2018年11月21日

「子育て支援住宅」認定制度の導入状況と普及への課題~東京都墨田区の賃貸マンション「ネウボーノ菊川」に学ぶ成功の鍵~

生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任   坊 美生子

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はじめに

最近、自治体による子育て支援策の一環として、子育て世帯向けの広さや安全性、サービスを備えた集合住宅を「安心して子育てできる住宅」として認証する制度が徐々に増えている。望ましい住環境やサービスを整備することで、ファミリー世帯を我が街に呼び込んだり、出生率の低下に歯止めをかけたりしようという狙いがある。2002年度に東京都の墨田区が全国に先駆けて導入し、その後、大阪市や埼玉県、東京都などが導入した1。国土交通省も2014年9月に設けた「安心居住政策研究会」の中で、認証制度等に取り組む自治体の施策推進について議論し、国としてガイドラインを策定することを検討している。

自治体がファミリー世帯向けに行ってきた住宅関連施策といえば、従来は、低所得の新婚世帯や多子世帯を対象に公営住宅等を提供する福祉事業が主要だったが、認定制度はそれらとは異なり、所得に関わらず、子育て世帯を応援していこうというものであり、少子化対策に比重を置いている点が特徴である。

筆者は認定制度には意義があると考えているが、各自治体の実施状況をみると、認定件数が目標に届いていないなど、現状では大きな成果を挙げているとは言えないようだ。自治体の導入状況は、全国的な広がりにも欠けている。本稿では、東京都が2016年に始めた「子育て支援住宅認定制度」を取り上げ、その課題について考察したい。その上で、認定を受けた集合住宅の中から、積極的な子育て応援サービスを提供し、事業化に成功している事例として東京都墨田区の賃貸マンション「ネウボーノ菊川」を紹介し、認定制度が今後、浸透していくための鍵について検証したい。
 
1 制度の名称は墨田区が「すみだ良質な集合住宅認定制度(子育て型)」、大阪市が「子育て安心マンション認定制度」、埼玉県が「子育て応援マンション認定制度」、東京都が「子育て支援住宅認定制度」とするなど、自治体によってまちまちである。
 

1――東京都の「子育て支援住宅認定制度」の実績と課題

1――東京都の「子育て支援住宅認定制度」の実績と課題

1認定制度の内容
東京都は2016年2月、住戸面積50m2以上で、子育てしやすい設計やサービスを行っている集合住宅を認定する「子育て支援住宅認定制度」を導入した。耐火構造または準耐火構造で、新築または既存の物件が対象となる。住戸部分と共用部分の各性能や設計、立地、提供するサービス等について、細かく条件が定められ(図表1参照)、一定以上の項目をクリアすれば認定を受けられる。賃貸であることなど一定の条件を満たした場合は、市区町村が事業者への補助制度を設けている場合に限り、共同施設や子育て支援施設等の整備費について、都から市区町村に補助額の最大2分の1を交付している2)。2017年度からは、容積率緩和の対象にもした。認定を受けた事業者は、入居者募集や分譲の際、広告に利用することができる。都は、2025年度末までに目標認定件数を10,000戸と掲げている。
図表1 東京都の「子育て支援住宅認定制度」の認定項目の例
 
2 市区町村が独自に設けている補助金メニューもあるため、事業者は条件を満たせば、市区町村独自の補助金も受け取ることができる。
2制度導入の背景
東京都がこの制度を導入した背景には、都は合計特殊出生率が1.21と47都道府県の中で最下位であり3、都内の「子育てしづらい環境」を改善したいという政策目標があった。特に住環境に関しては、2013年住宅・土地統計調査によると、住宅1戸あたりの平均床面積が持家90㎡(全国平均121m2)、借家39m2(同46m2)と、全国で最も狭い。23区に限定すると持家85m2、借家39m2である。 東京都は、出生率を改善するためにも、住環境を改善する必要があると考えた。国立社会保障・人口問題研究所が2015年、全国の18歳以上50歳未満の独身男女と50歳未満の有配偶女性を対象に行った第15回出生動向基本調査によると、夫婦の理想の子どもの人数の平均値は2.32人であるが、夫婦が実際に持つ予定である子どもの数は2.01 人と理想を下回っており、その差の理由を尋ねると(複数回答)、1割以上が「家が狭い」を理由に挙げている4

また、住宅内における子どもの事故が多いという点も問題視した。東京消防庁の報告書「救急搬送データからみる日常生活事故の実態」(2017年)によると、年間救急搬送件数13万6,213件を5歳区分の年齢別に集計すると、特に高齢者と乳幼児が多い(図表2)。そして0~5歳の乳幼児の事故が起きる場所は、「住宅等の居住場所」が7割を占めている(図表3)。

同報告書によると、0歳ではベッドやソファなど家具から落ちる事故が多く、一人歩きを始める1歳は、階段やいす、ベッド等の家具から落ちる事故や、テーブルなど家具に起因して転ぶ事故が多いという。2歳では転ぶ事故や自転車の補助いす等から落ちる事故の他、ドアにはさまれる事故が多い。子どもの指は大人よりも小さいため、住宅の玄関ドアと壁の隙間や、引き戸の隙間など、狭いスペースにも入るためである。3~5歳では、階段や道路で転ぶ事故や落ちる事故、ビー玉類の誤飲事故などが多いという。さらに、集合住宅で子どもの重大事故につながりやすいのが、ベランダや窓からの転落である。2013~2017年の5年間で、5歳以下の乳幼児105人が住宅等の窓やベランダから転落して救急搬送されたという。
図表2 東京消防庁による5歳年齢区分別の救急搬送人員数(2017年)
図表3 乳幼児の発生場所別搬送人員の割合(2017年)
 
3 厚生労働省「2017年人口動態統計」より。全国平均は1.43。
4 この質問に対する回答は、回答割合が高い順に「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」56.3%、「高年齢で生むのはいやだから」39.8%、「欲しいけれどもできないから」23.5%、「これ以上、育児の心理的、肉体的負担に耐えられないから」17.6%、「健康上の理由から」16.4%、「自分の仕事(勤めや家業)に差し支えるから」15.2%、「家が狭いから」11.3%などとなっている。
3モデル事業の実施及び入居者ニーズの把握による課題の抽出
以上から、都は一定の床面積があり、設計や性能に安全性を備えた住宅の供給量を増やす必要があると考え、2010年度から2014度にかけて、認定制度の基となるモデル事業を実施した。6件の賃貸集合住宅を対象に、入居者を「18歳未満の子どもがいる世帯」と限定した上で、住戸部分はベビーカーの収納スペースを設けたり、床や壁の遮音性を向上させたりと一定の性能を求めた他、認可保育所や学童クラブを開設したり、NPOに委託して育児支援ヘルパーを派遣するなど、子育て応援サービスの提供を求めた。

そこで入居者アンケートを行ったところ、「初めての子育ては不安が多いので気軽に相談できる人が近くにいると心強い」「同じ住宅内に知り合いがいると安心」など、子育て期間中のコミュニティを求める声が多かった。そのため「ハードとソフトが子育て支援住宅の両輪」と考え、2016年2月から本格実施した「子育て支援住宅認定制度」においては、ハード面に関する細かい条件を定めたことに加え、ソフト面でもコミュニティ醸成に資する取り組みを必須条件とした。また認定制度では、広く事業者に認定を目指してもらうため、賃貸だけなく分譲マンションも対象に加え、「18歳未満の子どもがいる世帯」という入居条件も外した。

しかし、これまでの認定実績をみると、2018年3月時点で合わせて13物件440戸にとどまっており、都が掲げる目標には程遠い。特に分譲マンションはそのうち1物件80戸と少ない。事業者にとって何がハードルとなっているのだろうか。都がこれまでに行ったヒアリング結果等を基に分析すると、次のような課題が浮かび上がってくる。

第一はコスト面である。共用部分に設けるキッズスペース等の整備費はもちろんのこと、例えば、親が子どもを抱っこしたままでも住戸の通路を通りやすいように幅員を広くしたり、子どもが小さいうちは親が子どもと一緒にトイレに入れるように広めに設計すれば、建設費が上がる。子育て中は便利ではあるが、だからといって、費用の上昇分を賃料に上乗せしても入居者が入るかというと、難しいというものである。

第二は、認定を受けるメリットが明確ではないことだ。たとえ事業者が認定を取得して「都のお墨付きを得た」と宣伝しても、肝心の入居者側がその制度について知らなければ響かず、物件に付加価値がつかない。入居者募集や分譲時において、特典につながらないというものである。

第三に、不動産会社が子育て支援サービスを手がけること自体の難しさがある。多くの不動産会社は、ソフト事業を行った経験がないため、例えば「入居者同士のコミュニティ醸成のための配慮をして」と言われてもノウハウがない。また、ソフト事業を実施するには人の配置が必要となるため人件費がかかり、事業性が厳しくなる、というものであった。

第四に、分譲マンションには独自の課題が生じる。入居時に乳幼児だった子どもも、入居後10~20年経つと年代が上がり、キッズルーム等の設備が形骸化する恐れがある。また事業者が分譲前に認定を取得しても、分譲後は管理組合が認定内容に関する管理業務を引き継ぐことになるため、都に提出する報告書を作成したり、イベント運営を担ったりすることが管理組合にとって大きな負担となり、事業者に敬遠される可能性がある。
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生活研究部   准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任

坊 美生子 (ぼう みおこ)

研究・専門分野
ジェロントロジー、交通政策・移動サービス、労働

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