2018年03月30日

中国経済:景気指標の総点検(2018年春季号)~景気は一旦再加速!

三尾 幸吉郎

文字サイズ

3|その他の重要な4指標
 
【電力消費量】
電力消費の動きにも注意が必要である。15年にゼロ成長に落ち込んだ電力消費は、16年後半から伸びを高め17年は振れが大きかったものの概ね6.5%前後で推移していたが、18年に入り1-2月期は前年同期比13.3%増(工業部門は同11.2%増)と伸びが加速している(図表-11)。

【貨物輸送量】
貨物輸送の動きにも注意したい。景気が良くなると物流も増えるからだ。16年後半に底打ちし17年前半には伸びを高めた貨物輸送量は、17年後半には鉄道・道路ともに伸び悩み気味だった。しかし、18年1-2月期は鉄道・道路ともに伸びを高めており、底打ちの兆しが見える(図表-12)。

【工業生産者出荷価格】
工業品の値動きにも注意したい。景気が良いと工業製品の値段も上昇するからだ。18年2月の工業生産者出荷価格は前年同月比3.7%上昇とピークアウト感が強まった。原材料の急騰が収まりつつあることが背景にある(図表-13)。今のところデフレ懸念もインフレ懸念も小さいと思われる。

【通貨供給量(M2)】
金融面からの点検も重要である。17年の通貨供給量(M2)は伸びの鈍化が続いていたが、18年2月は前年同月比8.8%増と鈍化に歯止めが掛かった。一方、銀行貸出残高は前年同月比13%増前後の高い伸びを維持しており、景気への悪影響は限定的に留まっている(図表-14)。但し、その反面、銀行の預貸率は徐々に上昇しており、金融リスクが高まりつつある点には注意が必要だ。
(図表-11)電力消費量の推移/(図表-12)鉄道貨物との道路貨物推移
(図表-13)工業生産者出荷価格/(図表-14)通貨供給量(M2)と銀行指数の推移

3.総合指標の点検

3.総合指標の点検

以上のように18年1-2月期の景気指標を総点検すると、製造業PMIが2月に3ヵ月連続で低下し拡張・収縮の分岐点となる50%に急接近したり、2桁増が当たり前だった小売売上高が1桁台に落ちたり、これまで景気を下支えしてきたインフラ投資の伸びが鈍化したりと、景気の先行きにはいくつかの不安材料が浮上してきた。しかし、輸出が極めて高い伸びを示したことを背景に、前述のとおり18年1-2月期の工業生産(実質付加価値ベース)は17年10-12月期よりも1ポイント近く上昇しており、4月17日の公表される18年1-3月期の実質成長率は前四半期実績(前年同期比6.8%増)を上回る可能性が高いだろう。なお、ニッセイ基礎研究所で開発した「工業生産」、「製造業PMI」、「非製造業PMI」の3つを説明変数とした予測モデルで推計したところでは前年同期比7.0%増と17年10-12月期の同6.8%増を上回る結果となった(図表-15)。また、中国政府系シンクタンクの中国社会科学院も同6.9%増との予測値を先ごろ公表している。

但し、その後の実質成長率は減速傾向を辿ると予想している2。18年3月に開催された第13期全国人民代表大会(全人代、国会に相当)では、18年の成長率目標を「6.5%前後」と17年実績(6.9%)を下回るレベルに設定、積極的な財政政策という基本方針は維持したものの財政赤字の対GDP比は2.6%と17年の3%から引き下げた。また、昨年10月の共産党大会で「小康社会(少しゆとりのある社会)」を全面的に完成させるとした2020年を視野に入れて、今回の全人代では「三大堅塁攻略戦」を断固戦い抜くと宣言、金融面に焦点を当てた「重大リスクの防止・予防」、「的確な貧困対策」、「汚染対策」の3つの“堅塁(守りが堅くて容易に攻め落とせない陣地)”の攻略に乗り出した。習政権一期目の“堅塁”が腐敗汚職だったとすれば、習政権二期目の“堅塁”はこの3つとなるだろう。従って、「三大堅塁攻略戦」に挑む中国政府は「量から質」へと経済運営の重点を移して、「6.5%前後」の安定成長への軟着陸(ソフトランディング)を図ることになると考えている。
(図表-15)中国の実質GDP成長率(予測と実績)
 
2 今後の中国経済の見通しに関しては、「中国経済見通し~マクロプルーデンス政策の強化で「安定成長」へ軟着陸、リスクの所在は住宅バブル崩壊」Weeklyエコノミスト・レター2018-02-21を参照ください。
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
Xでシェアする Facebookでシェアする

三尾 幸吉郎

研究・専門分野

(2018年03月30日「Weekly エコノミスト・レター」)

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【中国経済:景気指標の総点検(2018年春季号)~景気は一旦再加速!】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

中国経済:景気指標の総点検(2018年春季号)~景気は一旦再加速!のレポート Topへ