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女性のライフコースの理想と現実-最も人気の「両立コース」の実現度は3割弱。就労継続の鍵は?
生活研究部 上席研究員 久我 尚子
さて、「両立コース」を理想通り実現している女性には、どのような特徴があるのだろうか。ここでは、理想のライフコースを「両立コース」と回答した女性のうち母親を対象に、現実も「両立コース」を歩んでいる女性と、それ以外のコースを歩んでいる女性の違いを分析する。前項のように年齢を限定しない理由は、年齢が若くても既に母親であれば「両立コース」の実現可否を把握できるためだ。
比較結果を見ると、「両立コース」を実現している女性は、30代など女性の社会進出がより進んだ若い年代で多い(図表6)。また、居住地域は中部地方や九州地方で比較的多い。中部地方のうち、福井県や富山県などの北陸地方は、M字カーブのくぼみが最も浅く(厚生労働省「平成28年版働く女性の実情」)、子育て期の離職が少ない地域だ。なお、同報告書によれば、九州・沖縄地方も同様にM字カーブのくぼみが浅い地域となっている。
就業状態については、前述の通り、結婚や出産などのライフステージの変化で働き方が変わる女性も多いだろう。ただし、実際に「両立コース」を実現している女性では正規雇用者が多いことから、「両立コース」を実現している女性では、仕事と子育ての両立に関わる制度などが整った環境で働いている女性が多い可能性がある。
配偶者の年収は「両立コース」を実現している女性の方が低い傾向がある(高年収における割合が低い)。これは、配偶者の経済力が高くないために仕事を辞めずに家計を支えている可能性もあるが、若い年代ほど「両立コース」を実現している女性が多いために、配偶者も若くなることで、配偶者の年収が低くなる可能性もある。なお、「両立コース」を実現している女性の平均年齢は42.2歳、それ以外のコースを歩んでいる女性は45.1歳(「両立コース」実現女性+2.9歳)である。
また、実家との距離については、「両立コース」を実現している女性では、同居と近居をあわせると合計37.0%だが、実現していない女性では32.7%(▲4.3%pt)である。よって、おおむね実家の手助けを得やすい環境にある女性の方が「両立コース」を実現しているようだ。もともと実家と同居・近居しているために両立を実現できている可能性もあるが、両立を実現する上で実家を近くに呼び寄せたという可能性もある。一方、「両立コース」を実現している女性では、義理の実家との距離は別居が多かった。これらの状況をあわせると、実家の手助けを得やすい状況にあり、義理の実家の目は遠くにある女性の方が、結婚・出産後も仕事を辞めずに働きやすいように見える。
しかし、この解釈には注意が必要だ。実は義理の実家との距離は年代によって傾向が異なっている。年齢とともに親と死別した女性が増えるため、特に50代ではより詳細を見る必要があるのだが、30代以下では、「両立コース」を実現している女性の方が実現していない女性と比べて、義理の実家と同居・近居している割合が高い(44.1%⇔37.1%)。一方、40代(26.7%⇔40.2%)や50代(24.6%⇔29.2%)では逆である。女性の社会進出が進む中で、親世代も、そして、女性自身も、女性が家の外で働くことに対する価値観が変わることで、若い世代では義理の実家の手助けも上手く得ながら、「両立コース」を実現する女性が増えている可能性がある。
最後に、体力の程度については、「体力がある方だ」と「どちらかと言えば体力がある方だ」を合わせた『体力あり』の割合は「両立コース」を実現している女性の方が高い(30.5%⇔21.6%)。先天的なものか後天的なものかは不明だが、「両立コース」を歩んでいる女性の方が現状は体力があるようだ。
4――おわりに~女性が理想のライフコースを実現するために必要な環境整備は、実は男性にも必要
一方で、「両立コース」の実現度は、今回の調査で例示した9つのライフコースの中で最も低く、3割に満たなかった。それは、「両立コース」を実現するには、結婚できるかどうか、出産できるかどうか、出産後も働き続けられるかどうか、という本人の意志のみでは決定できない要因が多いためだ。
実際に理想通り「両立コース」を実現している女性の特徴を見ると、若い世代、北陸などの中部地方や九州地方居住者、高専卒や大学卒(共学)、正規雇用者、母親も「両立コース」、実家と同居・近居、義理の実家とは別居(若い世代では逆に同居・近居)が多くなっていた。
つまり、女性が仕事と家庭を両立することへの意識が高い社会(世代や地方、家庭環境)で育ち、両立に関わる環境(職場の制度や家庭での手助け)が整っている女性ほど、両立を実現できている。また、高専卒など専門性の高い仕事に従事しやすい学歴も有効のようだ。一方で、これらの条件が整っている女性は決して多くないために、「両立コース」の実現度が低い現状がある。
仕事と家庭の両立という話題は、女性の問題として語られがちだ。しかし、子育てが落ち着いて、しばらく後には親の介護という問題が生じる。実は、この10年余りで介護の状況は大きく変化している。厚生労働省「国民生活基礎調査」によると、2000年代初頭は、同居の主たる介護従事者で圧倒的に多いのは嫁であった。しかし、嫁の割合が低下する一方、息子の割合が上昇することで、現在では息子が嫁を上回るようになっている。そして、男性が仕事と介護の両立をしやすい環境を考えた際に必要なものは、実は時間短縮勤務制度や月単位の長期休暇など、現在、育児中の女性が利用しているものと同様だ。また、介護との両立においても、家族を含め何らかの手助けが必要だ。
つまり、女性が理想のライフコースを歩むための諸条件は、実は女性だけでなく男性も、皆にとって必要なものだ。「女性の活躍推進」政策や「働き方改革」の後押しもあり、現在、働き方に関わる制度や慣習は改善傾向にある。まだ、いくつもの課題はあるが、まずは「女性だけでなく男性も含めて、皆にとって必要」という認識を強く持つことが必要なのではないか。
03-3512-1878
- プロフィール
【職歴】
2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
2021年7月より現職
・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
・総務省「統計委員会」委員(2023年~)
【加入団体等】
日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society
(2018年11月27日「基礎研レポート」)
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