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- 【アジア・新興国】東南アジアの経済見通し~貿易摩擦の過熱で下振れリスクが強まるも、底堅い成長を維持
2018年09月21日
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2-4.フィリピン
フィリピン経済は概ね6%台後半の高成長を続けていたが、4-6月期は3年ぶりの6%成長まで鈍化した(図表12)。政府は4月に環境破壊を背景に国内有数の観光地であるボラカイ島を半年間閉鎖したことからサービス輸出が伸び悩んだほか、資本財輸入の増加により純輸出が悪化したことが成長鈍化に繋がった。またGDPの約7割を占める民間消費は物品税増税による物価上昇や就業者数の減少などにより5%台で伸び悩んだ。一方、政府主導のインフラ整備が本格化しており、その呼び水効果が民間部門に波及するなど内需は投資を中心に堅調に拡大しているほか、海外経済の拡大を背景に財輸出も二桁増まで回復した。
先行きのフィリピン経済は投資主導の6%台半ばの成長を続けるが、物価上昇と利上げが景気抑制要因となって緩やかに減速すると予想する。税制改革法第1弾TRAINの施行によりインフラ財源の目途が立ったドゥテルテ政権は、18 年度予算の資本支出を前年度比26.9%増(前年度:同23.7%増)と積み増しており、今後もインフラ整備計画「ビルド・ビルド・ビルド」を継続する公算である1。これにより公共投資が拡大、その呼び水効果で民間部門も建設投資を中心に堅調に推移しよう。
民間消費については、まず物品税増税に伴う物価上昇によって家計の実質所得が目減りすること、海外経済の減速により海外出稼ぎ労働者の送金も鈍化することから今後伸び悩む展開となりそうだ。もっとも国内ではインフラ整備計画により建設業を中心に82万人の雇用が創出される見込みであり、政府が税制改革の影響を和らげるために実施した貧困層1,000万人への現金給付策が支えとなり、消費は底堅さを保つと見込まれる。
外需は、昨年に比べて輸出の増勢が鈍化する一方、建設資材や機械などの資本財輸入を中心に増加するだろう。結果として、輸入の伸びは輸出を上回り、純輸出の寄与度は大幅なマイナスが続くと予想する。
金融政策はここ数年緩和的な政策スタンスが維持されてきたが、中央銀行は5月以降の金融委員会で3会合連続の利上げ(計+1.0%)を実施し、政策金利を4.00%まで引き上げている(図表13)。物品税増税や原油高によりインフレ率が上昇して3月以降、中銀目標(3±1%)の上限を大きく上回っているためだ。直近の8月の消費者物価上昇率は前年比6.4%増と更に加速しており、9月の金融委員会では4会合連続の利上げを決める可能性が高い。しかし、来年は増税の影響が一巡するほか、これまでの利上げが景気を抑制するため、インフレ率の鈍化傾向が続いて追加利上げは見送られるだろう。
実質GDP成長率は17年の6.7%から18年が6.4%、19年が6.3%と緩やかに低下すると予想する。
フィリピン経済は概ね6%台後半の高成長を続けていたが、4-6月期は3年ぶりの6%成長まで鈍化した(図表12)。政府は4月に環境破壊を背景に国内有数の観光地であるボラカイ島を半年間閉鎖したことからサービス輸出が伸び悩んだほか、資本財輸入の増加により純輸出が悪化したことが成長鈍化に繋がった。またGDPの約7割を占める民間消費は物品税増税による物価上昇や就業者数の減少などにより5%台で伸び悩んだ。一方、政府主導のインフラ整備が本格化しており、その呼び水効果が民間部門に波及するなど内需は投資を中心に堅調に拡大しているほか、海外経済の拡大を背景に財輸出も二桁増まで回復した。
先行きのフィリピン経済は投資主導の6%台半ばの成長を続けるが、物価上昇と利上げが景気抑制要因となって緩やかに減速すると予想する。税制改革法第1弾TRAINの施行によりインフラ財源の目途が立ったドゥテルテ政権は、18 年度予算の資本支出を前年度比26.9%増(前年度:同23.7%増)と積み増しており、今後もインフラ整備計画「ビルド・ビルド・ビルド」を継続する公算である1。これにより公共投資が拡大、その呼び水効果で民間部門も建設投資を中心に堅調に推移しよう。
民間消費については、まず物品税増税に伴う物価上昇によって家計の実質所得が目減りすること、海外経済の減速により海外出稼ぎ労働者の送金も鈍化することから今後伸び悩む展開となりそうだ。もっとも国内ではインフラ整備計画により建設業を中心に82万人の雇用が創出される見込みであり、政府が税制改革の影響を和らげるために実施した貧困層1,000万人への現金給付策が支えとなり、消費は底堅さを保つと見込まれる。
外需は、昨年に比べて輸出の増勢が鈍化する一方、建設資材や機械などの資本財輸入を中心に増加するだろう。結果として、輸入の伸びは輸出を上回り、純輸出の寄与度は大幅なマイナスが続くと予想する。
金融政策はここ数年緩和的な政策スタンスが維持されてきたが、中央銀行は5月以降の金融委員会で3会合連続の利上げ(計+1.0%)を実施し、政策金利を4.00%まで引き上げている(図表13)。物品税増税や原油高によりインフレ率が上昇して3月以降、中銀目標(3±1%)の上限を大きく上回っているためだ。直近の8月の消費者物価上昇率は前年比6.4%増と更に加速しており、9月の金融委員会では4会合連続の利上げを決める可能性が高い。しかし、来年は増税の影響が一巡するほか、これまでの利上げが景気を抑制するため、インフレ率の鈍化傾向が続いて追加利上げは見送られるだろう。
実質GDP成長率は17年の6.7%から18年が6.4%、19年が6.3%と緩やかに低下すると予想する。
1 ドゥテルテ政権の経済政策の主軸である「ビルド・ビルド・ビルド」では、首都圏を横断する南北通金銭、首都圏の地下鉄、ミンダナオ地方の鉄道などの大型案件を含み、インフレ関連支出を17年の5.3%から22年までに同7.4%へ拡大することを掲げている。
2-5.ベトナム
ベトナム経済は外需の拡大を受けて政府目標の+6.5~6.7%を上回る成長ペースが続いている(図表14)。2018年4-6期の成長率は前年比7.1%増と、1-3月の同7.4%増から減速したものの、高水準を維持した。景気の牽引役は二桁成長が続く製造業である。今年は冬季五輪やサッカーワールドカップなどの大型イベント開催の影響や、新型スマートフォン発売のタイミングが去年より早まったことにより、テレビや携帯電話・同部品の生産・輸出が1-3月期に急増、4-6月期はその反動で鈍化したが、同じく主力製品のアパレル関連は好調であり、製造業が経済の牽引役である構図に変わりない(図表15)。サービス業は製造業の生産拡大に伴う雇用・所得環境の改善や外国人観光客の増加によって卸売・小売業やホテル・レストラン業を中心に堅調に拡大した。また農林水産業は僅かに減速したものの、緩やかな回復基調は続いているとみられる。一方、鉱業は原油価格下落を受けて生産コストが割高な国内の油田の減産により低迷している。
先行きのベトナム経済は成長ペースが落ちるものの、高めの成長を維持すると予想する。輸出はITサイクルのピークアウトによって増勢が鈍化するだろう。しかし、外国直接投資(FDI)の伸びは高水準にあるほか、年前半まで低調だったFDI認可額が足元では製造業を中心に順調に拡大してきている。結果として、製造業は若干鈍化するものの、発効が目前に迫るTPP11や欧州連合との自由貿易協定(EVFTA)を背景に中期的に外国資本の流入が続くことから、製造業は引き続き景気の牽引役となるだろう。また政府は公的債務の抑制に努める一方で、成長目標の達成に向けて経済特区や工業団地の開発、同周辺のインフラ整備を進めるため、建設業は今後も底堅く推移するだろう。
一方、サービス業は製造業の生産能力拡張や継続的な賃金上昇を背景に中間層が増加するほか、外国人観光客数の増加も続くと見込まれ、卸売・小売業やホテル・レストラン業を中心には堅調な伸びが見込まれる。もっとも今後の物価上昇により家計の実質所得が目減りして購買力が伸び悩み、サービス業が鈍化する展開も予想される。
金融政策は、中央銀行が昨年7月に14年以来の利下げを実施して以降、据え置かれている。インフレ率は6-7月に政府目標(年平均4%以下)を上回るなど、原油高を背景に上昇している。政府は価格統制を実施しているが、今後もドン安の進行に伴う輸入インフレや内需拡大による賃金上昇を受けて物価上昇圧力が強まる可能性が高い。インフレ率が物価目標を上回って推移する状況が続くなかで政策金利が引上げられると予想する。
実質GDP成長率は、18年が+6.8%と17年から横ばいとなって政府目標(6.5~6.7%)を若干上回るが、19年が+6.6%と輸出の減速を受けて小幅に低下すると予想する。
ベトナム経済は外需の拡大を受けて政府目標の+6.5~6.7%を上回る成長ペースが続いている(図表14)。2018年4-6期の成長率は前年比7.1%増と、1-3月の同7.4%増から減速したものの、高水準を維持した。景気の牽引役は二桁成長が続く製造業である。今年は冬季五輪やサッカーワールドカップなどの大型イベント開催の影響や、新型スマートフォン発売のタイミングが去年より早まったことにより、テレビや携帯電話・同部品の生産・輸出が1-3月期に急増、4-6月期はその反動で鈍化したが、同じく主力製品のアパレル関連は好調であり、製造業が経済の牽引役である構図に変わりない(図表15)。サービス業は製造業の生産拡大に伴う雇用・所得環境の改善や外国人観光客の増加によって卸売・小売業やホテル・レストラン業を中心に堅調に拡大した。また農林水産業は僅かに減速したものの、緩やかな回復基調は続いているとみられる。一方、鉱業は原油価格下落を受けて生産コストが割高な国内の油田の減産により低迷している。
先行きのベトナム経済は成長ペースが落ちるものの、高めの成長を維持すると予想する。輸出はITサイクルのピークアウトによって増勢が鈍化するだろう。しかし、外国直接投資(FDI)の伸びは高水準にあるほか、年前半まで低調だったFDI認可額が足元では製造業を中心に順調に拡大してきている。結果として、製造業は若干鈍化するものの、発効が目前に迫るTPP11や欧州連合との自由貿易協定(EVFTA)を背景に中期的に外国資本の流入が続くことから、製造業は引き続き景気の牽引役となるだろう。また政府は公的債務の抑制に努める一方で、成長目標の達成に向けて経済特区や工業団地の開発、同周辺のインフラ整備を進めるため、建設業は今後も底堅く推移するだろう。
一方、サービス業は製造業の生産能力拡張や継続的な賃金上昇を背景に中間層が増加するほか、外国人観光客数の増加も続くと見込まれ、卸売・小売業やホテル・レストラン業を中心には堅調な伸びが見込まれる。もっとも今後の物価上昇により家計の実質所得が目減りして購買力が伸び悩み、サービス業が鈍化する展開も予想される。
金融政策は、中央銀行が昨年7月に14年以来の利下げを実施して以降、据え置かれている。インフレ率は6-7月に政府目標(年平均4%以下)を上回るなど、原油高を背景に上昇している。政府は価格統制を実施しているが、今後もドン安の進行に伴う輸入インフレや内需拡大による賃金上昇を受けて物価上昇圧力が強まる可能性が高い。インフレ率が物価目標を上回って推移する状況が続くなかで政策金利が引上げられると予想する。
実質GDP成長率は、18年が+6.8%と17年から横ばいとなって政府目標(6.5~6.7%)を若干上回るが、19年が+6.6%と輸出の減速を受けて小幅に低下すると予想する。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2018年09月21日「Weekly エコノミスト・レター」)
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03-3512-1780
経歴
- 【職歴】
2008年 日本生命保険相互会社入社
2012年 ニッセイ基礎研究所へ
2014年 アジア新興国の経済調査を担当
2018年8月より現職
斉藤 誠のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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