2018年09月25日

ドイツの生命保険会社の状況(3)-BaFinの2017年Annual Reportより(資本規制を巡る状況への対応及び2017年の生命保険会社の状況)-

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3|SCRの構成
2017年12月31日現在、中間報告の対象となる生命保険会社のSCRは、前年度の360億ユーロに対し、317億ユーロに減少した。総基本SCRで測定したところ、2017年の標準式を適用した会社の資本要件の平均76%は、市場リスク(分散効果を除く)に起因していた。さらに、保険引受に関連するSCRの重要な部分は、生命(29%)及び健康(21%)保険のリスクである。対照的に、カウンターパーティデフォルトリスク(2%)は一般的にそれほど重要ではなかった。総基本SCRを下げる分散化効果がまだ含まれていないため、引用したパーセンテージは100%を上回る。分散効果は28%に達した。

カバーすることが要求されるSCRは、その他の変数を考慮して、総基本SCRに基づいて計算される。これに関連して、技術的準備金(65%)及び繰延税金(9%)の損失吸収効果が減少し、オペレーショナル・リスク(3%)はわずかに増加した。

4|自己資本の構成
中間報告の対象となる生命保険会社のSCR適格自己資本は、2017年12月31日現在で1,211億ユーロに達した。前年度において、自己資本の98%が基本自己資本により計上され、補助自己資金によるものは2%だった。適格自己資本の96%は、最も高いクラスの自己資本(Tier 1)に帰属し、残りの大部分は2番目に高いクラス(Tier 2)に帰属していた。平均して、調整準備金は業界の自己資本の64%を占め、剰余金は29%を占めた。報告日のその他の注目すべき要素は、発行プレミアム(4%)及び劣後債務(3%)を含む株式資本だった。

5|改善措置
移行措置を適用し、その措置なしではSCRを十分にカバーできない会社は、保険監督法第353条(2)に従って改善計画を提出しなければならない。計画では、十分な自己資本を生み出し、リスクプロファイルを減らすために計画された措置の段階的な導入を説明しなければならず、遅くとも2031年12月31日の移行期間の終了時までに、移行措置を用いることなくソルベンシー資本要件の遵守が保証されなければならない。

ソルベンシーIIの導入以来、27の生命保険会社は、移行措置無しでは適切なSCRのカバレッジを保証することができなかったため、改善計画を提出する必要があった。BaFinは、SCRが遅くとも移行期間の終了後に、長期的に遵守されることを確実にするために、これらの会社に密接に関与している。関連する会社は、移行措置を適用しないで適切なSCRカバレッジが回復したとしても、年次進捗報告書における措置の進展段階についてコメントする必要がある。

なお、2016年末においては、該当会社数は29社であったので、2社減少している。
 

5―2017年の生命保険会社の事業結果

5―2017年の生命保険会社の事業結果

2017年の生命保険会社の事業結果の概要は、以下の通りである。

1|契約動向
2017年の元受生命保険新契約は、約490万件で前年の500万件レベルを若干下回った。同時に、新契約価値の総額は、前年度の2,642億ユーロに対して、0.6%増加して約2,658億ユーロとなった。

定期保険で計上された新契約総数の占める割合は、34.1%から35.4%に増加した。

同期間に、年金及びその他の保険契約に起因するシェアは、55.8%から55.5%にわずかに低下した。養老生命保険契約の割合も1.0ポイント低下して9.1%となった。

生命保険契約の早期解約(払戻し、払済契約への転換及び早期終了の他の形態)は、2016年の230万件から当期の220万件へとわずかな減少を記録した。しかし、早期に終了した保険契約の保険金総額は、前年度の981億ユーロに対し、985億ユーロとわずかに増加した。

2017年末には、前年度の8,450万人と比較して、合計約8,370万人の元受生命保険契約があった。対照的に、保険金額は2.9%増の3,102百万ユーロだった。定期保険契約は契約総額が13.0百万ユーロから約12.9百万ユーロへと若干減少したが、保険金総額は7,814億ユーロから8,279億ユーロに大幅に増加した。年金及びその他の保険契約は、近年の好調な傾向を続けており、契約数のシェアは52.6%から54.4%に増加している。保険金総額のシェアは54.5%から55.6%に上昇した。

ドイツの生命保険会社の元受保険契約に係る総保険料は、856億ユーロ(前年度:857億ユーロ)と前年度とほぼ変わらなかった。

2|投資動向
総投資額は、8,826億ユーロから9,061億ユーロへ2.7%増加した。特に、資本市場の金利水準がやや回復したため、年末の正味含み益は、前年度の1,525億ユーロに対し、1326億ユーロに減少した。これは、前年の17.2%に対して、総投資の14.6%に相当している。

予備的数値では、2017年の平均純投資収益率は前年と同じ4.4%であった。純収益率が高い理由の1つは、保険会社が追加責任準備金Zinszusatzreserveを設立するための高い費用を賄うために、投資評価準備金を再び実現益化したことによる。

3|将来予測
BaFinは、2017年に生命保険会社の将来予測を再び行った。BaFinは、この予測を使用して、主に2つの異なる資本市場シナリオが、今会計年度の保険会社の業績にどのように影響するかを分析した。

予測の分析は、生命保険会社が短期的及び中期的に契約上の義務を満たすことができるとのBaFinの評価を確認した。しかし、金利が低いままであれば、会社の経済的ポジションが悪化することが予想される。したがって、BaFinは、引き続き低金利の継続的な環境において、早期段階において、先見的かつ重大な方法で、将来の金融進展を分析するために、引き続き保険会社を厳密に監視する。生命保険会社が適切な措置を適切に導入し、適切な準備をすることが不可欠である。

注釈
生命保険予測
2017年9月30日の基準日における予測は、生命保険会社に対する低水準の金利の中長期的な影響を検討することに焦点を当てた。この目的のために、BaFinは、2017事業年度及びその後の事業年度のドイツ商法(Handelsgesetzbuch)に従って、予測財務実績に関するデータを収集した。この目的のために、BaFinは、新規投資及び再投資は、満期10年で金利1.2%の固定利付証券のみで行われたと仮定している。 会社はまた、当期及びその後の2年間に、100bpsの金利上昇が損益に与える影響をシミュレートする必要があった。

 

6―2017年の保険会社の状況

6―2017年の保険会社の状況

なお、損害保険会社や再保険会社を含むドイツの保険会社全体の長期保証措置の適用状況及び投資を巡る状況については、以下の通りとなっている。

1|長期保証措置の適用状況
ドイツ市場では、(1)技術的準備金の評価、(2)ボラティリティ調整、(3)利回り曲線の補外の移行措置が、最も重要な3つのLTG措置を表している。

2017年には、82のドイツ保険会社が、ドイツ保険監督法(Versicherungsaufsichtsgesetz)の第82項に従ってボラティリティ調整を適用した。 63の会社は、保険監督法第352条に基づく技術的準備金の移行措置を用いた。

今後数年間、さらにLTG措置に関する年次報告書が発行される予定である。 2020年に、EIOPAは、プロジェクトグループの作業の結果として、委員会のLTG措置に関する勧告を作成することになっている。

2|元受保険会社の投資
(1)全体的
2017年12月31日現在、BaFinの監督下にあるドイツの元受保険会社が管理する総投資額は、1兆5,171億ユーロ(前年度は1兆4,678億ユーロ)であった。総投資額は3.4%増加(+49.3億ユーロ)であった。保険種類別にみると、ペンションカッセン(+ 5.8%)と健康保険会社(+ 4.8%)が最も高い増加率を記録した。葬儀費用のみが前年度と比較して投資がわずかに減少した。

(2)焦点
前年度と同様に、投資は引き続き確定利付証券及び約束手形貸付に焦点を当てた。固定金利投資にはわずかな変動があった。例えば、直接保有されている上場債券のシェアは、前年度比13.7%増の2,679億ユーロとなった。一方、信用機関への投資シェアは前年度比で減少した。

保険会社が投資ファンドを通じて保有する間接的な投資は、前年度と同様に、2017年の平均成長率(+7.4%)を再び上回り、5,421億ユーロで、全元受保険会社の総投資額の3分の1以上を構成している。

過去数年と同様に、投資ファンドを介して取得した資産は、主に上場有価証券で構成されている。不動産への直接投資の総額は、前年度比6.5%増の351億ユーロとなった。

(3)利回り追求
BaFinは2016年末にEIOPAに代わって保険会社の投資行動に関する調査を実施した。BaFinはこの調査に自身のアンケートを追加した。その目的は、ドイツ保険業界の「利回り追求」行動を調査することだった。調査に参加した35の保険会社(保険会社及び年金基金及び年金カッセン)は、2011年から2015年の間に、より高い利回りを追求して、投資ポートフォリオの構造をどの程度変更したかを尋ねられた。また、2016年から2018年までの期間の予測を提供するように要求された。

この調査では、保険会社は過去5年間の利回り追求において適度なものであり、今後もこのアプローチを継続するつもりであることが判明した。2011年から2015年の間に、利回り追求は、新規投資の満期の長期化、主要投資クラスの変動(債券から株式への転換など)、インフラ投資の高いシェアなどによって特徴付けられた。将来を見据えて、インフラ投資が保険会社にとって重要な領域になることは明らかになっている。

定義
利回り追求
保険会社の利回りの追求を調査するBaFinの目的は、会社がこの目的のためによりリスクの高い投資戦略を採用しているかどうかを調べることである。これは特に低金利時に想定される。追加の利回りを生み出す利点は、債務者の信用力の低下、新しい投資商品の経験不足、流動性の低下、満期の長期化などにより、より頻繁な債務不履行を含む投資リスクにつながる。監督上の観点から、会社がリスクの増大を適切に管理できないことが判明した場合、利回り追求は問題となる。

 

7―まとめ

7―まとめ

以上、今回のレポートでは、国際的な資本規制の構築やソルベンシーIIのレビューを巡る動きへのBaFinの対応及び2017年の生命保険会社の事業結果の状況等について、2017年Annual Reportに基づいて報告してきた。

ドイツの生命保険会社は、引き続きの低金利環境の中で、これまでZZRの積立や新契約の保証利率の引き下げ、さらには保障性商品や固定保証利率を有さない商品へのシフトを進めてきている。こうした対応を反映して、低金利環境への準備は着実に進んできているようにみえる。

ただし、格付け会社等は、ドイツの生命保険会社の格付け動向について、現時点ではネガティブに見ているようであり、その意味では、引き続き注意深く監視していく必要があるものと思われる。

こうした状況下で、グローバルベースでの資本規制や会計基準等の見直しの動きに対して、BaFinは自国ドイツの状況を踏まえた上で、原則的な考え方には同意しつつも、適宜適切な措置が取られることが必要なことを主張し、その反映に努めてきているようである。

ある意味で、日本と類似した状況にあるドイツの生命保険会社を巡る状況に関しては、日本の生命保険業界関係者にとっても関心の高い事項であることから、今後とも引き続き注視していくこととしたい。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2018年09月25日「保険・年金フォーカス」)

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