2018年11月27日

女性のライフコースの理想と現実-最も人気の「両立コース」の実現度は3割弱。就労継続の鍵は?

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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1――はじめに~M字カーブは解消傾向、子育て期も働く女性が増加。女性の理想のライフコースとは?

図表1 女性の労働力率の変化 M字カーブは解消傾向にあり、子育て期も働く女性が増えている。M字カーブは、就業率の高い未婚女性が増えることによっても底上げされるのだが、近年の底上げ要因は、主に既婚女性の就業率の上昇によるものだ1。政策の後押しもあり、今後とも仕事と子育てや介護を両立するための環境整備が進むことで、働く女性は増えるだろう。
一方で、そもそも女性達はライフコースに対して、どのような希望を持っているのだろうか。かつては学校卒業後に就職し、適齢期に結婚をして寿退社、あるいは出産で退職し、子育てが落ち着いたらパートなどで働き始めるというように、皆、同じようなライフコースをたどっていた。しかし、M字カーブの底上げが進む通り、結婚・出産後も働き続ける女性は増えている。また、未婚化・晩婚化、晩産化が進み、同じ年齢でもライフコースは多様化している。

本稿では、現代女性の理想のライフコースとあわせて、実際に歩んでいる現実のライフコースも捉えることで、両者のギャップの有無を把握する。また、女性のライフコースの中でも特に課題が多いであろう、結婚・出産をして、その後も働き続ける「両立コース」を実現している女性の特徴を分析する。分析には、ニッセイ基礎研究所が実施した25~59歳の女性5千人を対象にした調査2のデータを用いる。
 
1 久我尚子「『M字カーブ』底上げの要因分解」、ニッセイ基礎研究所、基礎研レポート(2017/12/21)
2 「女性のライフコースに関する調査」、調査時期は2018年7月、調査対象は25~59 歳の女性、インターネット調査、調査機関は株式会社マクロミル、有効回答5,176
 

2――現代女性の理想のライフコース

2――現代女性の理想のライフコース

1理想のライフコース~「両立」や「再就職」の『働く母親コース』が6割、若いほど「両立」が多い
現代女性は、どのようなライフコースを理想としているのだろうか。25~59歳の女性で最も多いのは「両立コース」(34.1%)であり、次いで、結婚や出産などを機に退職し、その後、また働き出す「再就職コース」(25.9%)、そして、退職後は専業主婦となる「結婚退職・専業主婦コース」(13.7%)、「出産退職・専業主婦コース」(10.4%)と続く(図表2)。
図表2「あなたが理想とする(理想としていた)ライフコースに最も近いものをお聞かせください」(単一回答)
年代別に見ると、50~54歳以外は「両立コース」が最多で3割を超える。次いで「再就職コース」が多い。50~54歳では、「再就職コース」(31.4%)が「両立コース」(30.4%)を若干上回っている。つまり、年齢階級別に見ても「両立コース」や「再就職コース」を理想とする女性が多い。また、55~59歳を除けば3、年齢が若いほど「両立コース」を理想とする女性が多い傾向がある。なお、『働く母親コース』を理想とする割合は、年齢によらず6割前後である。

3位以下は、いずれの年齢階級でも、「出産退職・専業主婦コース」や「結婚退職・専業主婦コース」が続いており、30代では出産退職が、40~50代や25~29歳では結婚退職の方が多い傾向がある。この背景には、30代では、40代以上と比べて女性の社会進出が進み、近年の政策の後押しもあって、育児休業制度や時間短縮勤務制度などの仕事と子育ての両立環境の整備が進んでいる可能性がある。
 
3 55~59歳で「両立コース」を理想とする割合が高い背景には、例えば、「男女雇用機会均等法」が施行される前の世代であるために女性が働き続けることへの権利意識が強い可能性のほか、ネット調査のモニター属性の影響などが考えられる。
2属性別に見た理想のライフコース~大学院卒や大卒(共学)、高専卒で「両立」が多く、働く母の影響も大
どんなライフコースを理想とするのかには、年齢(世代)のほか、居住地域や最終学歴、職業、女性の母親が働いていたかどうかなどの影響も予想される。

これらの違いについても見ると、居住地域については、地域による大きな違いは見られず、いずれも「両立コース」が最多で、次いで「再就職コース」が多い(図表3)。
図表3 属性別に見た女性の理想のライフコース
最終学歴については、短期大学卒以外は、いずれも「両立コース」が最多で、「再就職コース」が続く。短大卒は「再就職コース」が最多で、僅差で「両立コース」が続く。このほか全体と比べて、中学校卒で「結婚退職・専業主婦コース」が、高等専門学校卒や大学卒(共学)、大学院卒で「両立コース」が、大学卒(女子大)で「出産退職・専業主婦コース」が多い傾向がある。これらを見ると、女性が結婚・出産後も働き続けたいかどうかは、高専卒や大学院卒など専門性の高い職に従事しやすい学歴を保有しているかどうかのほか、同じ大学卒でも共学か女子大かで違いがあることから、女性が働くことについての価値観や受けた教育環境の違いの影響もうかがえる。なお、本調査では、働くことに関する意識についても調査しており、大学院卒や大学卒(共学)では「女性が高い地位や管理職についてもかまわない」や「専業主婦として家庭に専念するより、少しでも働いていたい」といった女性が外で働くことを重視するような志向が強い傾向がある4

また、女性のライフコース選択には身近なモデルとして母親の影響もあるだろう。母親のライフコース別には、母親が「再就職コース」以外は、いずれも「両立コース」が最多で、次いで「再就職コース」が多い。母親が「再就職コース」では、女性自身の理想も「再就職コース」が最多である。このほか全体と比べて、母親が「結婚退職・専業主婦コース」であれば女性自身も理想は「結婚退職・専業主婦コース」が多いというように、母親と同じコースを理想とする割合が高い傾向もある。なお、母親が「両立コース」や「再就職コース」の『働く母親コース』であると、この傾向がより強い。 

職業については、結婚や出産などのライフステージの変化で働き方が変わる女性も多いだろうが、「両立コース」を理想とする割合は、現在の職業が公務員や正社員・正職員、自営業・自由業で多くなっている(いずれも半数程度)。

4 本稿で用いた定量調査は一般財団法人社会文化研究センターの助成研究「子育て世帯の消費実態~女性の働き方による価値観の違いに注目して」(平成30年8月)として行ったものであり、今後、研究成果の詳細をWebで公開予定。
 

3――現代女性のライフコースの理想と現実

3――現代女性のライフコースの理想と現実

1ライフコースの理想と現実~40・50代女性の実現度は4割、最も人気の「両立コース」の実現度は3割弱
さて、現代女性の理想のライフコースは、全体で見ても属性別に見ても、「両立コース」や「再就職コース」の『働く母親コース』の人気が高かった。一方で、女性達は現実的には、どのようなライフコースを歩んでいるのだろうか。ここでは、ライフコースが固まりつつある40~50代の女性を対象に、理想と現実のギャップを確認する。

40~50代の女性で理想のライフコースと現実のライフコースが一致している割合は41.8%である。理想のライフコース別に、現実のライフコースの状況を見ると、理想が「独身非就業コース」と「両立コース」以外では、理想が「結婚退職・専業主婦コース」であれば現実も同じコースというように理想通りのライフコースを歩んでいる割合が最も高くなっている(図表4)。なお、理想が「独身非就業コース」では現実は「独身就業コース」が、「両立コース」では現実は「再就職コース」が最多である。前者は働きたくなかったが働いている、後者は仕事を辞めたくなかったが、結婚や出産で一旦辞めざるを得なかったという様子がうかがえる。
図表4 女性のライフコースの理想と現実(40~50代)
さらに、理想のライフコース別に、理想と現実の一致度(実現度)をランキングとして見ると、実現度が最も高いのは「独身就業コース」で7割を超える(図表5)。次いで「再就職コース」や「結婚退職・専業主婦コース」が続き、それぞれの実現度は5割程度である。一方、理想のライフコースとして最も人気の高い「両立コース」の実現度は、9つのライフコースの中で最下位であり、実現度は3割に満たない。つまり、「両立コース」を理想とする女性が最も多いにも関わらず、現実的には7割が実現できていない。

ライフコースによる実現度の違いは、例えば「独身就業コース」では主に本人の意志のみで決定できる一方、「両立コース」は結婚できるかどうか、出産できるかどうか、そして、結婚・出産後も働き続けられるかどうかというように、本人の意志のみでは決められない要因が複数あるなど、要因の種類と数の違いによるものだろう。

なお、一連の専業主婦コースは「再就職コース」と比べて要因の数が少ないようにも見えるが(再び仕事に就けるかどうかという要因が無い)、実現度は「再就職コース」の方が高い。この背景には、長らく続いた景気低迷の中で配偶者の経済状況が過去と比べて厳しくなったために、再び仕事に就くことよりも配偶者の収入だけで生活ができることの方が実現は難しくなっていることがあるのだろう。
図表5 40~50代の女性の理想のライフコースおよび理想と現実の一致度のランキング(n=3146)
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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

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