2018年09月18日

【アジア・新興国】タイの生命保険市場(2017年版)

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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1―市場概況

2017年のタイ生命保険市場の正味収入保険料(返戻金控除前)は前年比5.5%増の5,914億バーツ(約2.0兆円)と、前年の同7.0%増を下回り、3年連続で一桁台の伸びに止まった(図表1)。収入保険料の内訳を見ると、初年度収入保険料は1,629億バーツ(同2.9%増)と一時払い保険の販売の増加が寄与して3年ぶりに拡大した。また次年度以降収入保険料は4,285億バーツ(同6.5%増)と底堅い伸びを維持したものの、これまでの二桁の増加ペースには達しなかった。

保有契約件数は前年比5.8%増の2,605万件、保有契約高は前年比2.2%増の17.5兆バーツ(約59.5兆円)となった。結果として、1件当たりの保有契約高は67.3万バーツと、前年から2.4万バーツ減少した(図表2)。
(図表1)正味収入保険料の推移/(図表2)保険契約高と保有契約件数
タイ経済は中長期的な成長ペースが低下基調にあるものの、2017年の名目GDP成長率は前年比6.3%増となり、2017年の同5.7%増から0.6%ポイント拡大した。2017年は世界同時景気回復を背景に輸出が好調に推移したほか、公共投資と観光業が経済の牽引役となるなか、民間消費の回復傾向も続いて収入保険料の持続的拡大に繋がったものと考えられる。

タイ生保市場は2014年頃まで概ね二桁成長を続けてきたことを踏まえると、直近3年間は収入保険料が伸び悩んでいることは確かだ。この要因としては低金利環境が続いて貯蓄性商品の販売が落ちたことや、消費者ニーズに応える商品を出せなかったこと、家計債務が高止まりしていることも販売の足枷となったこと等が挙げられる。
(国際比較)
諸外国と比較すると、タイの生命保険市場が依然として高めの成長を遂げていることが分かる。スイス再保険会社1によると、2017年のタイの生命保険料(インフレ調整後)は前年比3.5%増と、世界全体の同0.5%増を上回った。

一方、2017年のタイの保険密度(国民1人当たり生命保険料)は237ドル、生命保険浸透度(対GDP比生命保険料)は3.6%であり、日本や韓国、台湾、香港、シンガポールといったNIEs(新興工業経済地域)4カ国と比べると依然として低水準に止まっている(図表3,4)。このことはタイ生命保険市場が将来の成長余地が十分にあることを示しており、それぞれの指標は今後も緩やかに上昇していくものと見込まれる。
(図表3)保険密度 1人当たり生命保険料(2017年)/(図表4)生命保険浸透度 対GDP比生命保険料(2017年)
 
1 スイス再保険会社Swiss Re,Sigma No3/2018
 

2―保険種類別の販売動向

2―保険種類別の販売動向

保険種類別に新契約保険料(元受ベース)を見ると、団体保険が前年比5.4%増の470億バーツ、簡易保険が同8.1%増の7億バーツ、(ユニット・リンク保険や年金保険などの)その他が同78.0%増の180億バーツと上昇した一方、普通保険が前年比2.4%減の1,047億バーツ、個人傷害保険が同2.7%減の57億バーツと、それぞれ減少した(図表5)。その他の保険販売の急増は、景気の好転から株価の上昇基調が続いてユニット・リンク保険の販売が約2.5倍に膨れ上がったことが主因とみられる。

収入保険料を見ると、最大の普通保険は前年比5.7%増の4,984億バーツ、団体保険は同5.1%増の635億バーツ、簡易保険は同3.5%減の64億バーツ、個人傷害保険は同1.6%減の57億バーツ、その他は同49.5%増の346億バーツとなった。その結果、収入保険料シェアは普通保険が81.9%(前年対比1.2%ポイント減)となり緩やかな低下基調にあるが、依然として普通保険がシェアの大半を占める構図になっている(図表6)。
(図表5)保険種類別の新契約保険料/(図表6)保険種類別の収入保険料シェア

3―商品別の販売動向

3―商品別の販売動向

普通保険の商品別に新契約保険料(元受ベース)を見ると、終身保険が前年比13.7%増の338億バーツと上昇基調が続く一方、養老保険が同9.2%減の662億バーツ、定期保険が同2.2%減の43億バーツとなり、それぞれ前年に続いて減少した(図表7)。

収入保険料を見ると、最大の養老保険が同3.7%増の3,603億バーツと緩やかな伸びに止まる一方、終身保険が前年比11.8%増の1,308億バーツとなり、大きく上昇した。これに受けて収入保険料シェアは養老保険が72.3%(前年対比1.4%ポイント減)となり緩やかな低下基調にあるが、引き続き養老保険がシェアの大半を占める結果となった(図表8)。
(図表7)普通保険の商品別の新契約保険料/(図表8)普通保険の商品別の収入保険料シェア

4―販売チャネル別の販売動向

4―販売チャネル別の販売動向

販売チャネル別に新契約保険料(元受ベース)を見ると、エージェントが前年比7.7%増の666億バーツ、ブローカーが同7.9%増の91億バーツとなり、それぞれ大きく上昇する一方、銀行窓販が同1.6%増の941億バーツと緩やかな伸びに止まり、直販が同9.9%減の38億バーツと大きく減少した(図表9)。2017年も低金利環境が続いたことから、貯蓄性商品の多い銀行窓販が伸び悩んだ格好だ。

収入保険料を見ると、シェア最大のエージェントが同5.3%増の3,024億バーツと拡大する一方、銀行窓販は前年比10.1%増の2,685億バーツと大幅に増加した。また昨年、シェア第3位となったブローカーは同13.4%増の166億バーツとなり、引き続き直販(139億バーツ、同4.0%増)を上回った。結果として、収入保険料シェアはエージェントが49.7%と、引き続き最大の販売チャネルとなったものの、前年から0.9%ポイント縮小して初めて50%を割った(図表10)。一方、銀行窓販は44.1%と、前年から1.1%ポイント拡大した。銀行窓販は2002年の解禁以降、銀行が有する堅固な顧客ネットワークの活用や貯蓄機能を有する保険商品の人気から好調な販売が続いて、マーケットシェアが拡大してきている。
(図表9)販売チャネル別の新契約保険料/(図表10)販売チャネル別の収入保険料シェア
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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

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