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- 米中間選挙結果と今後の経済政策への影響-追加減税やオバマケア廃止の軌道修正は必至
2018年11月16日
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1.はじめに
日本をはじめ世界中が注目していた米国の中間選挙が終了した。中間選挙では与党共和党が上院で過半数を維持したものの、下院で野党民主党に過半数を奪取された。この結果、来年からの新議会では4年ぶりに上下院の多数政党が異なる「ねじれ」議会となることが決まった。
米国連邦議会で法案を成立させるためには、上下両院で法案を通過させる必要があるため、民主党が反対する法案を下院で可決することが出来なくなる。このため、これまでのように民主党の意向を無視する形でトランプ大統領が目指す政策を実現することは困難となった。
また、下院で民主党が過半数を獲得したことで、ロシア疑惑に関するモラー特別検察官の報告書次第では、トランプ大統領の弾劾裁判開始の可能性が出るほか、同大統領が公表していない納税申告書の公開要求など、20年の大統領選挙も睨んで与野党による政治的な対立の激化が見込まれる。
本稿では中間選挙の結果とその評価を行った後、今回の選挙結果が今後の経済政策に与える影響について論じている。結論から言えば、ねじれ議会によって新議会が機能不全となる可能性が高く、トランプ大統領が目指す経済政策の実現は困難となることが予想される。トランプ大統領がねじれ議会を上手く運営できるか、来月上旬に期限が来る19年度暫定予算の処理や、19年3月に期限が来る債務上限の処理が先ずは試金石となろう。
米国連邦議会で法案を成立させるためには、上下両院で法案を通過させる必要があるため、民主党が反対する法案を下院で可決することが出来なくなる。このため、これまでのように民主党の意向を無視する形でトランプ大統領が目指す政策を実現することは困難となった。
また、下院で民主党が過半数を獲得したことで、ロシア疑惑に関するモラー特別検察官の報告書次第では、トランプ大統領の弾劾裁判開始の可能性が出るほか、同大統領が公表していない納税申告書の公開要求など、20年の大統領選挙も睨んで与野党による政治的な対立の激化が見込まれる。
本稿では中間選挙の結果とその評価を行った後、今回の選挙結果が今後の経済政策に与える影響について論じている。結論から言えば、ねじれ議会によって新議会が機能不全となる可能性が高く、トランプ大統領が目指す経済政策の実現は困難となることが予想される。トランプ大統領がねじれ議会を上手く運営できるか、来月上旬に期限が来る19年度暫定予算の処理や、19年3月に期限が来る債務上限の処理が先ずは試金石となろう。
2.中間選挙結果とその評価
(上下院・投票率):下院で民主党が過半数を奪取。関心の高さから投票率は大幅上昇
11月6日に行われた中間選挙では、上院(100議席)のおよそ3分の1に当る35議席、下院(435議席)の全議席が改選された。11月16日(東京時間午前9時)時点で判明している議席数は、上院では共和党が51議席、民主党が47議席、勝敗未定2議席と共和党が過半数を維持した(前掲図表1)。また、下院は共和党が200議席、民主党が228議席、勝敗未定7議席と、民主党が過半数(218議席)を獲得し、08年選挙以来の勝利となった。
11月6日に行われた中間選挙では、上院(100議席)のおよそ3分の1に当る35議席、下院(435議席)の全議席が改選された。11月16日(東京時間午前9時)時点で判明している議席数は、上院では共和党が51議席、民主党が47議席、勝敗未定2議席と共和党が過半数を維持した(前掲図表1)。また、下院は共和党が200議席、民主党が228議席、勝敗未定7議席と、民主党が過半数(218議席)を獲得し、08年選挙以来の勝利となった。

投票率の一般的な傾向として、大統領を選出しない中間選挙は大統領選に比べて投票率が低くなることが知られている。実際、04年~12年では中間選挙の投票率が大統領選に比べて20%ポイント程度低かった。
このため、投票率が前回の中間選挙から大幅に上昇し、大統領選からの低下幅が10%程度に留まったことは、今回の中間選挙が如何に有権者の関心を集め、実際の投票行動に結びついたのかが分かる。
一方、選挙結果を受けてトランプ大統領は、上院で共和党が過半数を維持したことや、下院で失った議席数(現時点で35議席)が、オバマ前大統領が迎えた最初の中間選挙で下院民主党が失った63議席より少ないことなどを挙げて、中間選挙に勝利したと主張している。しかしながら、上院では民主党の改選議席数(29議席)が多いため、共和党に有利だとみられていたことや、議会選挙と同時に行われた州知事選挙でも、改選36州のうち、民主党に7州奪われたことなどを考慮すると、トランプ大統領が信任投票に勝利したとは言い難い。
1 11月11日時点。
(出口調査結果):有権者属性毎に支持政党の乖離が大きく、米国の分断を象徴
有権者の属性に基づく投票先をみると、性別では女性で民主党が顕著となっている(図表4)。16年の大統領選挙ではクリントン氏に投票した割合が54%、トランプ氏が42%とその差は8%ポイントに留まっていたが、今回は15%ポイントに拡大した。
有権者の属性に基づく投票先をみると、性別では女性で民主党が顕著となっている(図表4)。16年の大統領選挙ではクリントン氏に投票した割合が54%、トランプ氏が42%とその差は8%ポイントに留まっていたが、今回は15%ポイントに拡大した。

最後に居住地域別では、都市では民主党が支持されているほか、郊外(suburban)では大統領選で共和党支持が民主党支持を上回っていたのに比べて、民主党支持が逆転した。一方、小都市や地方で共和党支持が高い傾向には変化がみられない。
(ねじれ議会):党派性が強まっている中で議会は機能不全に陥る可能性
来年からの新議会(第116議会)では上下院で多数政党の異なるねじれ議会となる。ねじれ議会では、両党の利害対立から上下院で法案を通過させることが非常に困難になることが見込まれる。
一方、米国ではねじれ議会は一般的であり、政権運営において影響は限定的との見方もあるようだ。実際、ねじれ議会はオバマ前大統領の1期目後半(第112議会)と2期目の前半(第113議会)、それ以前では共和党レーガン政権時代の1期目前半から2期目前半(第97議会~第99議会)など、いずれも下院で野党が過半数を獲得する形で生じている。
しかしながら、筆者は与野党議員の党派性が強くなっていることや、トランプ大統領の対立を煽る資質から、新議会は機能不全に陥る可能性が高いと考えている。議員の過去の投票行動から各議員の党派性を推計するDW-NOMINATEスコアをみると、共和党議員はより保守的に、民主党議員はよりリベラルな投票行動になっていることが示されており、両党のギャップが大きくなっていることが分かる(図表5)。
実際、オバマ前大統領が成立させたオバマケア(ACA)、トランプ大統領が成立させた税制改革法では、いずれも与党のみの賛成で成立させており、野党の賛成は得ていないなど、重要法案であっても超党派での合意が難しくなっている。
また、法案成立数、成立率の推移をみると、レーガン政権のねじれ議会の時代に比べて趨勢として法案成立数、成立率が低下している中で、オバマ前政権の最初のねじれ議会(第112議会)では、与野党の対立激化から2年間の法案成立数が僅か284本に留まったほか、法案成立率も2%と過去最低となった(図表6)。このため、第112議会は「最も生産性の低い議会」と非難されていた。
来年からの新議会(第116議会)では上下院で多数政党の異なるねじれ議会となる。ねじれ議会では、両党の利害対立から上下院で法案を通過させることが非常に困難になることが見込まれる。
一方、米国ではねじれ議会は一般的であり、政権運営において影響は限定的との見方もあるようだ。実際、ねじれ議会はオバマ前大統領の1期目後半(第112議会)と2期目の前半(第113議会)、それ以前では共和党レーガン政権時代の1期目前半から2期目前半(第97議会~第99議会)など、いずれも下院で野党が過半数を獲得する形で生じている。
しかしながら、筆者は与野党議員の党派性が強くなっていることや、トランプ大統領の対立を煽る資質から、新議会は機能不全に陥る可能性が高いと考えている。議員の過去の投票行動から各議員の党派性を推計するDW-NOMINATEスコアをみると、共和党議員はより保守的に、民主党議員はよりリベラルな投票行動になっていることが示されており、両党のギャップが大きくなっていることが分かる(図表5)。
実際、オバマ前大統領が成立させたオバマケア(ACA)、トランプ大統領が成立させた税制改革法では、いずれも与党のみの賛成で成立させており、野党の賛成は得ていないなど、重要法案であっても超党派での合意が難しくなっている。
また、法案成立数、成立率の推移をみると、レーガン政権のねじれ議会の時代に比べて趨勢として法案成立数、成立率が低下している中で、オバマ前政権の最初のねじれ議会(第112議会)では、与野党の対立激化から2年間の法案成立数が僅か284本に留まったほか、法案成立率も2%と過去最低となった(図表6)。このため、第112議会は「最も生産性の低い議会」と非難されていた。

トランプ大統領は政策実現のためには、議会対策として一定程度野党民主党の意向を政策に反映する必要があるが、20年に大統領選挙を控えていることや、トランプ大統領の好戦的な性格から、民主党との協調路線をとる可能性は低いだろう。このため、ねじれ議会によって追加減税策やオバマケア廃止など議会を通さないといけない政策については、実現が困難になったほか、予算編成をはじめ重要な法案審議もスムーズに進まない可能性が高いとみられる。
一方、懸念されるのが、議会が機能不全に陥ることによってトランプ大統領が自身の権限を使って実現することが可能な安全保障政策や一部通商政策で暴走することだ。
(2018年11月16日「Weekly エコノミスト・レター」)
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経歴
- 【職歴】
1991年 日本生命保険相互会社入社
1999年 NLI International Inc.(米国)
2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
2014年10月より現職
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会 検定会員
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日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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