2018年10月18日

なぜ今、シェアリングサービスなのか?-市場拡大の3つの理由、既存サービスとの違いは

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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1――拡大するシェアリングエコノミー~2016年の市場規模は約5千億円、約6割が「モノ」のシェア

シェアリングエコノミー(シェア経済)が拡大している。個人と個人(あるいは事業者)をマッチングさせるためのプラットフォームを提供するサービス提供者の売上高は、右肩上がりで増加している(図表1)。

シェア経済では、特に、フリマアプリなどを利用した個人間の中古品売買の勢いが目立つようだ。経済産業省「電子商取引に関する市場調査」によると、フリマアプリの推定市場は2016年に3,052億円、2017年には4,835億円に伸びており、1年で実に1.5倍以上に拡大している。
図表1 シェアリングエコノミーサービス市場規模推移・予測(サービス提供事業者の売上高)/図表2 シェアリングエコノミーの内訳(2016年)
このような中、7月に内閣府はシェア経済の市場規模の推計結果を初めて発表した。この推計には、サービス提供者の手数料に加えて、フリマアプリの流通総額など、シェアリングサービスを利用した個人の売上金額なども含まれている。2016年の市場規模は4,700億~5,250億円であり、内訳を見ると、レンタルや中古品売買などの「モノ」のシェアが6割弱で3,000億円程度、次いで民泊などの「スペース」が3割強で1,400~1,800億円程度、このほか家事代行などの「スキル・時間」やクラウドファンディングなどの「お金」が200億円前後となっている(図表2)。なお、事業者が提供するカーシェアリングサービスやタクシーのマッチングサービス(配車サービス)は、既存産業と同様のものと見なされ、この推計には含まれていない。また、ライドシェアリングサービスについても、現在のところ、日本ではごく小規模であるために除外されている。

ところで、シェアリングサービスが伸びている理由については、その価格の安さから、長らく続いた景気低迷を背景にした消費者の節約志向で語られることが多い印象がある。しかし、先の経済産業省の調査によれば、消費者がシェアリングサービスを利用する理由は、必ずしも経済的な理由ばかりではない(図表3)。

フリマアプリを利用する理由として、売る側で最も多いのは「捨てるのがもったいないから」であり、7割を占めている。僅差で「お小遣い稼ぎのため」という経済的な理由も続いているが、「物の有効活用をしたいから」「家の片付けをしたいから」なども比較的上位にあがっていることから、消費者は経済面以外のメリットも感じている様子がうかがえる。一方、買う側の理由では、「安く買えるから」が最も多い。しかし、「掘り出し物があるから」や「お店に売っていないものがあるから」、「物の有効活用をしたいから」なども上位にあがっており、消費者がシェアリングサービスを利用する背景には、節約やお小遣い稼ぎなどの経済面以外の理由もある。

勢いを増すシェア経済、その背景には何があるのか。本稿では、消費者の意識や価値観の変化に注目してシェア経済が拡大する理由を考察する。
図表3 フリマアプリを利用する理由

2――消費者の意識・価値観の変化

2――消費者の意識・価値観の変化~節約意識、所有から利用へ、社会貢献意識の高まり

1|節約意識の高まり~経済環境の厳しさ、少子高齢化による将来の社会保障不安
前述の通り、消費者がシェアリングサービスを利用する理由は経済的なものだけではない。しかし、やはり理由の1つとして、現役世代を中心とした節約意識の高まりも無視できない。

現役世代の経済環境の厳しさについては、既出レポートで何度も述べている通りだ1。長らく続いた景気低迷を背景に、若い世代ほど非正規雇用者として不安定な立場で働く者が増えている。正規雇用者と非正規雇用者では、年齢とともに年収差がひらき、特に男性で顕著だ(図表4)。

また、若い世代では正規雇用者でも安泰というわけではない。かつてと比べて、30代後半から40代にかけて賃金カーブがフラット化している(図表5)。この35~49歳の15年間の累積収入について、2007年と2017年を比べると、2017年では▲約1千万円も減少している。この年代は子育て期とも重なり、住居や子どもの教育費など出費がかさみがちな時期だ。子育て世帯の消費を見ると、2000年以降、所得が減少する中で、食費や通信費などの生活に必要不可欠な「必需的消費」の割合が高まり、娯楽費などの「選択的消費」の割合が低下する傾向が見られる2。また、現役世代では少子高齢化による将来の社会保障不安もあるだろう。「できるだけ消費を抑えたい」という節約意識から、安いモノやサービスの利用意向が高まることは自然なことだ。
図表4 雇用形態別に見た平均年収(2017年、男性)/図表5 大学卒・大学院卒の正規雇用者の賃金カーブの変化(男性)
 
1 久我尚子「求められる20~40代の経済基盤の安定化 経済格差と家族形成格差の固定化を防ぎ、消費活性化を促す」、ニッセイ基礎研究所、基礎研レポート(2017/5/17)など
2 久我尚子「共働き・子育て世帯の消費実態(1)(3)」、ニッセイ基礎研究所、基礎研レポートおよび基礎研レター(2017/3/15~2018/3/12)
2|モノの所有から利用へという価値観の変容~消費社会の成熟化、シェア登場で加速
若い世代ほど厳しい経済環境にはあるものの、実は、若者の方が買い物は好きだ。消費者庁「平成年度消費者意識基本調査」によると、「買い物が好き」と答えた割合は、年齢が若いほど高い(図表6)。「かなり当てはまる」と答えた割合は30代では2割、20代では4分の1を超える。

若いほど買い物好きである一方、消費抑制意識が強いことには矛盾があるようだが、この背景には、若い世代ほど消費社会の成熟化の恩恵を受けて、お金を出さずとも、かつてより質の高い消費生活を送ることができるという状況があるだろう3。例えば、ファッションについて見ると、かつて、バブル期などでは、流行のものや品質の良いものを得るには高価なものを購入する必要があった。しかし、2000年頃からファストファッションが流通し、流行のものや品質の良いものでも安価に入手できるようになっている。良いものが必ずしも高いものではなくなる中で、お金をかけることが必ずしも賞賛されることではなくなり、モノを所有する意義、モノの所有欲が弱まっているのではないか。技術革新による価格下落が著しい家電製品などについても、同様のことが言える。
図表6 「買い物が好き」と答えた人の割合/図表7 総世帯の消費支出の推移(2002年=100)
また、家計の消費内訳を見ると、ファッションなどのモノの支出が減り、通信や保健医療などのサービスの支出が増え(図表7)、消費構造がモノからコトへと変容している状況もある4。モノの所有欲が弱まり、消費がモノからコトへと移る中で、若い世代ほど、モノを所有するよりも、必要な時に利用できればそれでよいという意識が高まっているのではないか。

モノの所有から利用へという意識は、シェアリングサービスが加速させている部分もあるだろう。これまでも、事業者が提供するファッションや家具のリサイクルショップ、古本ショップなどは存在していた。しかし、フリマアプリの登場で、個人と個人が容易につながるプラットフォームができ、個人が目にする中古品の量が飛躍的に増えた。その結果、例えば、若者ではSNSなどで目にした商品の情報を検索エンジンではなくフリマアプリで検索し、フリマアプリでの売買成立額と定価の差額を実質コストと認識して買うという行動も見られるようだ。フリマアプリで「売るときのことを考えて買う」という行動を取ることで、モノの所有から利用へという意識は高まっているのではないか。

また、シェアリングサービスを利用すれば、中古品などのモノだけでなく、不動産などのスペースやスキル・時間など、個人の遊休資産に関する情報を瞬時に把握することができる。自分で所有していないものでも利用できる環境が多方面から整い始めている。
 
3 久我尚子「若年層の消費実態(1)(5)」、ニッセイ基礎研究所、基礎研レター(2016/6/6~2017/2/15)など
4 久我尚子「変容する消費構造~モノからサービス、デパートからネット、BtoCからCtoCへ~消費者の今を知る」、ニッセイ基礎研究所、基礎研レター(2018/8/7)

(2018年10月18日「基礎研レポート」)

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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

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