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- WeWorkのビジネスモデルと不動産業への影響の考察
2018年07月11日
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3――WeWorkのビジネスモデルと不動産業への影響
1|WeWorkの概要
WeWorkは2010年に米国で、CEOのアダム・ニューマン氏とCCO13のミゲル・マッケルビー氏らによって設立された。「ただ生きるためではなく、豊かな人生を送るために働ける世界を創造する」という企業理念を掲げるコワーキングスペース大手である。コワーキングスペースというと、オーブンスペースを思い浮かべることも多いが、実際は同社のコワーキングスペースの10%がオープンスペースで、90%は壁に囲まれて施錠可能なプライベートオフィスである14。
当初コワーキングスペースのメンバーの多くはスタートアップの小規模企業やフリーランスの個人事業主だったが、近年は法人メンバーとしてマイクロソフトやGE、HSBC、KDDI、みずほ証券、日本経済新聞社が契約するなど、大企業のメンバーが増加している15。社員1,000人以上の法人メンバーは前年から倍増しており、売上の25%を占めるに至っている16。
また同社は急速に事業を拡大しており、現在は22カ国74都市の253拠点で、25万人以上が利用している17。日本においても、2017年7月にソフトバンクグループと折半で合弁会社WeWork Japanを設立し、2018年から事業展開を本格化している。既に東京で6拠点の開設が公表18されており,それ以外にも2018年中に複数の拠点を開設する方針だ。
13 Chief Creative Officer(最高クリエイティブ責任者)
14 Loizos and Neumann (2017) 参照。
15 津山 (2017a)参照。
16 Molla (2017) 参照。
17 WeWork (2018)参照。
18 WeWork HP参照(2018年5月時点)。
WeWorkは2010年に米国で、CEOのアダム・ニューマン氏とCCO13のミゲル・マッケルビー氏らによって設立された。「ただ生きるためではなく、豊かな人生を送るために働ける世界を創造する」という企業理念を掲げるコワーキングスペース大手である。コワーキングスペースというと、オーブンスペースを思い浮かべることも多いが、実際は同社のコワーキングスペースの10%がオープンスペースで、90%は壁に囲まれて施錠可能なプライベートオフィスである14。
当初コワーキングスペースのメンバーの多くはスタートアップの小規模企業やフリーランスの個人事業主だったが、近年は法人メンバーとしてマイクロソフトやGE、HSBC、KDDI、みずほ証券、日本経済新聞社が契約するなど、大企業のメンバーが増加している15。社員1,000人以上の法人メンバーは前年から倍増しており、売上の25%を占めるに至っている16。
また同社は急速に事業を拡大しており、現在は22カ国74都市の253拠点で、25万人以上が利用している17。日本においても、2017年7月にソフトバンクグループと折半で合弁会社WeWork Japanを設立し、2018年から事業展開を本格化している。既に東京で6拠点の開設が公表18されており,それ以外にも2018年中に複数の拠点を開設する方針だ。
13 Chief Creative Officer(最高クリエイティブ責任者)
14 Loizos and Neumann (2017) 参照。
15 津山 (2017a)参照。
16 Molla (2017) 参照。
17 WeWork (2018)参照。
18 WeWork HP参照(2018年5月時点)。
2|WeWorkの新規性:プラットフォーマーWeWorkがもたらしたコワーキングスペースの進化
WeWorkは、一見すると「ただのコワーキングスペース」に過ぎない。すでに欧米のみならず日本でも多くのコワーキングスペースが営業しており19、コワーキングスペースという業態に目新しさはない。同社の新規性は、コワーキングスペースにコミュニティや企業向けサービスのプラットフォームを追加し、データを活用することでオフィス環境の変革に取り組んでいる点にある。
19 Instant Group(2017)によれば、2016年時点で東京にはコワーキングスペース・サービスオフィスは218拠点ある。
WeWorkは、一見すると「ただのコワーキングスペース」に過ぎない。すでに欧米のみならず日本でも多くのコワーキングスペースが営業しており19、コワーキングスペースという業態に目新しさはない。同社の新規性は、コワーキングスペースにコミュニティや企業向けサービスのプラットフォームを追加し、データを活用することでオフィス環境の変革に取り組んでいる点にある。
19 Instant Group(2017)によれば、2016年時点で東京にはコワーキングスペース・サービスオフィスは218拠点ある。
(ア) コワーキングスペースをコミュニティ・プラットフォーム化
WeWorkはコワーキングスペースのメンバー同士を結びつけるコミュニティ・プラットフォームを構築することで、コワーキングスペースにプラットフォームという要素を追加した。同社では、コワーキングスペース内のコミュニティを醸成するため、コミュニティ・マネージャーと呼ばれる職員を各施設に配置している。コミュニティ・マネージャーは、メンバーからの相談に乗ったりする他、メンバーがつながりやすいようにイベントを開催したり、メンバー間の出会いを積極的に仲介する役割を担っている。また、コミュニティの構築や円滑なコミュニケーションが図れるようにSNS機能をもつメンバー用のアプリも開発している。同アプリでは、メンバーが滞在する施設だけでなく世界中のメンバーとつながることができる。このアプリのベースとなっているのが、WeOS(ウィーオーエス)という自社システムで、SNSのようなデジタル空間だけでなく、入退室管理や会議室の予約など物理空間も制御する機能も備えており、同社のサービスの基盤となるものである。
オフィスのレイヤー構造の観点から整理すると、従来のコワーキングスペース事業者は、内装・設備と施設運営のレイヤーを統合し、双方とも担うことで、ソリューションとしてオフィス空間をテナントに提供した。WeWorkの新規性は、このコワーキングスペースにWe Membershipというコミュニティ、WeOSといったOSレイヤーを追加したことだ(図表-11)。
WeWorkはコワーキングスペースのメンバー同士を結びつけるコミュニティ・プラットフォームを構築することで、コワーキングスペースにプラットフォームという要素を追加した。同社では、コワーキングスペース内のコミュニティを醸成するため、コミュニティ・マネージャーと呼ばれる職員を各施設に配置している。コミュニティ・マネージャーは、メンバーからの相談に乗ったりする他、メンバーがつながりやすいようにイベントを開催したり、メンバー間の出会いを積極的に仲介する役割を担っている。また、コミュニティの構築や円滑なコミュニケーションが図れるようにSNS機能をもつメンバー用のアプリも開発している。同アプリでは、メンバーが滞在する施設だけでなく世界中のメンバーとつながることができる。このアプリのベースとなっているのが、WeOS(ウィーオーエス)という自社システムで、SNSのようなデジタル空間だけでなく、入退室管理や会議室の予約など物理空間も制御する機能も備えており、同社のサービスの基盤となるものである。
オフィスのレイヤー構造の観点から整理すると、従来のコワーキングスペース事業者は、内装・設備と施設運営のレイヤーを統合し、双方とも担うことで、ソリューションとしてオフィス空間をテナントに提供した。WeWorkの新規性は、このコワーキングスペースにWe Membershipというコミュニティ、WeOSといったOSレイヤーを追加したことだ(図表-11)。
同社のコミュニティ・プラットフォームは、ネットワーキングだけでなく、アウトソーシングや求人、業務提携などの取引コストを下げ、メンバー間の取引を活性化する。このコミュニティがもたらしたイノベーションとして、WeWork日本代表のChris Hills氏は以下の事例を紹介している。
この事例が示しているように、同社のコミュニティ・プラットフォームが、ビジネス版のシェアリング・エコノミーを作り出し、WeWorkの中でエコシステムを作り出している。従来のコワーキングスペースでは、メンバーはユーザー(コンシューマー)に過ぎなかったが、WeWorkではメンバーが生産活動を行う消費者であるプロシューマー化しているとも言える。このプラットフォームを利用することで、WeWork内で多くのビジネス課題を完結できてしまう可能性を秘めている。
多数の大手企業がWeWorkを活用する理由も、このコミュニティに参加することだ。WeWorkのコミュニティに参加することで、「スタートアップやフリーランスのデザイナー・クリエイターとの協業機会を模索している」「最新のテックやライフスタイルのトレンドを知りたい」「イノベーションに積極的である姿勢を示したい」など21、大企業はオープンイノベーションの場として、WeWorkを活用しようとしている。
またFacebookやLinkedInなどのオンラインのコミュニティ・プラットフォームが普及するにつれ、オフラインのコミュニティの重要性が再認識されている。そのため、オフラインとオンライン双方を兼ね備えたWeWorkのコミュニティ・プラットフォームに注目が集まっているのだ。同社は毎月100万平方フィート(約28,000坪)以上のペースでコワーキングスペースを拡大し22、コワーキングスペース大手である中国のnaked HubやシンガポールのSpacemobを買収するなどして、拠点数の拡大を加速している。またソーシャル・コミュニティ・プラットフォームを提供するMeetup23を買収するなど、プラットフォーマーとしての攻勢を強めている。
20 Kimura (2017) 参照。
21 Sato (2017) 参照。
22 WeWork (2018) 参照。
23 Meetupは現実世界でのグループ対話をやりやすくするオンラインプラットフォーム。
オランダに夫婦で花屋を営んでいるWeWorkメンバーがいた。彼らはアメリカでビジネスを展開しようと考えアメリカにやってきたが、花屋である彼らは全米の家庭にチューリップを届ける方法を知らなかった。そこで彼らは、WeWorkのコミュニティアプリのなかで自分たちがチューリップの宅配事業を展開したいことを伝え、一方でディストリビューションについての知識やアイデアが足りないので誰か助けて欲しいと呼びかけた。すると、世界中にいるWeWorkメンバーたちが彼らの呼びかけに答えた。チューリップを届けて配達依頼まで行うアプリを作ると申し出たのだ。その結果、そのオランダ人夫婦はアメリカに移住して約3ヶ月程でビジネスを作り上げることに成功した20。
この事例が示しているように、同社のコミュニティ・プラットフォームが、ビジネス版のシェアリング・エコノミーを作り出し、WeWorkの中でエコシステムを作り出している。従来のコワーキングスペースでは、メンバーはユーザー(コンシューマー)に過ぎなかったが、WeWorkではメンバーが生産活動を行う消費者であるプロシューマー化しているとも言える。このプラットフォームを利用することで、WeWork内で多くのビジネス課題を完結できてしまう可能性を秘めている。
多数の大手企業がWeWorkを活用する理由も、このコミュニティに参加することだ。WeWorkのコミュニティに参加することで、「スタートアップやフリーランスのデザイナー・クリエイターとの協業機会を模索している」「最新のテックやライフスタイルのトレンドを知りたい」「イノベーションに積極的である姿勢を示したい」など21、大企業はオープンイノベーションの場として、WeWorkを活用しようとしている。
またFacebookやLinkedInなどのオンラインのコミュニティ・プラットフォームが普及するにつれ、オフラインのコミュニティの重要性が再認識されている。そのため、オフラインとオンライン双方を兼ね備えたWeWorkのコミュニティ・プラットフォームに注目が集まっているのだ。同社は毎月100万平方フィート(約28,000坪)以上のペースでコワーキングスペースを拡大し22、コワーキングスペース大手である中国のnaked HubやシンガポールのSpacemobを買収するなどして、拠点数の拡大を加速している。またソーシャル・コミュニティ・プラットフォームを提供するMeetup23を買収するなど、プラットフォーマーとしての攻勢を強めている。
20 Kimura (2017) 参照。
21 Sato (2017) 参照。
22 WeWork (2018) 参照。
23 Meetupは現実世界でのグループ対話をやりやすくするオンラインプラットフォーム。
(イ) コワーキングスペースのサービス・プラットフォーム化
従来のコワーキングスペースはオフィスというハードを小分けにして貸し出すというビジネスだった。WeWorkはそれに加えて、福利厚生や業務支援などのソフトについても、関連企業と提携することで、小分けにして提供している。例えば、人事管理代行大手のTriNetと提携することで、スタートアップやフリーランスが加入することが難しかった条件で健康保険に加入できる。また銀行大手JP Morgan Chaseの決済サービスや物流大手UPSの配送サービス、MicrosoftやAWSなどのソフトやクラウドを割引料金で利用できる。
これはスタートアップやフリーランスなど小規模のメンバーにとって、従来享受することが出来なかった大企業並みのサービスを受けられることを意味する。それと同時に、提携企業にとっては、有望なスタートアップなどと早期からコンタクトを持ち、囲い込むことも可能になる。そのため、WeWorkは提携企業から紹介料を徴収することができ、同社の収入源を多角化することができる。
さらに同社は2017年4月にWeWork Services Storeというサービスを開始した。WeWork Services Storeでは、100以上の企業が250以上のソフトやサービスを提供している。同Storeでは、企業の成長ステージに合わせた活用事例なども紹介され、メンバーがレビューを投稿することが可能だ。同Storeは、スマートフォンなどのアプリストアのビジネス版とも言え、企業向けのソフトやサービスの提供者とメンバーを結びつけるプラットフォームだ。これは同社の従来の福利厚生や業務支援の小分けサービスをプラットフォームへと進化させたものだとも言える。
(ウ) データを活用したオフィスの再定義
WeWorkは、社内に建築士やアーティスト、デザイナーなどを抱え、オフィス空間をインハウスでデザインしている。また同社では、データを活用することで、オフィスの生産性向上を図ることを重視している。メンバーのイノベーションやコラボレーションを活性化し、アウトプットを最大化することに加え、WeWorkが効率的にコワーキングスペースを構築・運営できるようにしているのだ。例えば、廊下の広さもメンバー間のコミュニケーションを活性化することを目的に設計している24。またゴミ箱一つにしても、拠点のメンバー数からどのくらい必要か、どのように配置すれば、利用者・運営者にとって効率的かデータをもとにデザインするなど、同社が提案する対象は細部に及ぶ。
また同社は2015年にBIM25に強みを持つ建築事務所Caseを買収し、BIMをベースとした設計・施工プロセスのデジタル化に取り組んでいる。BIMを活用することで、空間効率を15~20%改善できるとも言われている26。また同社はAI(人工知能)などの先端技術の活用にも積極的である。同社では、800以上の会議室の活用状況をAIによって分析し、会議室の稼働率を最適化する取り組みも進めている。さらに、同社はAmazonが開発したAI「Alexa」をアシスタントとして活用するAlexa for Businessの最初のパートナーの一つとなっている。
これまで不動産におけるデータ活用は、他分野と比較して遅れているとされ、オフィス空間は最大公約数的な造りとなることが多かった。同社のイノベーション・グループの責任者であるマーク・タナー氏がこのことを次のように指摘している。
なお同社がデータを活用できるのも、多数のコワーキングスペースを運営し、そのデータを蓄積しているからである。データの蓄積と活用がさらに進めば、今後、利用者のニーズやアクティビティにあわせて最適化された空間へと、オフィス環境が変革されていく可能性がある。IBMはWeWorkが設計・運営しているマンハッタンのオフィスを一棟借りするなど28、同社はコワーキングスペースで培ったノウハウを活かして、大企業に対して、ワークプレイスの設計やデザインに加え、運営までを行うサービスを提供している。WeWorkはデータを活用して、オフィスを再定義しようとしているとも言えよう。
24 安部 (2017) 参照。
25 BIM(Building Information Modeling)とは、「従来のような2次元の建物の図面情報だけでなく、使用材料や性能などの仕様情報も加えた3次元の建物モデルをコンピュータ上で構築し「見える化」するもの」(株式会社大林組HP参照)
26 Rhodes, Margaret (2016) 参照。
27 津山 (2017b) 参照。また、WeWorkでは、スマホをデスクにかざすことで、デスクの高さが自分の好みの高さに自動で調整される機能など、個々人に合わせたカスタマイズ機能を導入する取り組みも行っている。
28 Putzier (2017) 参照。
従来のコワーキングスペースはオフィスというハードを小分けにして貸し出すというビジネスだった。WeWorkはそれに加えて、福利厚生や業務支援などのソフトについても、関連企業と提携することで、小分けにして提供している。例えば、人事管理代行大手のTriNetと提携することで、スタートアップやフリーランスが加入することが難しかった条件で健康保険に加入できる。また銀行大手JP Morgan Chaseの決済サービスや物流大手UPSの配送サービス、MicrosoftやAWSなどのソフトやクラウドを割引料金で利用できる。
これはスタートアップやフリーランスなど小規模のメンバーにとって、従来享受することが出来なかった大企業並みのサービスを受けられることを意味する。それと同時に、提携企業にとっては、有望なスタートアップなどと早期からコンタクトを持ち、囲い込むことも可能になる。そのため、WeWorkは提携企業から紹介料を徴収することができ、同社の収入源を多角化することができる。
さらに同社は2017年4月にWeWork Services Storeというサービスを開始した。WeWork Services Storeでは、100以上の企業が250以上のソフトやサービスを提供している。同Storeでは、企業の成長ステージに合わせた活用事例なども紹介され、メンバーがレビューを投稿することが可能だ。同Storeは、スマートフォンなどのアプリストアのビジネス版とも言え、企業向けのソフトやサービスの提供者とメンバーを結びつけるプラットフォームだ。これは同社の従来の福利厚生や業務支援の小分けサービスをプラットフォームへと進化させたものだとも言える。
(ウ) データを活用したオフィスの再定義
WeWorkは、社内に建築士やアーティスト、デザイナーなどを抱え、オフィス空間をインハウスでデザインしている。また同社では、データを活用することで、オフィスの生産性向上を図ることを重視している。メンバーのイノベーションやコラボレーションを活性化し、アウトプットを最大化することに加え、WeWorkが効率的にコワーキングスペースを構築・運営できるようにしているのだ。例えば、廊下の広さもメンバー間のコミュニケーションを活性化することを目的に設計している24。またゴミ箱一つにしても、拠点のメンバー数からどのくらい必要か、どのように配置すれば、利用者・運営者にとって効率的かデータをもとにデザインするなど、同社が提案する対象は細部に及ぶ。
また同社は2015年にBIM25に強みを持つ建築事務所Caseを買収し、BIMをベースとした設計・施工プロセスのデジタル化に取り組んでいる。BIMを活用することで、空間効率を15~20%改善できるとも言われている26。また同社はAI(人工知能)などの先端技術の活用にも積極的である。同社では、800以上の会議室の活用状況をAIによって分析し、会議室の稼働率を最適化する取り組みも進めている。さらに、同社はAmazonが開発したAI「Alexa」をアシスタントとして活用するAlexa for Businessの最初のパートナーの一つとなっている。
これまで不動産におけるデータ活用は、他分野と比較して遅れているとされ、オフィス空間は最大公約数的な造りとなることが多かった。同社のイノベーション・グループの責任者であるマーク・タナー氏がこのことを次のように指摘している。
今までの会社ビルというのは、社員をビルの中に入れておくためのものでした。今、私たちは、社内にいながら、どうしたら効率よく、スマートな決断を下すことができる環境を作れるかということを提案していきたいのです27。
なお同社がデータを活用できるのも、多数のコワーキングスペースを運営し、そのデータを蓄積しているからである。データの蓄積と活用がさらに進めば、今後、利用者のニーズやアクティビティにあわせて最適化された空間へと、オフィス環境が変革されていく可能性がある。IBMはWeWorkが設計・運営しているマンハッタンのオフィスを一棟借りするなど28、同社はコワーキングスペースで培ったノウハウを活かして、大企業に対して、ワークプレイスの設計やデザインに加え、運営までを行うサービスを提供している。WeWorkはデータを活用して、オフィスを再定義しようとしているとも言えよう。
24 安部 (2017) 参照。
25 BIM(Building Information Modeling)とは、「従来のような2次元の建物の図面情報だけでなく、使用材料や性能などの仕様情報も加えた3次元の建物モデルをコンピュータ上で構築し「見える化」するもの」(株式会社大林組HP参照)
26 Rhodes, Margaret (2016) 参照。
27 津山 (2017b) 参照。また、WeWorkでは、スマホをデスクにかざすことで、デスクの高さが自分の好みの高さに自動で調整される機能など、個々人に合わせたカスタマイズ機能を導入する取り組みも行っている。
28 Putzier (2017) 参照。
(エ) プラットフォーマーとしてのWeWorkへの高い評価
WeWorkの特異さは金融市場でのバリュエーションに表れている。CB Insights社の調査によれば、同社の企業価値は200億ドル(2.2兆円)とされる29。日本の不動産会社と比較しても、住友不動産の(2.1兆円)を上回り、三井不動産(2.8兆円)、三菱地所(2.8兆円)に迫る規模である30。
創業8年に過ぎないWeWorkの評価がここまで高いのは、同社がプラットフォーマーだと見做されているからだ。コワーキングスペースはビルオーナーからオフィスを借り受け、複数の個人・企業に貸し出すというビジネスで、ビルオーナーと借主を直接結び付けているわけではなく、空室リスクを負うのはコワーキングスペースの運営会社である。そのため、コワーキングスペース自体はプラットフォームではない。WeWorkはコワーキングスペースに、プラットフォームとしての機能を追加し、それが金融市場の高評価をもたらしている。「WeWorkは不動産業会社なのか?それともIT企業なのか?」といった質問が投げかけられることが多いが、金融市場はIT企業として評価していると言える。
しかし、一般的なプラットフォーマーとは異なり、WeWorkはコワーキングスペースというオフラインの事業とプラットフォームというオンラインの事業を併せ持つことが特徴的で、それが同社の強みとなっている。またこれが、ECプラットフォームと物流に強みを持つAmazonと非常に良く似ている点でもある。Amazonのベゾス氏は、物流の重要性を説くために、同社のECビジネスを氷山に例え、海面上で見える氷の塊がECプラットフォームで、海面の下に隠れている氷山の本体が同社の物流機能であると述べている31。この例えに擬えるならば、WeWorkのコワーキングスペースとしての機能は氷山の一角に過ぎず、コミュニティやサービスのプラットフォームが同社のビジネスモデル上、重要な氷山の本体だと言える。
29 CB Insights (2018) 参照。
30 Bloomberg(2018年4月末時点)
31 Brandt (2011) 参照。
WeWorkの特異さは金融市場でのバリュエーションに表れている。CB Insights社の調査によれば、同社の企業価値は200億ドル(2.2兆円)とされる29。日本の不動産会社と比較しても、住友不動産の(2.1兆円)を上回り、三井不動産(2.8兆円)、三菱地所(2.8兆円)に迫る規模である30。
創業8年に過ぎないWeWorkの評価がここまで高いのは、同社がプラットフォーマーだと見做されているからだ。コワーキングスペースはビルオーナーからオフィスを借り受け、複数の個人・企業に貸し出すというビジネスで、ビルオーナーと借主を直接結び付けているわけではなく、空室リスクを負うのはコワーキングスペースの運営会社である。そのため、コワーキングスペース自体はプラットフォームではない。WeWorkはコワーキングスペースに、プラットフォームとしての機能を追加し、それが金融市場の高評価をもたらしている。「WeWorkは不動産業会社なのか?それともIT企業なのか?」といった質問が投げかけられることが多いが、金融市場はIT企業として評価していると言える。
しかし、一般的なプラットフォーマーとは異なり、WeWorkはコワーキングスペースというオフラインの事業とプラットフォームというオンラインの事業を併せ持つことが特徴的で、それが同社の強みとなっている。またこれが、ECプラットフォームと物流に強みを持つAmazonと非常に良く似ている点でもある。Amazonのベゾス氏は、物流の重要性を説くために、同社のECビジネスを氷山に例え、海面上で見える氷の塊がECプラットフォームで、海面の下に隠れている氷山の本体が同社の物流機能であると述べている31。この例えに擬えるならば、WeWorkのコワーキングスペースとしての機能は氷山の一角に過ぎず、コミュニティやサービスのプラットフォームが同社のビジネスモデル上、重要な氷山の本体だと言える。
29 CB Insights (2018) 参照。
30 Bloomberg(2018年4月末時点)
31 Brandt (2011) 参照。
3|WeWorkのプラットフォーム戦略の考察
WeWorkへの注目度は非常に高い。しかし、情報が限られ、事業が急拡大していることからも、その実態は明らかではない。そこで、WeWorkをプラットフォームという枠組みから分析し、同社の戦略や方向性について考察する。
(ア) WeWorkの事業領域の拡大
WeWorkの事業領域はコワーキングスペースからバリューチェーンの上流や他の分野へと拡大している。同社はこれまでビルオーナーからオフィスビルを賃貸するというのが一般的だった。しかし、最近はビルを取得するというケースも出てきた。また不動産ファンドの設立を進めており、オフィスの共同開発に乗り出すなど、バリューチェーンの上流に事業を拡大している。これにより不動産価格変動リスクは増加するものの、収益の拡大やコスト構造の多角化32に寄与することが期待される(図表-12)。
WeWorkへの注目度は非常に高い。しかし、情報が限られ、事業が急拡大していることからも、その実態は明らかではない。そこで、WeWorkをプラットフォームという枠組みから分析し、同社の戦略や方向性について考察する。
(ア) WeWorkの事業領域の拡大
WeWorkの事業領域はコワーキングスペースからバリューチェーンの上流や他の分野へと拡大している。同社はこれまでビルオーナーからオフィスビルを賃貸するというのが一般的だった。しかし、最近はビルを取得するというケースも出てきた。また不動産ファンドの設立を進めており、オフィスの共同開発に乗り出すなど、バリューチェーンの上流に事業を拡大している。これにより不動産価格変動リスクは増加するものの、収益の拡大やコスト構造の多角化32に寄与することが期待される(図表-12)。
また、同社は2017年からPowered by We33という、主に大企業向けのサービスを開始している。これは、WeWorkが企業のためにオフィスの選定から内装、運営・管理などを行い、オフィス空間をサービスとして提供するものだ。コワーキングスペースの運営で培ったデータやノウハウをソリューションとして企業に提供しており、企業が自前で行うことの多かったオフィス環境の整備を丸ごとWeWorkにアウトソースすることを可能にする。また従来は、コワーキングスペースを利用する企業の事業が拡大すると、コワーキングスペースから退去し、オフィスを新たに借りることが多かった。しかし、同サービスを提供することで企業が成長した後もWeWorkの経済圏に繋ぎとめることを可能にする。
なお、WeWorkはオフィスだけでなく、リアルなコミュニティが存在する分野へ新たに参入している。2016年には賃貸住宅WeLive、2017年にはフィットネスジムRiseを開設し、2018年には小学校を開校する予定である。コミュニティは様々な場で発生するため、コミュニティを軸とした事業拡大は今後もさらに拡大する余地がある(図表-13)。
なお、WeWorkはオフィスだけでなく、リアルなコミュニティが存在する分野へ新たに参入している。2016年には賃貸住宅WeLive、2017年にはフィットネスジムRiseを開設し、2018年には小学校を開校する予定である。コミュニティは様々な場で発生するため、コミュニティを軸とした事業拡大は今後もさらに拡大する余地がある(図表-13)。
同社の新規参入分野で、コミュニティ・プラットフォームとしてすぐに収益化することは難しいだろう。しかし、それぞれのコミュニティは独立しているわけではなく、WeWorkと重なり合い補完しあう部分もある。また今後それぞれのコミュニティが拡大していけば、マーケティング対象としての価値も高く、それぞれのコミュニティでWeWork Services Storeのように、メンバーのニーズを満たすためのプラットフォームも追加できる可能性がある。
32 WeWorkは従来オフィスを賃貸するのが基本だったが、投資会社Rhone Capital LLCと共同で米百貨店Lord&Taylorのニューヨーク旗艦店を8億5,000万ドル取得し(Carmiel (2017))、ロンドンではオフィス複合施設を8億2,600万ドルで取得した(Sidders(2018))。このようにオフィスを賃借せずに、オフィスを所有したり、また運営を受託しオーナーと収益を分配する契約も増やすなど、コスト構造を多角化している。
33 Crook (2017) 参照。
32 WeWorkは従来オフィスを賃貸するのが基本だったが、投資会社Rhone Capital LLCと共同で米百貨店Lord&Taylorのニューヨーク旗艦店を8億5,000万ドル取得し(Carmiel (2017))、ロンドンではオフィス複合施設を8億2,600万ドルで取得した(Sidders(2018))。このようにオフィスを賃借せずに、オフィスを所有したり、また運営を受託しオーナーと収益を分配する契約も増やすなど、コスト構造を多角化している。
33 Crook (2017) 参照。
(2018年07月11日「ニッセイ基礎研所報」)
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03-3512-1778
経歴
- 【職歴】 2006年4月 住友信託銀行(現 三井住友信託銀行) 2013年10月 国際石油開発帝石(現 INPEX) 2015年9月 ニッセイ基礎研究所 2019年1月 ラサール不動産投資顧問 2020年5月 ニッセイ基礎研究所 2022年7月より現職 【加入団体等】 ・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター ・日本証券アナリスト協会検定会員
佐久間 誠のレポート
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