2018年08月06日

相続プランを考えてみよう-2018年度成立改正相続法の解説

保険研究部 取締役 研究理事・ジェロントロジー推進室兼任   松澤 登

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3|預貯金の取扱
預貯金の取り扱いについては近時判例変更が行われ、預貯金も遺産分割対象に含まれるとの判断が示された(最高裁平成28年12月19日大法廷決定)。従前は遺産分割対象ではないとされてきたことから、相続開始と同時に相続人に相続割合に応じて当然に分割・帰属すると判断されてきた。

このことは、生前、被相続人に扶養されてきた相続人であっても、遺産を自由に処分できないため、相続人全員の同意がなければ銀行から預金の払戻が受けられないことを意味する。ただ、以前、研究員の眼6に書いたように、現行銀行実務では預金払戻には他の相続人の同意を求める取扱がなされていることが多い。

これでは困るので、預貯金の取り扱いについて法律上明文化することが図られた。具体的には二つの方策がある。
 
まず一つ目の方策であるが、預貯金の各口座残高の3分の1にその相続人の相続分を掛け合わせた金額を払戻することができることとした。ただし、銀行ごと(=その銀行の各口座を名寄せする)に、標準的な当面の必要生計費、平均的な葬式の費用の額その他の事情を勘案して定める一定額(100万円が想定される7)を上限とする(改正民法909条の2)。

一旦、簡易に思えるが、銀行はその相続人の相続分を確認しなければならず、書類の取り寄せ等それなりの手続きが必要になると考えられる。
 
二つ目の方策であるが、家庭裁判所に審判または調停の申立てがあった場合において、相続財産に属する債務の弁済、相続人の生活費の支弁等を考慮して、特定の預貯金の全部または一部を仮に取得させることができる(家事事件手続法200条3項)とするものである。

預金全部を引き出すことができるので、ある程度まとまった金額も引き出すことができる。ただし、家庭裁判所で審判または調停が行われていることが前提となるため手間がかかることと、遺産分割の際、正式な分割が行われることに注意が必要である。
 
6 「超高齢化社会の“相続問題”-預金払戻トラブルをなくすには-相続法改正中間試案シリーズ(3)」(2016年7月19日) http://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=53414?site=nli
7 前掲注4「補足説明」p17参照
 

4――自筆証書遺言の取扱の見直し

4――自筆証書遺言の取扱の見直し

1|自筆証書遺言の方式緩和
通常、遺言には三種類ある8。自筆証書遺言(民法968条)、公正証書遺言(民法969条)、秘密証書遺言(970条)である。

自筆証書遺言は、遺言者がその全文、日付および氏名を自書し、押印するだけでよい。簡易ではあるが、紛失・偽造・変造のおそれがあり、文意が不明などの理由で効力が問題となるケースも多い。また、相続が発生した後、家庭裁判所の検認手続きが必要となる(民法1004条1項)。検認手続きとは遺言書の保存を確実にし、後日の変造や隠匿を防ぐ手続きとして設けられている。

公正証書遺言は公証人役場へ証人二人と出頭し、一定の手続きのもと、公正証書で遺言を作成するものである。公証人が関与するため、内容や方式の問題で遺言が無効となるおそれがなく、また正本は公証人が保管するため紛失等のおそれもない。検認も不要であるが、作成に手間がかかる。

秘密証書遺言は、自筆で作成した遺言を封緘し、公証人および証人二人の立会いのもとで本人の遺言であることを申述し、遺言者、証人、公証人が署名押印する方式によるものである。利用実績は少ない。
 
今回の改正においては自筆証書遺言をより利用しやすくすることに眼目が置かれた。大きくは二つの改正点がある。一つ目として、現行法では自筆証書遺言は上述の通り全文を自書しなければならないとされている。しかし、財産品目が多い場合など、すべてを自書するのは大変である。そこで財産目録について別途PC等で作成し、添付する場合にはその目録は自書することを要しない(改正民法968条2項)。ただし、すべてのページに署名・押印することを要することとされた。
 
8 そのほか特別な遺言としては、危急者遺言、隔絶地遺言がある。
2|自筆証書遺言の法務局における保管
二つ目は法務局において自筆証書遺言を保管する手続きの創設である。この手続きに関しては新法が制定されている(法務局における遺言書の保管等に関する法律、以下本項において新法という)。

まず、遺言者は法務局に出頭して、無封の自筆証書遺言の遺言書を持参し、保管の申請を行う(新法4条)。この際、法務局は内容の審査までは行わないものの、外形的に自筆証書遺言の方式に適合しているかの確認を行う9。法務局は遺言書そのものを保管し(新法6条)、遺言書の画像情報等を磁気ディスクに保管する(新法7条)。

遺言者が亡くなって相続が開始したとき、相続人、受遺者、および遺言執行者は法務局に対して、遺言書の閲覧や遺言書の画像情報等にかかる証明書(遺言書情報証明書)の交付を請求することができる(新法9条1項、3項)。遺言書の閲覧、遺言書情報証明書の交付を行ったときは、法務局は相続人、受遺者、遺言執行者に遺言書を保管していることを通知する(新法9条5項)。

なお、新法により保管された遺言書については検認手続きを必要としない(新法11条)。

新法により、形式不備・偽造・変造などの自筆証書遺言のデメリットが小さくなり、検認不要といった手続きの簡素化も図られているため、自筆証書遺言の利用の増加が期待される。
 
9 前掲注4「補足説明」p12(注1)参照
 

5――遺留分減殺請求権制度の見直し

5――遺留分減殺請求権制度の見直し

1|遺留分減殺請求権とは
遺言により遺言者は自分の財産を分配あるいは贈与できる。しかし、これには一定の限度があり、相続財産を相続人の一人に全額遺贈等するといったことは限界がある。すなわち、兄弟姉妹を除く法定相続人には相続財産の一定割合を留保できる権利が与えられている。この一定割合を遺留分率と呼び、遺留分率に自己の相続割合をかけたものを遺贈等により侵害された場合に、その侵害分について、遺贈等を受けた人から回復する請求権を、遺留分減殺請求権と呼ぶ(民法1031条)。

遺留分率は直系尊属(被相続人の父母)のみが相続人である場合、1/3、それ以外は1/2である(民法1028条)。具体的には、たとえば、直系尊属のみが生存していた場合、直系尊属に認められる遺留分は1/3×1=1/3であり(両親とも生存していれば、それぞれ1/6)、それ以外の場合、たとえば配偶者と子二名が相続人であれば配偶者が1/2×1/2=1/4、子1名につき1/2×1/4=1/8である。
2|遺留分減殺請求権の効力等の改正
遺留分減殺請求権の改正内容は以下の通りである。現行法においては減殺請求権を行使した場合には遺贈や贈与された現物財産を回復することとされているが、改正民法では遺留分侵害相当額の金銭を受けることとなった(改正民法1046条)。すなわち、たとえば被相続人がその唯一の財産である不動産を第三者Aに遺贈してしまった場合、遺留分権利者はこれまで現物である不動産の共有持分を得ることとなっていた(ただし、Aから相当分の価額の金銭弁済にかえることはできる(民法1041条))。改正民法はこれを改め、金銭弁済での遺留分回復を原則とした。

遺留分減殺請求権に関してはもうひとつ改正がある。遺留分の対象となる贈与は条文上、相続開始前一年以内に限定されていた。一方で、相続人に対する贈与については、判例上、この期間制限がないように取り扱われている。すなわち、その相続人に酷となるような場合を除いて、相続人の特別受益となる贈与は時期に関わりなく遺留分の対象財産となる。

今回の改正では相続人に対する贈与については相続開始前の10年間に限り、婚姻もしくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与について遺留分算出の対象財産にすることとされた(改正民法1044条3項)。
 

6――おわりに

6――おわりに

今の時代において、相続プランニングを考えておくことは重要である。「争族」という言葉があるように家族の間にもいろいろな思いがあり、自分の死後に家族が争うことは望むところではないであろう。

その点、今回の改正は相続プランニングをやりやすくしたと評価できよう。まず重要なのは自筆証書遺言が作成しやすくなり、法務局で保管してもらえるようになったことであろう。公正証書遺言ほどには手間はかからないので、相続人一人ひとりの顔を思い描きながら自分の財産をどう分けていくかを決めておくのは家族に対する責任でもあろう。

遺言に書くポイントとして配偶者の居住をどうするかを決めておくことが望ましい。配偶者に配偶者居住権を遺贈するのか、居住用不動産そのものを贈与するのかはさまざまな事情を勘案して決めることが必要であろう。たとえば相続財産のうち居住用不動産の占める割合が高く現預金があまり多くないような場合は、不動産自体の所有権は子に相続させ、配偶者居住権を配偶者に遺贈することで現預金の多くを配偶者の老後資金として遺産分割させる(あるいは遺贈する)ことも考えられる。本稿の範囲外だが、相続税プランニングも必要になってくる。

また、相続人以外の親族に介護されているような場合は特別寄与料相当額を介護してくれている人に遺贈することも考えられる。

遺言以外では当座の必要資金の問題がある。今回の改正では少額の預貯金を引き出せるほかは、家庭裁判所の保全処分が預貯金引出に必要となってしまう。預貯金引出に手間がかかることを考えれば、葬儀代や遺族の当座の資金程度は終身保険で用意することも考えられる。また、仮に遺留分を侵害するような遺贈を行うことを考えるのであれば、減殺請求される金額相当の保険に加入することも一考である。

今回の相続法改正に関する新聞記事を目にされた方は、自分のことの話として一度振り返ってみることをお勧めしたい。
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保険研究部   取締役 研究理事・ジェロントロジー推進室兼任

松澤 登 (まつざわ のぼる)

研究・専門分野
一般法務、企業法務、保険法・保険業法

(2018年08月06日「基礎研レポート」)

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