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- 【マレーシア】4-6月期GDPは前年同期比+4.5%-コモディティの供給ショックで3期連続の景気減速
2018年08月17日
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2018年4-6月期の実質GDP成長率は前年同期比4.5%増*1と前期の同5.4%増から低下したほか、Bloomberg 調査の市場予想(同5.2%増)を下回った。
4-6月期の実質GDPを需要項目別に見ると、主に純輸出の悪化が成長率低下に繋がった(図表1)。
GDPの5 割強を占める民間消費は前年同期比8.0%増(前期:同6.9%増)と、食品・飲料や情報通信、ホテル・レストランなどを中心に上昇した。
政府消費は前年同期比3.1%増(前期:同0.4%増)と、5 月の総選挙実施による支出拡大で上昇した。
総固定資本形成は同2.2%増と、前期の同0.1%増から上昇したものの、緩やかな伸びに止まった。設備投資こそ同3.6%増(前期:同3.6%減)とプラスに転じたが、建設投資が同2.1%増(前期:同2.8%増)と低下したほか、その他投資が同2.9%減(前期:同0.2%減)と3 期連続のマイナスとなった。なお、投資を公共部門と民間部門に分けて見ると、全体の7 割を占める民間部門が同6.1%増(前期:同0.5%増)と持ち直した一方、公共部門が同2.9%減(前期:同1.0%減)と低迷して3 期連続のマイナスとなった。
純輸出は実質GDP 成長率への寄与度が+0.1%ポイントとなり、前期から3.9%ポイント縮小した。
4-6月期の実質GDPを需要項目別に見ると、主に純輸出の悪化が成長率低下に繋がった(図表1)。
GDPの5 割強を占める民間消費は前年同期比8.0%増(前期:同6.9%増)と、食品・飲料や情報通信、ホテル・レストランなどを中心に上昇した。
政府消費は前年同期比3.1%増(前期:同0.4%増)と、5 月の総選挙実施による支出拡大で上昇した。
総固定資本形成は同2.2%増と、前期の同0.1%増から上昇したものの、緩やかな伸びに止まった。設備投資こそ同3.6%増(前期:同3.6%減)とプラスに転じたが、建設投資が同2.1%増(前期:同2.8%増)と低下したほか、その他投資が同2.9%減(前期:同0.2%減)と3 期連続のマイナスとなった。なお、投資を公共部門と民間部門に分けて見ると、全体の7 割を占める民間部門が同6.1%増(前期:同0.5%増)と持ち直した一方、公共部門が同2.9%減(前期:同1.0%減)と低迷して3 期連続のマイナスとなった。
純輸出は実質GDP 成長率への寄与度が+0.1%ポイントとなり、前期から3.9%ポイント縮小した。
まず輸出は同2.0%増(前期:同3.7%増)と低下した。主力の電気電子製品(同9.8%増)や石油製品(同25.9%増)、原油(同31.2%増)が好調だった一方、パーム油・同製品(同12.0%減)や液化天然ガス(同5.1%減)が減少した。輸入については同2.1%増(前期:同2.0%減)とプラスに転じた。輸入は資本財(同12.7%増)が拡大する一方、消費財と中間財(同4.7%減)がそれぞれ落ち込んだ。
供給側を見ると、主に農林水産業と鉱業の悪化が成長率低下に繋がった(図表2)。
第一次産業は同2.5%減(前期:同2.8%増)と、前期まで好調が続いたパーム油(同6.0%減)をはじめ、天然ゴム(同20.0%減)や林業(同6.0%減)が落ち込んでマイナスとなった。
第二次産業をみると、まず製造業が同4.9%増(前期:同5.3%増)と低下した。内訳を見ると、電気・電子、光学機器(同6.2%増)が堅調だったが、動植物性油脂、食品加工(同4.1%増)が伸び悩んだ。また鉱業は同2.2%減(前期:同0.1%増)と天然ガスの生産が落ち込んで2四半期ぶりのマイナス成長となった。建設業は同4.7%増(前期:同4.9%増)となり、土木(18.9%増)が牽引役となる一方で住宅建設(7.3%減)と非住宅建設(4.6%減)が重石となって若干低下した。
GDPの6割弱を占める第三次産業は前年同期比6.5%増(前期:同6.5%増)と横ばいだった。政府サービス(同4.5%増)と金融・保険(同4.2%増)が低下する一方、卸売・小売(同7.7%増)や情報・通信(同8.6%増)、不動産・ビジネスサービス(同7.8%増)が堅調に拡大した。
*1 8 月17 日、マレーシア統計庁は2018 年4-6 月期の国内総生産(GDP)を公表した。前期比(季節調整済)で見ると、実質GDP成 長率は0.3%増と、前期(同1.4%増)から低下した。
供給側を見ると、主に農林水産業と鉱業の悪化が成長率低下に繋がった(図表2)。
第一次産業は同2.5%減(前期:同2.8%増)と、前期まで好調が続いたパーム油(同6.0%減)をはじめ、天然ゴム(同20.0%減)や林業(同6.0%減)が落ち込んでマイナスとなった。
第二次産業をみると、まず製造業が同4.9%増(前期:同5.3%増)と低下した。内訳を見ると、電気・電子、光学機器(同6.2%増)が堅調だったが、動植物性油脂、食品加工(同4.1%増)が伸び悩んだ。また鉱業は同2.2%減(前期:同0.1%増)と天然ガスの生産が落ち込んで2四半期ぶりのマイナス成長となった。建設業は同4.7%増(前期:同4.9%増)となり、土木(18.9%増)が牽引役となる一方で住宅建設(7.3%減)と非住宅建設(4.6%減)が重石となって若干低下した。
GDPの6割弱を占める第三次産業は前年同期比6.5%増(前期:同6.5%増)と横ばいだった。政府サービス(同4.5%増)と金融・保険(同4.2%増)が低下する一方、卸売・小売(同7.7%増)や情報・通信(同8.6%増)、不動産・ビジネスサービス(同7.8%増)が堅調に拡大した。
*1 8 月17 日、マレーシア統計庁は2018 年4-6 月期の国内総生産(GDP)を公表した。前期比(季節調整済)で見ると、実質GDP成 長率は0.3%増と、前期(同1.4%増)から低下した。
4-6月期GDPの評価と先行きのポイント
マレーシア経済は海外経済の回復や国際原油価格の上昇を受けて堅調に拡大し、昨年の成長率は+5.9%と3年ぶりの高水準を記録した。しかし、好調だった昨年に比べて今年は景気減速が続いている。4-6月期の実質GDP成長率は前年同期比4.5%成長と、鉱業と農業のマイナス成長を受けて1-3月期から0.9%ポイント低下した。鉱業部門はサバ・オイル&ガス・ターミナルとペトロナスLNGコンプレックスを結ぶパイプラインの破損に伴う供給の混乱や日本向けLNG輸出が契約更改によって減少したこと、また農業部門は悪天候や断食明けのハリラヤ休暇など背景にパーム油などの農産品の生産が落ち込んだことが影響した。
GDPを需要面から見ると公共投資と純輸出こそ悪化したが、民間部門は消費と投資が揃って堅調で推移しており、民間主導の成長軌道には大きな変化は見られない。
GDPを需要面から見ると公共投資と純輸出こそ悪化したが、民間部門は消費と投資が揃って堅調で推移しており、民間主導の成長軌道には大きな変化は見られない。
まず民間消費については、消費を巡る環境が依然として良好な点が挙げられる。4-6月期は雇用者数が前年同期比2.6%増(前期:同2.2%増)と拡大(図表3)、民間給与(製造業・サービス業)も同5.7%増(前期:同6.6%増)と昨年から堅調な伸びが続いており、雇用・所得環境の改善傾向に大きな変化は見られない。また民間投資も、こうした消費需要の拡大に輸出の持続的拡大と原油価格の上昇が加わり、企業は生産拡大に向けた投資を継続している。
またマハティール新政権の経済政策も内需拡大に寄与し始めている。まず政府は公約どおり、5月に燃料価格を毎週見直しする制度を改定してガソリン価格と軽油価格を安定させると共に、6月にはGSTの廃止*2を実施した。また前政権が今年度予算に盛り込んだ公務員と年金受給者を対象としたハリラヤ休暇の特別ボーナスの支給や、低所得者向けの現金給付策も1マレーシア・ピープルズ・エイド(BR1M)から新たな生活支援金(BSH)へと名称を代えて継続している。
これらの措置を背景に消費者と企業のセンチメントは大きく改善したほか(図表4)、消費者物価上昇率も1%台の低水準で推移しており消費者の購買力向上に繋がっている。とりわけGSTを廃止した6月から売上・サービス税(SST)を再導入する9月までの期間はタックス・ホリデーとなり、消費需要を押上げそうだ。実際、6月の自動車販売台数は前年比28%増と、値下がり期待で買い控えられた5月の同15%減から大きく上昇している。このタックス・ホリデーにより、消費は残りの7-8月も拡大するだろうが、9月にはその反動減から一時的に落ち込むだろう。もっともGST廃止とSST再導入はネット減税であるため、消費は再び拡大基調を辿るものと予想される。
従って、マレーシア経済は昨年ほどの高成長は望めないまでも、民間部門を中心とした安定した成長軌道を当面維持していくだろう。もっとも政府は、同時に大型インフラ事業の見直しを推し進めている。今後は政府主導の開発投資が減少して成長エンジンが失われる恐れもあるだけに、注意してみていく必要はありそうだ。
*2 政府は6月1日よりGSTの廃止(ゼロ税率化)を実施しており、9月にはSSTの再導入(売上税10%、サービス税6%)させる予定。今年の税収はGST廃止により210億リンギ減少する一方、SST再導入により40億リンギ増加すると試算されている。
またマハティール新政権の経済政策も内需拡大に寄与し始めている。まず政府は公約どおり、5月に燃料価格を毎週見直しする制度を改定してガソリン価格と軽油価格を安定させると共に、6月にはGSTの廃止*2を実施した。また前政権が今年度予算に盛り込んだ公務員と年金受給者を対象としたハリラヤ休暇の特別ボーナスの支給や、低所得者向けの現金給付策も1マレーシア・ピープルズ・エイド(BR1M)から新たな生活支援金(BSH)へと名称を代えて継続している。
これらの措置を背景に消費者と企業のセンチメントは大きく改善したほか(図表4)、消費者物価上昇率も1%台の低水準で推移しており消費者の購買力向上に繋がっている。とりわけGSTを廃止した6月から売上・サービス税(SST)を再導入する9月までの期間はタックス・ホリデーとなり、消費需要を押上げそうだ。実際、6月の自動車販売台数は前年比28%増と、値下がり期待で買い控えられた5月の同15%減から大きく上昇している。このタックス・ホリデーにより、消費は残りの7-8月も拡大するだろうが、9月にはその反動減から一時的に落ち込むだろう。もっともGST廃止とSST再導入はネット減税であるため、消費は再び拡大基調を辿るものと予想される。
従って、マレーシア経済は昨年ほどの高成長は望めないまでも、民間部門を中心とした安定した成長軌道を当面維持していくだろう。もっとも政府は、同時に大型インフラ事業の見直しを推し進めている。今後は政府主導の開発投資が減少して成長エンジンが失われる恐れもあるだけに、注意してみていく必要はありそうだ。
*2 政府は6月1日よりGSTの廃止(ゼロ税率化)を実施しており、9月にはSSTの再導入(売上税10%、サービス税6%)させる予定。今年の税収はGST廃止により210億リンギ減少する一方、SST再導入により40億リンギ増加すると試算されている。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2018年08月17日「経済・金融フラッシュ」)
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03-3512-1780
経歴
- 【職歴】
2008年 日本生命保険相互会社入社
2012年 ニッセイ基礎研究所へ
2014年 アジア新興国の経済調査を担当
2018年8月より現職
斉藤 誠のレポート
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