2018年12月10日

米国経済の見通し-通商政策への懸念はあるが、19年にかけて米経済は堅調、ただし、20年は景気減速を予想

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.経済概況・見通し

(経済概況)7‐9月期の成長率は、前期から低下も個人消費は好調を維持
米国の7-9月期実質GDP成長率(以下、成長率)は、改定値が前期比年率+3.5%(前期:+4.2%)と前期から低下したものの、2期連続で高成長を維持した(図表1、図表4)。

需要項目別では、民間設備投資が前期比年率+2.5%(前期:+8.7%)と前期から大幅に伸びが鈍化したほか、住宅投資は▲2.6%(前期:▲1.3%)と3期連続のマイナスとなった。また、外需の成長率寄与度も▲1.9%ポイント(前期:+1.2%ポイント)と前期から大幅な成長押下げに転じた。外需は、中国による米国産大豆に対する制裁関税実施前の駆け込み需要で大幅な押上げとなった前期からの反動である。

一方、政府支出が前期比年率+2.6%(前期:+2.5%)と前期並みを維持したほか、在庫投資の成長率寄与度が+2.3%ポイント(前期:▲1.2%ポイント)と前期から大幅な成長押上げに転じた。さらに、個人消費が前期比年率+3.6%(前期:+3.8%)と堅調な伸びを維持し、個人消費の好調が持続していることを確認した。

また、個人消費は10月以降も好調を維持しそうだ。米国では11月下旬の感謝祭を終えて、個人消費にとって最も重要な年末商戦が本格化している。10月以降に株式市場は不安定化しているものの、労働市場の回復を背景に雇用不安が後退しているほか、個人所得減税に伴う可処分所得の増加などから、消費者センチメントは高い水準を維持しており、消費を取り巻く環境は依然として良好である(図表2)。

全米小売業協会(NRF)は、今年の年末商戦の売上高予想を前年比+4.3%~+4.8%の増加としている(図表3)。これは17年の同+5.3%から低下するものの、過去5年平均(同+3.9%)に比べて高い伸びである。ちなみに、NRFは1年前に17年の売上高予想を当初+3.6%~+4.0%としていたことから、1年前に比べても強気の予想となっている。

トランプ大統領が、9月から消費財を多く含む中国からの輸入品2,000億ドル相当に対して10%の追加関税賦課を決定したため、商品価格の上昇を通じた年末商戦への影響が懸念されていたが、小売業界は追加関税前に前倒しで仕入れていたことから、関税の影響は限定的なようだ。
(図表2)消費者センチメントおよび米株価指数/(図表3)年末商戦売上高および前年比増加率
一方、米中貿易戦争に伴う年末商戦への影響は限定的なものの、株価の不安定化にみられるように、関税を多用する通商政策が製造業など実体経済に与える影響が懸念されている。実際、先日発表された11月の地区連銀景況報告では、製造業を中心に関税による業績などへの懸念が広がっている状況が示された。

12月1日の米中首脳会談では米中貿易戦争の一時休戦で合意されたが、来年3月以降に関税率の引き上げなど米中貿易戦争が再燃する可能性が残っている。また、来年以降は輸入自動車に対する追加関税の議論が本格化する見込みだ。自動車は米国の主要な輸入品のため、関税の動向は国内自動車販売に影響するほか、グローバル・サプライチェーンの再構築などに繋がれば日本をはじめ世界経済への影響が大きいため、引き続きトランプ大統領の通商政策の動向が注目される。
(経済見通し)成長率は18年+2.9%、19年+2.6%、20年は+1.8%を予想
通商政策や、来年からの新議会での与野党対立に伴う議会の機能停止などのリスクはあるものの、19年にかけては労働市場の回復持続を背景に堅調な個人消費が見込まれるほか、減税や拡張的な財政政策による景気の押上げもあって米経済は好調を維持すると予想する。

民間設備投資は、足元で回復ペースの鈍化がみられるが、貿易摩擦の激化が長期的な株価下落や、世界的な景気減速に陥らない前提で19年にかけて堅調な伸びが持続すると予想した。住宅投資は、住宅価格や住宅ローン金利の上昇に伴う住宅取得能力の低下によって、当面は回復がもたつくと予想されるものの、来年後半以降に住宅ローン金利の上昇が一服することもあり、住宅投資は緩やかな回復に向かうと予想。

一方、政府支出は来年10月からの20年度予算ではねじれ議会での与野党対立や、財政収支の悪化から歳出上限は引き上げられず、緊縮的な財政政策に転換すると予想。

外需は、先行きの通商政策動向は不透明なものの、今後も米中貿易戦争、輸入自動車などで関税を多用する通商政策が採用されると予想。一方、米国の制裁措置に対して貿易相手国から対抗措置が採られる結果、米国の貿易赤字は大幅に改善せず、外需が成長率を押下げる状況が続くだろう。
(図表4)5 0年以降の景気拡大局面 当研究所はこれらの要因を踏まえて、成長率(前年比)を18年が+2.9%、19年が+2.6%と、19年にかけて高い成長率が持続すると予想する(後掲図表5)。

一方、20年は顕著な景気減速を予想する。米景気は08年の金融危機で落込んだ後、09年6月から景気拡大局面が持続しており、来年7月を越えると史上最長の景気拡大期間となる(図表4)。このため、過去の経験からは現在の景気拡大局面は最終局面に近づいていると考えられる。

また、金融政策や財政政策による景気刺激効果が減衰していくことが見込まれる。景気減速に伴い本来ならば財政などの景気対策を実施するところだが、ねじれ議会による議会の機能不全から景気対策の実現は困難が見込まれる。

この結果、20年の成長率は+1.8%に大幅に低下しよう。
物価は、米景気回復の持続や、賃金上昇率の加速などもあって、基調物価は2%台前半で推移すると予想する。一方、当研究所は原油価格が足元の50ドル台前半から19年末に59ドル、20年末に61ドルまで緩やかに上昇すると予想しており、前年比でみたエネルギー価格による物価への影響は、18年の原油価格が高かった分、19年は物価押下げとなる一方、20年は物価押上げに転じるとみられる。

このため、エネルギー価格を含む消費者物価の総合指数(前年比)は、17年の+2.1%から18年は+2.4%に上昇するものの、19年は+2.0%に低下、その後、20年は再び+2.3%に上昇すると予想。
 
金融政策は、労働市場の回復持続、物価上昇から19年にかけて政策金利の引き上げ継続を見込む。当研究所では来年後半以降の景気減速が視野に入る中、19年に年2回の利上げに留め、その後は、当面利上げは打ち止めとなると予想。

最後に長期金利は、政策金利の引き上げ継続に加え、財政状況の悪化に伴う期間プレミアムの上昇などから18年末に3.0%、19年後半に3.6%まで上昇し、20年末にかけても3.6%で横這いとなると予想。
(図表5)米国経済の見通し
上記見通しに対するリスクは、海外経済の減速と米国内政治の混乱である。海外経済では、欧州でイタリアの財政問題や来年3月に期限が迫ったBREXIT問題の混乱に伴う欧州経済の減速や金融市場の混乱が米経済に影響することが懸念される。

また、米国内政治では、トランプ大統領による関税を多用する形での保護主義的な通商政策の強まりや、ねじれ議会に伴う議会の機能不全による政府閉鎖や米国債デフォルトの発生、ロシア疑惑に絡むトランプ大統領の弾劾裁判開始などの政治的な混乱、などによる米実体経済への悪影響が懸念される。

とくに、ロシア疑惑関連では来年にも公表されるモラー特別検察官の報告書が注目される。同報告書がトランプ大統領の違法行為を指摘するような内容となる場合には、下院民主党が主導して弾劾裁判が開始される可能性が高い。もっとも、上院は共和党が過半数を維持しているため、トランプ大統領が弾劾決定される可能性は低いが、米国内の政治的な混乱に拍車が掛かり、トランプ大統領の政治資本が一段と毀損する可能性がある。その際に、トランプ大統領が自身の権限で実行可能な安全保障政策や通商政策でより極端な政策に走ることが懸念される。
 

2.実体経済の動向

2.実体経済の動向

(労働市場)労働市場の回復が持続。労働需給の逼迫から賃金上昇率が加速
非農業部門雇用者数(対前月増減)は、10年10月から18年11月まで統計開始以来最長となる98ヵ月連続の増加となっているほか、18年の月間平均増加数が20.6万人増と、好調とされる20万人を上回る堅調な増加ペースを維持している。また、失業率も3.7%と1969年12月(3.5%)以来49年ぶりの水準に低下しており、労働市場は順調に回復している(図表6)。また、先行きについても、大企業、中小企業の採用計画は頭打ちもみられるものの、依然として採用増加を計画している企業が多く、採用意欲は強いことから、労働市場の回復持続が見込まれる(図表7)。
(図表6)米国の雇用動向(非農業部門雇用増と失業率)/(図表7)大企業、中小企業の採用計画
(図表8)賃金上昇率および労働参加率(25-54歳) 一方、時間当たり賃金(前年同月比)が11月は2ヵ月連続で+3.1%と09年4月(+3.4%)以来の水準に加速しており、賃金上昇に弾みが掛かっている(図表8)。

建設業界や製造業などで労働力不足が深刻化しているほか、働き盛りでプライムエイジと呼ばれる25-54歳の労働参加率も15年後半以降は上昇基調が持続するなど、労働需給の逼迫が顕著となっている。このため、労働需給の逼迫を背景に今後も賃金上昇率の加速が見込まれる。
(設備投資)18年7-9月期の減速が一時的か見極め
GDPにおける民間設備投資は、17年初から6期連続で堅調な伸びが持続していたが、18年7-9月期は前期から大幅に伸びが鈍化した(図表9)。これまで好調であった資源関連を含む建設投資が減少したことが大きいが、設備機器投資や、知的財産投資も前期から伸びが鈍化しており、建設投資のみでなく、全般的に回復モメンタムは低下した。また、設備投資の先行指標である国防、航空除くコア資本財受注(3ヵ月移動平均、3ヵ月前比)は、10月が年率+2.8%と8月の+12.0%をピークに伸びが鈍化しており、10月以降も設備投資の回復がもたついている可能性を示している。

もっとも、全米製造業協会(NAM)による調査では、製造業企業の18年7-9月期の景況感指数や設備投資計画は、97年の統開始以来の最高となった18年4-6月期からは低下したものの、引き続き史上最高に近い水準を維持しており、顕著な悪化はみられない(図表10)。
(図表9)米国製造業の耐久財受注・出荷と設備投資/(図表10)製造業センチメント、設備投資計画(NAM調査)
11月の地区連銀景況報告では、製造業界から関税に対する懸念は示されているものの、大多数の地区では緩やかな成長が続いているとされている。このため、貿易摩擦の激化に伴う追加関税策の動向には注意する必要があるものの、株価下落の長期化や世界的な景気減速に陥らない場合には、法人減税や設備投資に対する税優遇策の効果もあることから、設備投資は再び堅調な伸びに戻るとみられる。
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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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