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分断進む米国社会ー中間選挙結果が映し出す米国
基礎研REPORT(冊子版)1月号

櫨(はじ) 浩一
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1―本音が言えない米国社会
2018年11月初めに行われた米国の中間選挙では、与党共和党が上院で多数となったものの、下院では野党民主党が多数となった。これまで上下両院で多数だった共和党のトランプ大統領は、今後は政策運営がより難しくなると見られる。しかし、マスメディアを通じて日本から米国の動きを見ている我々には、差別的発言を繰り返すトランプ大統領が、依然として多くの人から支持され続けていることには不思議な感じも受ける。
「政治的正しさ」(political correctness)という言葉を初めて聞いたのがいつのことだったか思い出せないが、米国では人前で本音を言ってはいけないことが山のようにある。日本は建前主義で、米国では本音で話をするというのは誤解で、文化や風俗習慣、思想などが異なる多様な人々が折り合っていくには、他人に対する配慮が不可欠だ。摩擦を避けて価値観を共有する人だけで集まるようになるということも起こる。「破綻するアメリカ」(会田弘継著)は、米国で起きているポピュリズムの興隆は文化的反動だという見方を紹介している*1。高学歴エリートが進歩的価値観に基づいて伝統的価値観を否定することに対する反発が大きくなっており、ジャーナリズムから厳しい批判を浴びていても言いたいことを堂々と述べる大統領に多くの人が共感を覚えている。
2―白人労働者の不満
1993年に誕生したビル・クリントン大統領は中道的な政治スタンスをとったが、その後の民主党内では、2016年の大統領選挙のサンダース現象に見るように非常にリベラルな支持者の勢力が増した。ジャーナリストや知識層といった高学歴でリベラルな人達は、環境問題や人権や移民・難民問題に関心が強く、発展途上国の貧困や人権問題も解決しようとする。こうした理想主義的な考えから出てくる議論は、豊かな米国民に負担と自制を求めるものとなりがちで、直面している苦境の改善を求める「ヒルビリー」の共感を得られていない。海外製品の流入によって職を失ったり、賃金の低迷に苦しんだりしている人達には、社会的エリートは自分達を見捨てていると感じられてしまい、アメリカ第一主義を唱えるトランプ大統領ならば米国民である自分達を守ってくれるという期待を抱かせているのではないだろうか。
3―固定化する格差
工場閉鎖で衰退しているラストベルトと呼ばれる地域の複雑な家庭で育ちながら、なんとか「ごくふつうの生活」を手に入れることに成功したJ.D.ヴァンスは「アメリカン・ドリームを生きる幸運に恵まれた私たちは、つねに不安に追い立てられているのだということも知ってほしい」と述べている。これは日本でも自分の生活水準を中程度だと考えている人の多くが感じているものと同じなのではないかと考え込んでしまうのである。
*1 「破綻するアメリカ」会田弘継、(岩波書店、2017年)
*2 「ヒルビリー・エレジー~アメリカの繁栄から取り残された白人たち」、J.D.ヴァンス(関根光宏・山田文訳、光文社、2017年)
*3 ""Our Kids: The American Dream in Crisis"",Robert D. Putnam,(Simon & Schuster, 2015)"
(2019年01月10日「基礎研マンスリー」)
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