2019年01月07日

データで見る「夫婦の働き方」と子どもの数-超少子化社会データ考-変わる時代の家族の姿

生活研究部 人口動態シニアリサーチャー 天野 馨南子

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3――夫婦の働き方と子どもの数の背景~変わる「理想の夫婦」像

1|専業主婦希望の若い女性は18
 
「共働き世帯の方が子どもの数が多い」というデータをみると、必ずと言っていいほど「子どもが増えお金が足りないから、いたしかたなく妻が働きに出ているのではないか」という声が一部の高齢層からあがる。「嫌々妻が働きに出ているのはかわいそうだ、やむなしの選択だ」という解釈も散見される。
 
しかし、次のデータはそのような解釈に疑問を投げかける。
2015年の国の大規模調査の結果をみると、18歳から34歳の未婚女性に対して「理想のライフコース」をたずねた質問において、「専業主婦が理想のライフコースである」と回答した割合は18%となっており、専業主婦が理想の若い独身女性は5人に1人未満である。調査結果からは、現代の若い独身女性の理想は約7割(再就職コース34.6%+両立コース32.3%)が子どもを持ちつつ働くライフコースであった(図表4)。
専業主婦を理想とする女性の割合は、バブル崩壊の最中の1992年の調査では3人に1人であったが、その後5年で急減し、2割を切る状態が続いている(図表5)。
 
なぜ大きなライフコースの理想転換が若い女性たちの中でおこったのか。
これについては、専業主婦理想が3人に1人から5人に1人に急減した時代にちょうど就職をした筆者にはわからなくもない記憶がある。
【図表4】 18歳~34歳の独身女性の「理想とするライフコース」(2015年、%)
【図表5】 専業主婦を理想のライフコースと回答した18歳~34歳の独身女性割合(%)
1990年代半ば当時、金融機関の再編・倒産が相次いで起こっていた。当時の女子大生、新入社員女性たちには、エリートと思われていた銀行員の妻となった先輩たちからの「夫のボーナスが何十万も減ったから、もう離婚したい」といった声まで聞こえてきた。

当時の若い女性にとってあまりにも夢のない近い世代の夫婦の姿が露見し、ああはなりたくない、といったため息もあがっていた。そのように、当時は夫の稼ぎに頼りきるハイリスク・インカム型ライフコースに、若い独身女性たちが大きな疑問符を持ち始めた時代であった。
 
しかし、そうではあるものの、悲観するというよりも、だったら自分たちも稼げばいいのだ、といったように「リスクヘッジ・インカム型への理想転換」が行われた様子がデータからは垣間見える。若い女性たちの非常にフレキシブルな前向きな感性を表しているデータともいえるのではないだろうか。
2|専業主婦希望の未婚男性は、どの年齢層も1割程度
 
共働き世帯のほうが子どもが多く、大半の女性が共働きで子を持つ家庭を理想のライフコースとしている、というデータを示した。
 
では、夫となる独身男性側の理想のライフコースはどうなっているかを次に見てみたい(図表6)。
2015年の国の大規模調査の対象となった10代から40代後半の未婚男性の各年齢ゾーンにおいて、専業主婦を妻とすることが理想と回答している男性は1割弱程度にとどまった。
先ほどの女性の結果と合わせても、現代の男女はその大半が共働き子持ち家庭を理想としているため、独身時代の理想にそったライフコースを進んでいるカップルに子どもが多い傾向が見られる、ということが出来るだろう。
【図表6】 年齢ゾーン別 男性の理想のライフコース (%)

4――おわりに

4――おわりに

本稿の最初に示したように、非農林業における夫婦の働き方は1980年代以降この40年余りの間に激変を遂げている。
過去のレポートで示したが、夫婦の年齢差も1980年代では7割以上が夫年上の上位婚社会であった。しかし1990年代に大きな変化が生じ、2015年には55%まで年上夫が減少、同じ年齢や年上妻が増加してきている。
つまり、年上の夫が一人で稼ぐハイリスク型の夫婦の働き方から、二人で稼ぐリスクヘッジ型の夫婦の働き方がメジャーな働き方に変容を遂げてきたといえる。
 
リスクヘッジ機能の強い働き方の夫婦増加の中で、そのようなタイプの夫婦に子どもが多い傾向が見られることは非常に興味深い。
 
「夫婦の働き方支援」は子どもが日本の空の下に生まれくるための最も川上にある「夫婦のカップリング」について、その経済的なあり方に光をあて応援する施策であり、今後、少子化対策の大きな柱の1つとなることが期待できる支援ともいえるのではないだろうか。
 
共働き世帯応援への官民一体となった更なる支援の拡大が望まれるところである。
【参考文献一覧】
 
国立社会保障人口問題研究所.「出生動向基本調査」
 
厚生労働省.「人口動態調査」
 
厚生省人口問題研究所(1992)「独身青年層の結婚観と子供感」
 
国立社会保障・人口問題研究所. 「人口統計資料集」2017年版
 
総務省総計局. 「2015年 国勢調査」
 
独立行政法人 労働政策研究・研修機構.「早わかり グラフでみる長期労働統計」
 
国立社会保障人口問題研究所.「日本の地域別将来推計人口(平成30(2018)年推計)」
 
天野 馨南子.“2つの出生力推移データが示す日本の「次世代育成力」課題の誤解-少子化社会データ再考:スルーされ続けた次世代育成の3ステップ構造-” ニッセイ基礎研究所「研究員の眼」2016年12月26日号
 
天野 馨南子. “ 「年の差婚」の希望と現実-未婚化・少子化社会データ検証-データが示す「年の差」希望の叶い方”ニッセイ基礎研究所 基礎研REPORT(冊子版) 2017年4月号
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生活研究部   人口動態シニアリサーチャー

天野 馨南子 (あまの かなこ)

研究・専門分野
人口動態に関する諸問題-(特に)少子化対策・東京一極集中・女性活躍推進

経歴
  • プロフィール
    1995年:日本生命保険相互会社 入社
    1999年:株式会社ニッセイ基礎研究所 出向

    ・【総務省統計局】「令和7年国勢調査有識者会議」構成員(2021年~)
    ・【こども家庭庁】令和5年度「地域少子化対策に関する調査事業」委員会委員(2023年度)
    ※都道府県委員職は就任順
    ・【富山県】富山県「県政エグゼクティブアドバイザー」(2023年~)
    ・【富山県】富山県「富山県子育て支援・少子化対策県民会議 委員」(2022年~)
    ・【三重県】三重県「人口減少対策有識者会議 有識者委員」(2023年~)
    ・【石川県】石川県「少子化対策アドバイザー」(2023年度)
    ・【高知県】高知県「中山間地域再興ビジョン検討委員会 委員」(2023年~)
    ・【東京商工会議所】東京における少子化対策専門委員会 学識者委員(2023年~)
    ・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する情報発信/普及啓発検討委員会 委員長(2021年~)
    ・【主催研究会】地方女性活性化研究会(2020年~)
    ・【内閣府特命担当大臣(少子化対策)主宰】「少子化社会対策大綱の推進に関する検討会」構成員(2021年~2022年)
    ・【内閣府男女共同参画局】「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」構成員(2021年~2022年)
    ・【内閣府委託事業】「令和3年度結婚支援ボランティア等育成モデルプログラム開発調査 企画委員会 委員」(内閣府委託事業)(2021年~2022年)
    ・【内閣府】「地域少子化対策重点推進交付金」事業選定審査員(2017年~)
    ・【内閣府】地域少子化対策強化事業の調査研究・効果検証と優良事例調査 企画・分析会議委員(2016年~2017年)
    ・【内閣府特命担当大臣主宰】「結婚の希望を叶える環境整備に向けた企業・団体等の取組に関する検討会」構成メンバー(2016年)
    ・【富山県】富山県成長戦略会議真の幸せ(ウェルビーイング)戦略プロジェクトチーム 少子化対策・子育て支援専門部会委員(2022年~)
    ・【長野県】伊那市新産業技術推進協議会委員/分野:全般(2020年~2021年)
    ・【佐賀県健康福祉部男女参画・こども局こども未来課】子育てし大県“さが”データ活用アドバイザー(2021年~)
    ・【愛媛県松山市「まつやま人口減少対策推進会議」専門部会】結婚支援ビッグデータ・オープンデータ活用研究会メンバー(2017年度~2018年度)
    ・【愛媛県法人会連合会】結婚支援ビッグデータアドバイザー会議委員(2020年度~)
    ・【愛媛県法人会連合会】結婚支援ビッグデータ活用研究会委員(2016年度~2019年度)
    ・【中外製薬株式会社】ヒト由来試料を用いた研究に関する倫理委員会 委員(2020年~)
    ・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する意識調査/検討委員会 委員長(2020年~2021年)

    日本証券アナリスト協会 認定アナリスト(CMA)
    日本労務学会 会員
    日本性差医学・医療学会 会員
    日本保険学会 会員
    性差医療情報ネットワーク 会員
    JADPメンタル心理カウンセラー
    JADP上級心理カウンセラー

(2019年01月07日「基礎研レポート」)

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