2018年11月16日

米中間選挙結果と今後の経済政策への影響-追加減税やオバマケア廃止の軌道修正は必至

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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3.経済政策への影響

(中間選挙の争点):「医療」や「移民」、「経済・雇用」が争点。「税」の関心は低い
出口調査に基づき、中間選挙で挙がった争点をみると、最も回答シェアが高かったのが、オバマケアを巡る「医療」が26%となっており、次いで「移民」(23%)、「経済・職」(19%)である。それぞれの争点毎に、投票先の政党には、大きな乖離がみられる(図表8)。
(図表8)2018年中間選挙出口調査結果(政策評価と投票率) なお、トランプ大統領が実現に意欲を示している「税制改革」は4%の回答シェアしかなく、投票先も民主党と共和党で拮抗しているため、有権者にアピールできていない。

次に、争点となった政策の評価をみると、「オバマケア」や、「国境の壁」については、賛成と反対の回答割合の差が比較的小さくなっていることが分かる。

一方、「移民政策」では、米国で生活する不法移民に、「合法化する機会を与えるべき」との意見は7割近くに上っており、「強制送還すべき」の3割を大きく上回っている。また、投票先でも「合法化する機会を与えられるべき」との意見を持つ有権者の内、およそ3割は共和党に投票しており、共和党支持者でも意見が分かれる結果となった。とくに、子供として入国した不法移民の強制送還を免除するDACAプログラムについては、共和党支持者の中でも継続するべきとの意見が多い。このため、大統領が拘る「国境の壁」予算を一定程度計上する見返りに、民主党がDACAプログラムの存続を要求する可能性はあるだろう。
次に、通商政策については、トランプ政権の通商政策が米国経済に与える影響について、共和党支持者を中心に「支援となる」との回答が41%となっているのに対して、民主党支持者中心に「害を与える」との回答が49%となっており、幾分後者の回答割合が高くなっている。一方、「影響がない」と回答(10%)した有権者では政党支持に大きな差がみられない。

このように、トランプ政権の通商政策が米経済に悪影響を及ぼすとの回答割合が高くなっているものの、中国に対して知的財産権の侵害や、強制的な技術移転問題で、トランプ大統領が厳しい姿勢で臨んでいることには、与野党、財界、国際的にも評価する声が多い。このため、中間選挙後もトランプ大統領は、中国に対して強い姿勢で臨む可能性が高い。

もっとも、同大統領が制裁手段として追加関税を多用していることについては評価が分かれている。18年7月の世論調査ではトランプ大統領の関税政策について、共和党支持者からは73%の高い支持を得ているものの、民主党支持者からの評価は15%に留まっているなど乖離が大きい。さらに、財界からも関税方針の見直しを求める声は大きくなっている。

トランプ大統領は、中国に対して関税対象をさらに拡大する可能性を示唆しているため、現状で関税を多用する制裁方法を変更することは考え難い。もっとも、株式市場の下落など資本市場が不安定化することや、企業・消費者センチメントの悪化、輸入品価格の上昇に伴う消費減速などが具現化する場合には方針転換を与儀なくされよう。
 
最後に、インフラ投資については、トランプ大統領と民主党の間で政策協調の可能性が残っている。これまで、オバマ前大統領の民主党政権がインフラ投資拡大を目指したのに対して、議会共和党が財源不足などを理由に阻止してきた経緯がある。また、トランプ氏が大統領に就任してからインフラ投資を拡大する意向を示したのに対して、昨年議会民主党は政策を進めるように要求するなど、インフラ投資拡大について政策方針に大きな差はない。

もっとも、財源問題に加え、20年の大統領選挙を睨み、トランプ大統領の成果になるような政策協調が実現する可能性は高くないとみられる。政策協調があるとすれば来年以降に米景気減速が顕在化してきた時に、民主党がインフラ投資拡大を拒否することで世論の反発を招くと政治的に判断する時だろう。
(財源・債務残高):追加減税、インフラ投資など実現のためには財源確保が不可避
トランプ大統領は、減税しても成長率が高まり、歳入が増加することで財政赤字は拡大しないとしてきたが、実際には歳入は増加しておらず、歳出上限の引き上げもあって、財政状況は大幅に悪化している。
(図表9)債務残高見通し 議会予算局(CBO)の試算では、現在の予算関連法が継続すると仮定した場合(ベースライン)の債務残高(名目GDP比)見通しは、足元の78%から10年後には96%、20年後には118%への増加が見込まれている(図表9)。

また、現在25年末までの時限措置となっている個人所得減税を恒久化するなどの追加減税を実施した場合には20年後の債務残高は129%、19年度までの時限措置となっている歳出拡大を20年度以降も継続した場合は同148%まで拡大するとしている。

トランプ大統領は追加減税やインフラ投資拡大などの政策実現を目指しているが、増税や歳出削減などにより財源を確保しない限り、財政赤字の拡大を懸念している議会共和党の賛同を得ることは難しい。

また、財源確保としての増税は議会共和党の反対が見込まれるほか、国防予算以外の歳出削減は議会民主党の反対が予想されるため、政策実現のための財源確保は困難だろう。財源の点からもトランプ大統領が実現できる経済は大きく制約されよう。

4.当面の注目材料

4.当面の注目材料

(ロシア疑惑に関する報告書):報告書の内容次第では弾劾裁判開始と政治混乱に拍車
中間選挙が終了したことで、今年5月から調査が進められているロシア疑惑に関するモラー特別検察官の報告書が提出される可能性が高まっている。調査報告書の内容は不明だが、トランプ大統領は、これまで共謀を全面的に否定していたが、最近は共謀があったとしても犯罪には当らないとの姿勢に変化しており、報告書に同大統領の共謀事由が記載される可能性は否定できない。

来年から下院議長に返り咲くことが見込まれている民主党のペロシ議員は、トランプ大統領を弾劾しない方針を選挙前には示していたものの、報告書の内容次第では、その方針を覆す可能性がある。

もっとも、弾劾実現には上院の3分2以上の賛成が必要となっており、上院では共和党が過半数を握っているため、弾劾が実現する可能性は低い。いずれにせよ、弾劾開始や下院から税務申告書の公開要求が実施される場合には、政治的な混乱に拍車がかかろう。
 
(19年度暫定予算):12月7日期限の暫定予算審議がレイムダックセッションのヤマ
12月7日に19年度予算のうち、暫定予算となっている7本の歳出法案の期限が到来する。トランプ大統領が予算に盛り込むことを求め、政府閉鎖も辞さない姿勢を示している「国境の壁」予算は審議が難航したため、中間選挙後に結論を先送りした経緯がある。トランプ大統領は、引き続き強硬な移民政策と併せて国境の壁予算を要求するとみられるが、新議会で過半数となる民主党から妥協を得るのは難しいだろう。

本格的な審議を来年に先延ばしにしたい民主党と、両院で過半数を維持しているレイムダックセッションのうちに決めたい共和党・トランプ大統領と対立が激化することが予想される。このため、12月7日の期限までに審議がまとまらず、政府機関の一部閉鎖が発生する可能性は高まっている。

(債務上限問題):19年3月に期限を迎える債務上限引き上げ動向に注目
米国債の発行上限額を定めた法定債務上限の期限が3月に切れるため、新議会は20年度予算編成作業と並行してその対応を行う必要がある。新議会が期限までに債務上限を引き上げられないか、または債務上限の不適用期限の再延長を行わない場合には、3月期限到来時点の残高が新たな上限額として設定され、それを超える新規の国債発行が不可能となる。なお、債務上限が設定されても、数ヵ月程度は、財務省の緊急対応により、債務上限の抵触を回避することが可能とみられている。

もっとも、審議が長期化し、政府の資金が枯渇する場合には、米国債がデフォルトしてしまう可能性があるため、米経済への影響が大きい。トランプ大統領が新議会と協調してどのような対応を行うのか、来年からの政策協調を占う上での試金石となろう。
 
 

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2018年11月16日「Weekly エコノミスト・レター」)

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