2018年08月10日

「保育所併設マンション」の建設は進むか~不動産からみた待機児童対策の現状と課題~

生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任 坊 美生子

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1――はじめに

認可保育施設に申し込んでも入れない待機児童は、全国で2万6,000人を超えている(2017年4月1日時点)1。待機児童を50人以上抱える自治体は128団体に上る。ただし、各自治体の中に均一に存在するのではなく、再開発等によって大規模マンションが建設されたり、戸建てが増えたりして、子育て世帯が急増したエリアに、局所的に発生している側面がある。その結果、同じ自治体の中でも、一部の保育所には申し込みが集中して待機児童ができ、郊外の保育所には空きが生じていることもある。待機児童の問題は、人と福祉インフラの配置のミスマッチの問題でもある。

このミスマッチを解決するため、国は2017年10月、民間の開発事業者が大規模マンションを建設する際、自治体から保育所設置を要請するよう求める通知を出した。これを受けて、保育所整備に関する事前協議を開発事業者に義務付ける条例を制定する自治体が増えている。開発事業者に待機児童解消の必要性を訴え、協力を取り付けようという狙いである。

この対策により、果たして大規模マンションに保育所設置が進むのだろうか。円滑に設置運営が進むには、どのような仕組みが必要になるのだろうか。本稿では、開発事業者等への取材を通じて保育所併設マンションの現状を報告し、普及に向けた課題を論じたい。
 
1 厚生労働省「保育所等関連状況取りまとめ(平成 29 年4月1日)」
 

2――保育所併設マンションとは

2――保育所併設マンションとは

1マンションの住人が入れるとは限らない
国土交通省と厚生労働省は2017年10月、自治体向けの通知の中で、大規模マンションを建設する開発事業者に対し、保育施設の設置を要請するよう求めた。国が同年6月に定めた「子育て安心プラン」の中で、待機児童対策の一環として、大規模マンションでの保育施設設置推進が盛り込まれたことを受けたものである。

都市部では、自治体が認可保育所を整備しようとしても適当な用地を見つけるのは難しく、仮に見つかっても、地域の反対によって整備を断念したり、遅れたりするケースもある。「保育所併設マンション」は、建物の計画段階で保育所設置の確約を得ることで、用地不足の問題を乗り越えられるアイディアでもある。

始めに、「保育所併設マンション」がどのようなものか説明しておきたい。マンションの敷地内や同じ棟に保育所があると、マンションの住人の子どもが通っている、とイメージする人も多いだろう。「保育所があれば、将来子どもを持ったときに預けられる」と考えて、購入を検討する人もいるかもしれない。しかし実際は、そうとは限らない。保育所には、床面積や保育士の人数等において、国の基準を満たした認可保育所と、そうではない認可外保育所がある。認可保育所である場合、入園する児童を決定する権限は自治体にある。親からの入園申し込みを受けて、自治体が、それぞれの親の就労状況、近隣に協力できる祖父母がいないか、きょうだいが認可保育所に通っているか等の状況を審査し、保育の必要度を指数化し、指数が高い子どもから順に入園させるのである。たとえ保育所と同じマンションに住んでいても、入園するためには同じ手続きを経なければならず、自治体の選考で落選すれば、通わせることはできない。したがって実際には、マンションに併設された保育所であっても、通っているのはよその子どもばかり、というケースが多い。

もし、併設されるのが認可外保育所であれば、保育所の運営事業者が、預かる子どもを決めることができるため、開発事業者があらかじめ運営事業者と「マンション住人を優先的に入所させる」と定めておけば、住人が子どもを通わせることができる確率が高い。ただし、認可外保育所は行政から整備や運営の補助金が出ないため、認可に比べると経営のハードルが高い。保育料も一般的に認可保育所より高いため、仮に住人が入居当初は子どもを通わせていたとしても、認可保育所に空きが出れば、途中で移る可能性がある。したがって、認可外は子どもの人数と保育料収入が変動しやすく、認可に比べると事業継続の見通しが難しい。
2保育所併設マンションの仕組み
ここで、保育所併設マンションの仕組みについて説明したい。

保育所は、マンション敷地内の別の棟に整備されるケースや、マンション居住棟の1、2階に設置されるケースなどがある。同じ居住棟にあっても大抵、マンションの住人と、保育所に通う子どもたちの出入り口は分けられている。マンションは、分譲、賃貸いずれのケースもある。開発事業者は分譲や賃貸契約を結ぶ際、重要事項説明書などの中で保育所が設置されていることを説明する。

保育所部分の建物は、もとの地権者や開発事業者が所有し続けている場合もあれば、マンション管理組合に所有権を移転するケース、投資家に売却するケースなど様々である。自治体の要請に応じて設置された場合は、開発事業者が整備した後で、自治体が建物の寄付を受けることもある。そして建物の所有者が、保育所の運営事業者である社会福祉法人や株式会社等に運営を委託し、賃料を得る。

保育所の種類は様々で、定員20人以上の認可保育所の場合や、6~19人の認可小規模保育事業所の場合もある。中には認可外保育所の場合もある。不動産経済研究所によると、首都圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)で、保育施設を併設したマンションは2000年代から少しずつ建設され、2000年から15年10月までに計84物件建てられたという2

また、開発事業者に保育所整備を促す強力な方策として、一部の自治体が導入しているのが、公共施設整備のために「協力金」の支払いを求める制度である。これは、大規模マンションを建設する開発事業者に対し、自治体が保育所や小学校などの公共施設を整備する費用を支払うよう要請し、仮に開発事業者自ら整備し、自治体に提供した場合には減免する、という仕組みである。開発事業者には、多額の協力金の支払いを避けて、自ら保育所を整備しようという動機付けになる。

東京都江東区は2002年に施行した「江東区マンション等建設指導要綱」(現在は「江東区マンション等の建設に関する指導要綱」)により、世帯用住戸が30戸以上のマンションを建設する場合は、開発事業者に対し、戸数から29戸引いた数に、1戸あたり125万円の「公共施設整備協力金」を求めると定めている。また、開発事業者から協力が得られた場合は、協力金の額を減じることができる、としている。同区への取材によると、この制度によって、2016年度、自ら保育所等を整備して協力金を減免された事例は3件あったという。他にも、台東区や中央区などが類似した制度を導入している。
 
2 不動産経済研究所「不動産経済 マンションデータ・ニュース」(2015年12月10日)
 

3――保育所併設マンションの事例とスキーム

3――保育所併設マンションの事例とスキーム

次に、開発事業者等への取材をもとに、保育所併設マンションの事例について、スキームや経過をたどりたい(6ページ図表1参照)。

(1) 東京都江東区 「ブリリアマーレ有明タワー&ガーデン」(開発事業者:東京建物)
東京都江東区では2008年12月、東京建物が1085戸の大規模分譲マンション「ブリリアマーレ有明タワー&ガーデン」を開発した。約830m2に定員120人の認可保育所を整備し、2009年4月に開園した。床の所有者は、保育所整備を要請した江東区である。

同社はこのマンションを含めて、これまでに約10件の保育所併設マンションを開発している(他社との共同プロジェクトを含む)。開発を始めたきっかけは、同区に大規模マンション建設を計画していた2000年代に、同区から公共施設整備協力金を求められたことだという。1,000戸単位のマンションであれば、協力金として10億円以上を支払う必要があることなどから、自ら保育所を整備することにしたという。その後、同区では複数の保育所併設マンションを開発している。

江東区によると、開発事業者が協力金の代わりに保育所を整備した場合、同区が床の寄付を受けて、マンションの区分所有者となっているという。運営事業者の選定も所有者である同区が行う。固定資産税はかからず、逆に、同区がマンションの区分所有者としてマンションの管理費を支払う立場となる。そのため、マンションに居住する他の住人が、保育所の整備や維持管理にかかるコストを負担することはないという仕組みが確立している。

保育所を巡っては近年、閑静で過密した住宅地に建設計画が持ち上がると、近隣住民から「子どもの声が騒音になるのでは」という懸念や、対策を求める要望が出されることがあるが、東京建物によると、これまでのところ、そのようなトラブルが起きたという情報はないという。
(2) 東京都板橋区 「ブリリア大山パークフロント」(開発事業者:東京建物)
板橋区では今年10月、東京建物が保育所併設マンション「ブリリア大山パークフロント」を竣工予定である。同社は板橋区から要請を受けて認可小規模保育事業所を整備したが、板橋区には、江東区のように床を引き受ける仕組みがないため、マンション管理組合が所有者となった。管理組合が、保育所の運営事業者に建物を貸して賃料を得て、その中から、固定資産税等を支払う仕組みとなっている。運営事業者は、2016年8月に東京建物グループ内に設立された保育所運営会社「東京建物キッズ」である。

東京建物キッズにとっては、東京建物が保育所併設マンションを開発すれば、運営箇所を増やす機会になるというメリットはある。しかし、保育所運営は人件費割合が高く、大きな利益を生み出す事業ではないため、単体での利益追求は難しいという。東京建物と東京建物キッズの担当者は、今後も保育所併設マンションを増やすかどうかについては「自治体との協議によって是々非々で判断する」という立場で、「しっかりとした行政側の制度設計があるか、インセンティブが設けられていればもっと増えるのではないか」としている。
(3) 東京都台東区 「ライオンズフォーシア蔵前」(開発事業者:大京)
東京都台東区では、大京が2017年11月、賃貸マンション「ライオンズフォーシア蔵前」を開発し、1階に認可小規模保育事業所を併設した。台東区は2014年12 月から、条例により100戸以上のマンションを建設する事業者に対して事前に届け出ることを義務付け、区長から保育所等の整備に関する意見を事業者に通知することを定めた。また要綱により、保育所等を整備できない場合には、区長が1戸あたり30万円の「保育所等整備協力金」を拠出するよう事業者に要請することができる、とする制度を導入していた。同社も、保育所を整備するよう同区から要請を受け、市場調査したところ、用地周辺では待機児童が多く、認可保育所を整備しても中期的に継続できるという見込みがたったことなどから、整備を決めたという。その後、当初は共用部にする予定だった1階の約93㎡を認可小規模保育事業所に変更して詳細設計したため、建築費の上振れは無かったという。運営事業者は、同区内で認可外保育所を運営していた(株)Alpsに決定し、2018年4月、小規模保育所が開園した。正式に同区から認可が下りたのは、内装工事などがすべて終わった後だったという。

保育所の床を所有しているのは第三者の企業であり、保育所部分の固定資産税を負担している。入居者には、保育所の建設費や維持管理費などの負担は発生していないという。マンションの2階以上は住戸だが、防音対策をしている他、ワンルームが多いこともあり、保育所に対する騒音等の苦情は寄せられていないという。入居者から保育所に「入所できないのか」と問い合わせが寄せられることもあるが、認可保育所であることを説明して理解を求めているという。

大京は、現在の仕組みでは、認可がおりるのが竣工直前となるため、認可がおりる確証がないまま開発計画を進めなければならない点が課題だと指摘する。万が一、認可がおりず、認可外保育所として運営することになれば、経営が安定せずに数年で事業者が撤退し、オーナー企業にとって賃料収入がなくなる心配もある。ライオンズフォーシア蔵前の場合は、事業計画に保育所の収益性を盛り込まなくても問題がなかったため、そのまま計画を進めたというが、同社ソリューション事業部第一事業部の担当者は「投資物件の場合は、もし投資家から『認可外保育所になる可能性があるためリスクが高い』と見なされたら、売れなくなる可能性もある。行政には、設計時から認可の担保を取れるような仕組みを考えてほしい」と述べている。
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生活研究部   准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任

坊 美生子 (ぼう みおこ)

研究・専門分野
中高年女性の雇用と暮らし、高齢者の移動サービス、ジェロントロジー

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