2018年08月01日

豪ドルとNZドル、2つのオセアニア通貨に違いはあるのか?~それぞれの強みと弱み

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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2)為替変動要因以外の相違点
(1) ボラティリティの違い
両通貨ではボラティリティ(価格変動幅)の大きさに違いがある点も重要である。

豪ドル円、NZドル円レートについて、2008年から2017年の平均を100とした場合の長期為替動向を見ると(図表23)、豪ドルの最高値/最低値倍率が1.88倍(最高値122.9/最低値65.2)であるのに対し、NZドルは2.07倍(最高値128.3/最低値61.5)と豪ドルを上回っており、水準の振れ幅が大きい。

また、NZドルは月々の振れ幅も大きい。主要通貨の対円レートについて、それぞれの月間騰落率(絶対値)の直近10年平均を計算すると、NZドルの変動率は3.6%に達する(図表24)。つまり、10年間の平均で見て、NZドルの対円レートは一月当たり3.6%変動するということだ。豪ドルも3.4%と先進国としては高い部類に入るが、NZドルはそれを上回り、主要先進国では最も変動率が高い。ブラジルレアル(3.9%)、南アフリカランド(同)、トルコリラ(3.7%)といった新興国通貨の変動率には及ばないものの、それに近い変動率だ。
(図表23)豪ドルとNZドルの長期変動幅/(図表24)主要通貨対円レートの月間変動率
なお、直近10年で計算すると、既述の2010・2011年に発生した大震災とその後の復興需要の影響が含まれることで変動率が高めに出るため、直近1年で計算してみても、NZドル(対円レート)は主要先進国通貨の中で最も高い変動率を示している。
(図表25)為替市場通貨別取引高シェア(2016年4月・%) このようにNZドルの変動率が高いのは、NZドル市場の厚みが乏しいためだ。世界の為替市場での取引高シェアを見ると、NZの取引高は米ドルの約40分の1に過ぎず、豪ドルと比べても3分の1以下に留まる(図表25)。これは、発行体である国の規模が小さいことに起因している。メジャー通貨と比べて流動性が乏しいため、資金の流出入に際して需給に偏りが生じやすく、為替の変動が増幅される傾向が強いと考えられる。
(2) 取引コストの違い
また、両通貨では取引コストにも違いがある。銀行の為替手数料は両通貨ともに米ドルやユーロといったメジャー通貨に比べて高いが、大半の銀行ではNZドルの手数料が豪ドルよりも高く設定されている4。また、FX取引(外国為替証拠金取引)における取引コストであるスプレッドも、一般的にNZドルの方が豪ドルよりも高い。NZドルは取引量が少ないため、高い手数料を求められる傾向がある。
 
4 1通貨当たりの為替手数料は同額であるケースも多いが、同額だとしても、NZドルの対円為替レートが豪ドルよりも低い(足元では1豪ドルが約83円、1NZドルが約76円)ため、円投資額が同じの場合(例えば、100万円当たりなど)、NZドルの手数料総額がより高くなる。
(3) 情報量の違い
そして、為替に直接は関係しないものの、情報量の違いも顕著だ。豪ドルに比べてNZドルに関わる日本語の情報量は少ない。豪州や豪ドルに関する情報も多くはないが、検索サイトでニュースを検索すると、NZやNZドルに関するものはその1/3程度に留まるうえ、新聞記事やレポートなども限られている。これは、NZドルに関する情報の需要が少ないため、供給も限られているためだ。

また、両国の主要産品に関する情報量にも差がある。豪州の主要産品である鉱物資源(鉄鉱石や石炭)・燃料価格のニュースや記事は日々見かけるが、NZの主要産品である乳製品のニュースはあまり見かけない。

つまり、NZドルに関する情報は少ないため、投資家が同通貨への投資環境を把握しようとする場合には、自ら積極的に情報を探す必要がある。NZドルは情報コスト(手間隙)が高い通貨と言える。
 

2―まとめ・・・豪ドルとNZドル、どちらを選ぶべきか

2―まとめ・・・豪ドルとNZドル、どちらを選ぶべきか

以上のとおり、豪ドルとNZドルには高い連動性があり、足元の金利水準はほぼ同じ、今後中期的にはともに利上げ局面に差し掛かるにつれて上昇が期待できる通貨だが、両者を比較した場合、それぞれ固有の強みと弱みがある。まとめると次のとおりとなる。

<豪ドル>
・購買力平価の観点では、超長期でみてNZドルに対して下落しやすい。
・経済の安定性が高いため、通貨安要因である景気後退に陥る可能性が低い。
・ボラティリティは先進国の中では高いものの、NZドルよりは低い。
・取引コストは一般的に高めではあるが、NZドルよりは低い。
・日本語の情報量はNZドルに比べると多い。

<NZドル>
・購買力平価の観点では、超長期でみて豪ドルに対して上昇しやすい。
・ボラティリティは先進国通貨の中で最高レベル。
・取引コストは一般的に豪ドルよりもさらに高い。
・日本語の情報量が少なく、情報コストが高い。

投資家はそれぞれ投資に当たって重視するポイントが異なるため、全ての投資家に向いている投資対象は存在せず、何を重視するかによって向き不向きが変わる。

オセアニア通貨への投資を検討する場合は、相対的な安定性や取引コストの低さ、情報取得の容易さを重視するのであれば豪ドル投資の方が向いており、超長期での値上がり期待や値動きの良さを重視するのであればNZドル投資の方が向いていると考えられる(ただし、対円レートの場合は、日本の物価上昇率がNZよりも低いため、購買力平価の観点からみると円高圧力がかかりやすいことになる)。
 
そもそもオセアニア通貨自体が米ドルなどのメジャー通貨に比べて情報が少なく、価格変動が大きいため、相対的にハイリスクの投資となるが、特にNZドル投資の場合はその傾向が強まるという点は留意しておいた方がよい。
 
 

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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

(2018年08月01日「基礎研レポート」)

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