受けて2年半ぶりのマイナスとなった(図表8)。また鉱物性燃料は同27.5%増(前月:同35.5%増)と好調が続いた。原油(同17.3%増)や石油製品(同48.5%増)、天然ガス(同26.0%増)が引き続き二桁増となった。このほか、化学製品(同5.1%増)が底堅い伸びを維持する一方で、動植物性油脂(同21.1%減)は引き続き大幅マイナスとなった。
(図表7)マレーシア貿易収支/(図表8)マレーシア輸出の伸び率(品目別)
インドネシアの18年11月の輸出額(ドル建て、通関ベース)は前年同月比3.3%減(前月:同4.2%増)と低下し、約1年半ぶりのマイナスとなった。輸出は主力のパーム油とゴム製品が落ち込むなかでも自動車や電気機械を支えに堅調に拡大してきたが、昨年後半からは伸び悩みが顕著になってきている。一方で輸入額は前年同月比11.7%増(前月:同23.7%増)と高水準で推移した結果、貿易収支は20.5億ドルの赤字となり、前月から2.7億ドル赤字幅が拡大した(図表9)。

輸出を品目別に見ると、石油ガスは同5.8%増(前月:同3.3%増)と小幅に上昇したが、全体の9割を占める非石油ガスは同4.1%減(前月:同4.3%増)と低迷した(図表10)。非石油ガスの内訳をみると、まず輸出全体の7割を占める製造品が同6.5%減(前月:同5.8%増)と大きく低下した。製造品のうち、自動車・同部品(同6.3%増)こそ増加したものの、動植物性油脂(同18.9%減)やゴム製品(同17.0%減)、機械(同17.0%減)などが減少した。一方で鉱業品は同9.2%増(前月:同1.5%減)、農産品は同0.9%増(前月:同9.4%減)となり、それぞれ上昇してプラスとなった。
(図表9)インドネシアの貿易収支/(図表10)インドネシア輸出の伸び率(品目別)
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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

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