2018年08月13日

2018・2019年度経済見通し(18年8月)

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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1. 2018年4-6月期は年率1.9%と2四半期ぶりのプラス成長

2018年4-6月期の実質GDP(1次速報値)は、前期比0.5%(前期比年率1.9%)と2四半期ぶりのプラス成長となった。

外需は前期比・寄与度▲0.1%(年率▲0.5%)と成長率を若干押し下げたが、民間消費(前期比0.7%)、設備投資(同1.3%)が揃って高い伸びとなったこと、1-3月期に成長率を押し下げた民間在庫変動が成長率に対してほぼニュートラルとなった(1-3月期:前期比年率・寄与度▲0.8%→4-6月期:同0.2%)ことから、民需主導で1%程度とされる潜在成長率を上回る高成長となった。

民間消費は、雇用所得環境が改善を続ける中、大雪や生鮮野菜の価格高騰といった一時的な下押し要因が剥落したため、2四半期ぶりに増加したが、2017年4-6月期から増加と減少を繰り返しており、均してみれば緩やかな持ち直しにとどまっている。
実質GDP成長率の推移(半期) 一方、設備投資は2016年10-12月以降、7四半期連続の増加となった。製造業の能力増強投資、人手不足対応の省力化投資、東京五輪関連の建設投資、訪日外国人急増に伴うホテル建設など、押し上げ要因が多岐にわたっていることが、設備投資の回復を息の長いものにしている。

2018年4-6月期は潜在成長率を上回る成長となったが、1-3月期のマイナス成長の後であることを考慮する必要がある。実質GDP成長率を半期ベースでみると、2018年上期は前期比年率0.2%にとどまり、年率2%程度の高成長が続いた2017年中から大きく減速した。
(輸出の増勢ペースは鈍化)
輸出は2016年半ば頃から増加傾向を続け、経済成長の牽引役となってきたが、ここにきてそのペースは鈍化している。GDP統計の財貨・サービスの輸出は2018年1-3月期が前期比0.6%、4-6月期が同0.2%の低い伸びにとどまり、日本銀行作成の実質輸出も2017年後半の前期比1%台後半のから2018年1-3月期、4-6月期ともに前期比0.5%と伸びが大きく低下した。
実質輸出、輸出数量指数の推移 世界の貿易量は2017年に入ってから経済成長率を上回る伸びが続いてきたが、2017年半ばをピークに伸び率が鈍化し、足もとでは経済成長率と同程度の伸びとなっている。この間、世界経済の成長率は3%台後半であまり変わっていないが、グローバルな貿易取引の活発化をもたらしてきた製造業の急回復が頭打ちとなっていることが世界貿易量の伸び率鈍化につながっていると考えられる。
IHS Markitの製造業PMI(購買担当者指数)は2017年12月の54.5をピークに低下しており、2018年7月は52.7となった。地域別には2017年末にかけて60台の高水準まで上昇したユーロ圏の急低下が目立っている。PMIは世界、米国、ユーロ圏、新興国ともに引き続き中立水準の50を上回っており、製造業の改善基調が途切れたわけではないが、拡大ペースは鈍化しているため、世界貿易量の伸びは当面実質GDP成長率と同程度の伸びが続くことが見込まれる。
世界の実質GDPと貿易量の関係/製造業PMIの推移
先行きについては、米中貿易摩擦の激化が及ぼす悪影響が懸念される。貿易戦争が米中間の関税引き上げ競争にとどまっているうちは、日本経済への悪影響は限定的と考えられる。しかし、米国が自動車・自動車部品の関税引き上げに踏み切った場合には、日本経済への悪影響は格段に大きくなる。日本の対米輸出15.1兆円のうち、自動車・自動車部品は5.5兆円で、対米輸出の36.6%を占める(2017年)。また、日本の自動車メーカーは国内生産の約2倍の海外生産を行っており、第三国からの米国向けの自動車輸出にも関税引き上げの影響が及ぶ。第三国からの米国向け輸出(2017年:166万台)は日本からの米国向け輸出(2017年:175万台)とほぼ同規模だ。関税の引き上げによって海外生産分も含めた米国向けの自動車輸出が落ち込めば、自動車メーカーの連結ベースの売上、収益を大きく下押しする。自動車産業は、鉄鋼、ガラス、電子部品など関連産業の裾野が広く、経済波及効果も大きいことから、自動車メーカーの収益悪化を起点として日本経済が腰折れするリスクが大きく高まるだろう。
日本自動車メーカーの生産拠点・販売先別の台数(2017年)
2018年度の設備投資計画はバブル期を上回る高い伸び (設備投資の回復は本物か)
GDP統計の設備投資は2016年10-12月期から7四半期連続で増加し、景気の牽引役となっている。日銀短観2018年6月調査では、2018年度の設備投資計画(含む土地投資額、除くソフトウェア投資額、研究開発投資額)が前年度比7.9%(全規模・全産業)となり、6月調査としては1983年度以降で最高の伸びとなった。また、日本政策投資銀行の2018年度設備投資計画調査でも、大企業(資本金10億円以上)の設備投資が前年度比21.6%と1980年度以来38年ぶりの高い伸びとなった。
一方、日銀短観6月調査では、大企業・製造業の業況判断DIが2期連続で悪化し、2018年度の経常利益計画が前年度比▲5.1%(全規模・全産業)の減益計画となった。こうした中で、設備投資計画が強い結果となったことから、企業の設備投資意欲が高まっているとの見方がある。
経常利益と設備投資の関係 しかし、例年6月調査では経常利益計画が慎重なものとなるため、設備投資計画が相対的に強く見える傾向があることには注意が必要だ。当年度の経常利益計画が減益、設備投資計画が増加となるのは2014年度から5年連続である。経常利益、設備投資ともにその後上方修正される傾向があるが、近年は経常利益計画の上方修正幅が大きいため、実績ベースでは設備投資の伸びが経常利益の伸びを下回ることがほとんどだ。2013年度から2017年度までの5年間のうち、実績ベースで設備投資が経常利益の伸びを上回ったのは2015年度だけである。
「設備投資/経常利益」比率は低水準 ここで、日銀短観を用いて「設備投資/経常利益」比率を計算すると、1980年代から2000年代初め頃までは100%を上回って推移しており、1990年代前半には200%を上回る水準まで上昇した。バブル崩壊後は過剰設備解消のために企業は長期にわたり設備投資の抑制を続けたため低下傾向が続き、2004年度に100%を下回った。その後、リーマンショックによる経常利益の急速な落ち込みによって、「設備投資/経常利益」比率は一時的に100%を上回ったが、2010年度以降は再び100%を下回って推移している。

近年は設備投資が堅調に推移しているが、経常利益に対する比率は低下傾向が続き、2017年度には64.0%と過去最低水準を更新した。6月調査時点の2018年度計画は強めに見えるが、これも2017年度の経常利益が前年度比12.0%の二桁増益となったことで、経常利益の水準が上がったことが大きく、6月調査ベースの「設備投資/経常利益」比率で比較すれば、2018年度は72.7%と2017年度の73.8%を下回り、過去最低水準を更新している。

設備投資の回復は、あくまでも企業収益の大幅な増加に伴う潤沢なキャッシュフローを主因としたもので、企業の設備投資スタンスが必ずしも積極化している訳ではないと考えられる。
設備投資動機割合 また、人手不足に対応する効率化・省力化投資が活発となりつつあるが、日本政策投資銀行の設備投資計画調査によれば、投資動機の中でその割合が最も高いのは「能力増強投資」(2018年度計画:45.8%)である。「合理化・省力化」の割合は近年あまり変わっておらず、その水準も2018年度計画で6.2%とそれほど高くない。

人手不足が深刻となっている一部の業種で省力化投資が積極的に実施されていることは確かだが、設備投資全体の押し上げ効果は現時点では限定的と考えられる。
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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

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