- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 経済 >
- 日本経済 >
- 「消費税還元セール」は有効か?~反動減対策について考える
「消費税還元セール」は有効か?~反動減対策について考える

上智大学 経済学部 中里 透
このレポートの関連カテゴリ
文字サイズ
- 小
- 中
- 大
消費増税に伴う駆け込み需要と反動減への対応が重視される背景には、14年4月の税率引き上げ(5%から8%へ)後に消費が低迷し、景気の足を引っ張ったということがある。実際、家計最終消費支出の動きを確認すると(図表1)、14年4月の増税後に消費が大きく落ち込み、8四半期(2年)が経過した時点でも消費が増税前の水準まで戻らなかったことがわかる。
このことを踏まえて検討が進められているのが、「税率引上げの前後において、需要に応じて事業者のそれぞれの判断によって価格の設定が自由に行われることで駆け込み需要・反動減が抑制されるよう」(「骨太の方針2018」)にするための方策ということになる。だが、ここで留意が必要なのは、14年4月の消費税率引き上げに際しても価格転嫁が強制されていたわけではなく、あくまで消費税の転嫁の円滑化のために事業者がカルテルを結ぶことが認められていただけだったということだ。実際、増税後の需要の減退を見越して、増税後も税込み価格の上昇が生じないよう対応した企業もあり、価格改定に対する各企業の対応は区々であった。14年4月に生じた大幅な物価上昇は、あくまで各企業の自由な判断に基づく価格改定の結果である。
「自由な価格設定」について留意すべきもうひとつのことは、事業者がどのような形で価格設定をしても、税負担そのものが消えてなくなることはないということだ。事業者が増税分の一部しか商品やサービスの価格に転嫁をしない場合には、税負担が事業者の側に残ることとなり、収益の圧迫を通じて設備投資に対するスタンスの慎重化や賃上げの抑制がもたらされる可能性がある。事業者が増税分の価格転嫁を抑えれば消費の落ち込みが避けられて、景気への悪影響が軽減できるとの見立てについては、この点の見落としがないか慎重な精査が必要となる。
反動減対策としては「消費税還元セール」の解禁も検討されている。だが、この点についても、前回の引き上げ時に禁止されていたのは「消費税還元セール」という名称で特売をすることであって、特売自体が禁止されていたわけではないということに留意が必要だ。「8%還元セール」や「春の生活応援セール」は問題なく実施できたわけであり、したがって、「消費税還元セール」という名称自体に高い訴求力がない限り、反動減対策としての効果は極めて限定的なものにとどまることとなるだろう。
消費税率の引き上げには実質所得の減少を通じて消費の水準を恒常的に引き下げる効果もある。増税前後の消費の動きを形態別に見ると(図表2)、非耐久財についても増税後に消費の落ち込みが生じており、回復の遅れは耐久財・半耐久財よりもむしろ顕著なものとなっていた。このことから示唆されるのは、反動減の影響のみにとらわれて所得・雇用環境への目配りが十分になされないと、誤った対応策がとられてしまうおそれがあるということだ。
増税の実施・延期の判断と反動減への対応については、これらのことを総合的に勘案して、誤りのない政策対応が求められる。
(2018年09月05日「ニッセイ年金ストラテジー」)
このレポートの関連カテゴリ
上智大学 経済学部
中里 透
中里 透のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2024/12/04 | 東京の出生率はなぜ低いのか ――少子化をめぐる「都市伝説」 | 中里 透 | ニッセイ年金ストラテジー |
2023/12/05 | 少子化対策をめぐる不都合な(?)真実 | 中里 透 | ニッセイ年金ストラテジー |
2022/12/05 | 合併か経営統合か 地方銀行の再編について考える | 中里 透 | ニッセイ年金ストラテジー |
2021/12/03 | コロナ後はインフレかデフレか | 中里 透 | ニッセイ年金ストラテジー |
新着記事
-
2025年03月19日
日銀短観(3月調査)予測~大企業製造業の業況判断DIは2ポイント低下の12と予想、トランプ関税の影響度に注目 -
2025年03月19日
孤独・孤立対策の推進で必要な手立ては?-自治体は既存の資源や仕組みの活用を、多様な場づくりに向けて民間の役割も重要に -
2025年03月19日
マンションと大規模修繕(6)-中古マンション購入時には修繕・管理情報の確認・理解が大切に -
2025年03月19日
貿易統計25年2月-関税引き上げ前の駆け込みもあり、貿易収支(季節調整値)が黒字に -
2025年03月19日
米住宅着工・許可件数(25年2月)-着工件数(前月比)は悪天候から回復し、前月から大幅増加、市場予想も上回る
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2024年11月27日
News Release
-
2024年07月01日
News Release
-
2024年04月02日
News Release
【「消費税還元セール」は有効か?~反動減対策について考える】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
「消費税還元セール」は有効か?~反動減対策について考えるのレポート Topへ