2017年09月05日

19年10月にどのようにたどり着くか~消費税をめぐる2つの論点

上智大学 経済学部 中里 透

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2019年10月がまだ先のことと感じられるためか、消費税をめぐる議論はこのところやや低調となっている。だが、15年10月に予定されていた消費税率の10%への引き上げ(17年4月に延期された後、再延期)をめぐる政策調整の例に倣うと、19年10月に予定通り増税を実施するか延期するかを来年の秋までに確定させることが必要ということになる。また、地方消費税については、各都道府県に税収を配分する際の配分基準の見直しについて今年中に成案を得ることとされている。そこで、以下では消費税をめぐる課題について考えてみることとしたい。

国と地方の長期債務残高が今年度末(見込み)で1,037兆円(対名目GDP比187%)、今年度の基礎的財政収支の赤字が18.4兆円(対名目GDP比3.3%)という現在の財政状況を踏まえると、消費税率の引き上げは避けて通ることのできない課題ということになるだろう。だが、政府には財政健全化と並んでデフレ脱却という、もうひとつの重要な政策課題があり、消費税率の2%引き上げと2%の物価安定目標の達成という2つの「2%」の実現を、どのような手順で進めていくかが、これから来年の秋にかけての大きな論点となりそうだ。

日本銀行が「2019年度頃」としている物価安定目標の達成時期については、さらに後ずれする可能性があるが、この見通しに沿って推移した場合には物価目標の達成時期と消費税率引き上げのタイミングが重なることになる。ここで留意が必要なのは、両者の間にトレードオフの関係があるということだ。8%への引き上げが実施された14年4月以降の経過を振り返ってみると、増税による実質所得の低下を受けて家計の節約志向が高まり、3年近くにわたって消費の停滞が続いてきた(図表1)。このような消費の落ち込みは、原油価格の下落に伴うガソリンなどエネルギー関連品目の価格低下と相まって、物価を下押しする要因となった。
図表1:家計の実質所得と実質消費
10%への引き上げ時には上げ幅が2%にとどまり、食料品などについては軽減税率が適用されることから、8%への引き上げ時と比べると増税そのもののインパクトは小さくなるものと予想されるが、消費や物価の基調は前回の引き上げ時よりも弱いものになると見込まれることから、増税の実施とその影響については慎重な見極めが必要となる。

普段はあまり意識しないが、現行の消費税率8%のうち1.7%は地方消費税という地方税になっている。地方消費税は地域間の偏在性の少ない税とされているが、各都道府県の地方消費税の税収を人口1人当たりでみると、東京都の税収が際立って多い(図表2)。このため、一部の地方団体からは、税収の偏在是正などの観点から地方消費税の配分のあり方を見直すべきとの意見が表明されている。また、地方消費税が社会保障財源化されたことを踏まえて、各都道府県の人口を税収の配分基準(清算基準)として重視すべきとの意見もある。
図表2:各都道府県の人口1人当たり地方消費税収(2015年度)
だが、地方消費税は事業者による商品の販売やサービスの提供を対象に、その価額に応じて課税がなされるものであり、税収自体は商品やサービスが実際に消費された場所(最終消費地)の所在する都道府県に帰属させるのが筋だ。地方消費税の配分に関して税収格差の是正や社会保障の需要の反映といった政策的配慮を求めるのであれば、消費譲与税(1997年3月末をもって廃止)や地方交付税など税収の再配分を行うスキームによって別途対応すべきであろう。

もちろん、このことは現行の配分基準(清算基準)の見直しを行う必要がないということを意味するものではなく、清算基準として用いられている指標(各都道府県における小売業販売額、サービス業対個人売上高(収入額)と人口、従業者数)の内容が実際の消費額をより正確に捉えることができるものとなるよう、点検と見直しを行っていくことには重要な意味がある。

消費税については、この他にもさまざまな課題が残されているが、落ち着いた環境のもとで冷静な議論が着実に積み重ねられていくことが望まれる。
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上智大学 経済学部

中里 透

研究・専門分野

(2017年09月05日「ニッセイ年金ストラテジー」)

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