2018年03月30日

副業は日本社会に定着するだろうか - 副業の現状や今後の課題 -

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中

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3――副業の実態

総務省の「就業構造基本調査」によると、副業希望者は1992年の290.2万人(就業者全体に占める割合4.4%)から2012年には367.8万人(同5.7%)まで増加しているものの、実際に副業をしている就業者の数は同期間に346.4万人(同5.3%)から234.3万人(同3.6%)までむしろ減っている(図表3)。
図表3副業を希望している人等の推移
厚生労働省の「副業・兼業の現状と課題」3により、副業を持っている人の割合を本業の所得階層別に見ると、所得が100万円未満と1,000万円以上の所得階層が、それぞれ5.9%と5.4%で他の所得階層より高いことに比べて、中間所得者層の副業割合は低いことが分かった(図表4)。
図表4本業の所得階層別でみた雇用者の総数に対する副業を持っている人の割合
 
3 総務省「就業構造基本調査」の結果を再掲。
リクルートワークス研究所が2 017 年1 月に実施した「全国就業実態パネル調査」によると、副業 による平均年間収入は45.3 万円だが、副業からの年収が5 0 万円未満である人の割合は72.4 % で、全体の半分を超えていた。また、副業の平均労働時間は1 週間に11.7 時間で、それほど長くはないことが確認された。

前述の厚生労働省の「副業・兼業の現状と課題」によると副業を持っている者の本業の就業形態はパートやアルバイトが31.5%で最も多く、次は正社員(25.4%)、自営業等の非雇用型(18.1%)の順である。また、本業をベースにした副業をしている者の就業者数の変化(2002年と2012年の間の差)を見ると、正社員が81.2万人から59.6万人に26.6%も減少したことに比べて、パートやアルバイトは61.0万人から73.8万人に増加した。このように、副業をしている正社員の数は減ったのに対してパートやアルバイト等の非正規労働者は増えた理由としては、この期間に労働力の非正規化が進み、非正規労働者の割合が高くなったことが一つの理由として考えられる。

そしてもう一つの理由としては、上述したように多くの会社で会社の法律とも言える「就業規則」で副業を禁止している点が挙げられる。例えば、厚生労働省が公表している「モデル就業規則」の11条6号では「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」として副業等をすることを禁止している。リクルートキャリアが2017年2月に実施した「兼業・副業に対する企業の意識調査」によると、兼業・副業を「容認・推進している」企業の割合は22.9%で、「禁止している」と答えた企業の割合77.2%を大きく下回っている。

では、なぜ企業は社員の副業を認めていないだろうか。その理由としては、「社員の長時間労働・加重労働を助長する」(55.7%)、「情報漏えいのリスク」(24.4%)、「労働時間の管理・把握が困難なため」(19.3%)、「労働災害の場合の本業との区別が困難」(14.8%)、「人手不足や人材の流出につながる」(13.9%)、「競業となるリスク、利益相反につながる」(7.7%)等が挙げられた。政府のガイドラインで指摘している、留意点とほぼ一致していることが分かる。一方、兼業・副業を容認・推進している主な理由としては、「特に禁止する理由がない」(68.7%)と「従業員の収入増につながる」(26.7%)が挙げられた。
 

4――今後の課題

4――今後の課題

政府は「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を作成・公表するなど、今後、副業をより普及させることを考えているものの、課題はないだろうか。本稿では今後の課題として次の四つの項目を考えてみた。

まず、労働時間の管理である。労働基準法38条では「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」と定めており、2社に雇用されて働く場合、労働時間を通算して扱うことになっている。例えば、A社で平日8時間働いている加藤さんが、B社で土曜日に6時間働くと、加藤さん1週間の労働時間はA社とB社で働いた時間を通算した46時間になる。これは法定労働時間である40時間を越えているものの、B社が労使間で労働基準法第36条第1項、いわゆるサブロク協定を締結していれば、B社での勤務時間は時間外労働として認められる。但し、この場合、B社は加藤さんに時間外労働に対する割増賃金を支払う義務がある。

2番目の課題としては、社会保険の扱いが挙げられる。政府は、2016年10月から短時間労働者に対する厚生年金や健康保険の適用対象を拡大4して、非正規職の社会安全網を強化する政策を実施しているものの、このような政策が保険料の負担を回避しようとする一部の企業と労働者に悪用される恐れがある。例えば、労働者が社会保険に加入するためには、労働時間などの基準を満たす必要があるものの、一部の企業では社会保険への加入を避ける目的でアルバイト社員の勤務時間記録を改ざんしている。

今後、副業が奨励され、労働者の副業が複数に及んだ場合、労働者の勤務時間を把握することがさらに難しくなり、社会保険への加入を回避する企業や労働者が増える可能性が高まると考えられる。雇用保険と社会保険の適用対象は次の通りである。
 
※健康保険や年金の適用対象
(1)1週間の所定労働時間が20時間以上であること。
(2)31日以上引き続き雇用されることが見込まれること。
 
※社会保険の適用対象
(1)1日または1週間の労働時間および1カ月の所定労働時間が通常の労働者の4分の3以上であること。
(2)一般社員の所定労働時間および所定労働日数が4分の3未満であっても、以下の1) ~5) の要件をすべて満たす短時間労働者であること。
 1) 一週間あたりの決まった労働時間が20時間以上であること。
 2) 1カ月あたりの決まった賃金が88,000円以上であること。
 3) 雇用期間の見込みが1年以上であること
 4) 学生でないこと
 5) 以下のいずれかに該当すること
 -従業員数が501人以上の会社(特定適用事業所)に働いていること
 -従業員数が500人以下の会社で働いていて、社会保険に加入することについて労使で合意がなされていること(2017年4月から対象拡大)
 
社会保険と関連しては、労働者にとっても注意すべき点がある。まずは社会保険の加入のことである。例えば、労働者が2ヶ所以上(複数)の会社から給与をもらっている場合には、勤務時間によりそれぞれの会社で社会保険に加入する義務が発生するので、雇用保険や社会保険の加入基準を確認して、加入すべきかどうかを確認する必要がある5。 

また、労災保険の場合、副業先での事故は補償が少ない点に気をつける必要がある。つまり、労災保険の補償金は基本的に労働者の平均賃金を元に算出される。従って、副業先での平均賃金が少なければ少ないほど補償金も少なくなる。

3番目の課題は、長時間労働である。副業は労働者の労働時間管理を難しくし、長時間労働や健康状態の悪化に繋がる恐れがある。更なる問題は会社に申告せず副業に従事する「闇副業」の存在である。最近は、Youtubeのような動画配信サイトに動画を配信したり、自分のブログやホームページ等に広告を掲載することで収入を得ている人も増えている。彼らの中には確定申告の義務を知らない人もいるだろう。ITの発達が長時間労働に繋がらず、副業の普及に寄与できるようにするためには、彼らの労働時間が把握できる仕組みを整備するとともに、ユーチューバーなどが申告漏れなく確定申告ができるように広報活動を強化するなどの工夫も必要である。

4番目の課題は、情報漏洩のリスクである。企業の多くが、情報漏洩を懸念して副業を禁止しているのが現状である。経団連の榊原会長が昨年12月18日の定例記者会見で副業の普及に対して「各社の判断でやるのは自由だが、経団連が旗を振るものではない」と断言した大きな理由は情報漏洩のリスクである。従って、今後副業を普及させるためには情報漏洩に対する予防・対策も同時に行われる必要がある。

政府が副業の普及促進を推進した影響もあり、最近ではコニカミノルタやDeNA,そしてソフトバンクなど日本を代表する企業で相次ぎ副業を容認しており、今後副業は少しずつ企業や労働者に拡大されると予想される。但し、上述したように折角の制度改革が社会保険への加入回避、長時間労働、労働者の健康悪化等の思わぬ結果に繋がらないように、今後、更なる労働時間管理の徹底を図る必要があるだろう。
 
4 改正前は、一週間あたりの決まった労働時間が30時間以上の労働者が適用対象であった。改正後の適用対象は、一週間あたりの決まった労働時間が20時間以上、1カ月あたりの決まった賃金が88,000円以上、雇用期間の見込みが1年以上である労働者に拡大された(学生は適用除外)。
5 副業をする労働者の社会保険料の負担の仕組みは次の通りである。→ (1)副業をする労働者は、本業の会社を管轄する年金事務所に「健康保険・厚生年金保険 被保険者所属選択・二以上事業所勤務届(略して二以上勤務届)」を提出する必要がある。→ (2)その後、年金事務所は、本業の会社と副業の会社の給与の金額を合算して社会保険料を計算し、会社ごとの標準報酬月額に合わせて、本業の会社と副業の会社の支払額を決定する。→(3)年金事務所はそれぞれの会社に社会保険料の金額を通知する。→ (4)会社と副業をする労働者は通知された保険料を納付する。


参考資料
  • 金 明中(2018)「働き方改革シリーズ⑥:副業・兼業の現状と今後の課題」『福利厚生情報』2018 年度Ⅰ
  • 国立社会保障・人口問題研究所(2017)「日本の将来人口推計」
  • 厚生労働省(2018)「副業・兼業の促進に関するガイドライン」
  • 厚生労働省(2017)「 副業・兼業の現状と課題」厚生労働省労働基準局提出資料
  • 総務省統計局(2018)「人口推計(平成29年(2017年)10月確定値,平成30年(2018年)3月概算値)(2018年3月20日公表)」
  • 総務省e-stat統計で見る日本「人口推計資料No.76我が国の推計人口 大正9年~平成12年」
  • 総務省e-stat統計で見る日本「長期時系列データ(平成12年~27年)」
  • 首相官邸「働き方改革実行計画(平成29年3月28日働き方改革実現会議決定)工程表」
  • リクルートキャリア(2017)「兼業・副業に対する企業の意識調査」
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生活研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

金 明中 (きむ みょんじゅん)

研究・専門分野
高齢者雇用、不安定労働、働き方改革、貧困・格差、日韓社会政策比較、日韓経済比較、人的資源管理、基礎統計

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
    独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年9月ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月から現職

    ・2011年~ 日本女子大学非常勤講師
    ・2015年~ 日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員
    ・2021年~ 横浜市立大学非常勤講師
    ・2021年~ 専修大学非常勤講師
    ・2021年~ 日本大学非常勤講師
    ・2022年~ 亜細亜大学都市創造学部特任准教授
    ・2022年~ 慶應義塾大学非常勤講師
    ・2024年~ 関東学院大学非常勤講師

    ・2019年  労働政策研究会議準備委員会準備委員
           東アジア経済経営学会理事
    ・2021年  第36回韓日経済経営国際学術大会準備委員会準備委員

    【加入団体等】
    ・日本経済学会
    ・日本労務学会
    ・社会政策学会
    ・日本労使関係研究協会
    ・東アジア経済経営学会
    ・現代韓国朝鮮学会
    ・韓国人事管理学会
    ・博士(慶應義塾大学、商学)

(2018年03月30日「基礎研レポート」)

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