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『SDGsウォッシュ』と言われないために~「SDGsの実装化」に向かう日本企業のグッド・プラクティス~

客員研究員 川村 雅彦
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はじめに: 大事なことは “SDGsの紐付け” ではない !!
2015年9月、国連本部において「国連持続可能な開発サミット」が開催され、『私たちの世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ』が採択された。このアジェンダは、「前文」と「宣言」、そして2030年までの達成をめざす目標群から構成される。この目標群が、17の目標と169のターゲットからなる「持続可能な開発目標(SDGs)」である。その後、2016年1月に正式発効した。
採択から2年半が経過する中で、わが国では政府が2016年12月に「持続可能な開発目標(SDGs)実施指針」を発表し、2017年10月には外務省が「ジャパンSDGsアワード」を創設した(表彰式は同年12月)。また、2017年11月に日本経団連がSDGsを踏まえて「企業行動憲章」を改訂した。
それではこの間、日本企業はSDGsに対してどのような取組をしてきたのであろうか?
今ではあまり聞かなくなったが、「greenwash(グリーンウォッシュ)」という言葉がある。これは、“環境に配慮する”を意味する「green」と、“白塗り、うわべを飾る”を意味する「whitewash」を合成した造語である。つまり、企業が環境問題に本気で取り組む気はないのに、消費者などへの訴求効果を狙って、あたかも環境に配慮しているかのように見せかけることである。
この言葉は1990年頃に欧米の環境NPOが使い始めたもので、環境問題への社会的関心が高まる中、企業が広告や環境報告書などで根拠を示さずに「環境にやさしい」や「エコ」という表現を使うこと。あるいは、環境に悪影響のある事業には触れず、環境配慮の取組だけを強調すること。また、自社の事業や製品・サービスとは直接関係のない草花、森林、海洋などの写真や絵を使ったイメージキャンペーンも含む。これらは企業の環境対応の実態を正しく伝えない誤解を与える行為である。
最近、欧米ではこれと同じ文脈で「SDGsウオッシュ」が使われるようになったという。つまり、SDGsの本質と狙いを理解せず、本気で取り組むつもりはないにもかかわらず、表面的に自社の既存の取組にSDGs目標を関連付けることをさす。例えば、17あるカラフルな絵文字(アイコン、図表1)を、外見上関係ありそうなCSRの体系や取組に紐付けるだけで済ませてしまう事例が指摘されている。
もちろん紐付け自体は非難されるべきことではないが、懸念されるのは、「17のアイコンを貼り付けただけで、SDGsに取り組んだような気分になる」ことで、思考が先に進まないことである。
1――169のターゲットレベルで考えるべきSDGs
一口にSDGsと言っても、実は三種類のイニシアチブが公表されている。ここで、「2030アジェンダ」(SDGs)の狙い、企業向けの導入指南書たる「SDG コンパス」、事業機会事例集の「SDGs Industry Matrix」の要点を確認しておきたい。以下、それぞれの要点をまとめる。
(1) 我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ
(2015年9月25日第70回国連総会にて採択)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000101402.pdf
・アジェンダの構成:前文+宣言+SDGs(17目標と169ターゲット)
・前文の要旨:2030年の達成をめざす人間、地球、繁栄と平和のための目標群と行動計画
⇒グローバルレベルで包括的に社会的課題を解決し、「誰一人取り残さない」
⇒持続可能な社会の実現に向けた三側面(経済・社会・環境)の調和
⇒政府だけでなく企業を含むあらゆる主体が取り組む
・SDGsの「目標」と「ターゲット」は一体不可分
(筆者注)各目標は、それぞれのターゲット群の実現により達成される。いわば、目標はアウトカム(最終成果)であり、ターゲット(標的)は目標を達成するための個別の実現手段としてのアウトプットである。
http://sdgcompass.org/wp-content/uploads/2016/04/SDG_Compass_Japanese.pdf
・目的:企業はSDGsをどう活用するかについての実践的な手引書
⇒企業がサステナビリティを経営戦略に組み込むためのツールと知識を提供
⇒事業のインパクト評価、戦略的優先順位の決定、目標設定、統合、報告の5ステップを解説
・基本認識:人類は、サステナビリティにかかわる経済・社会・環境の大きな課題に直面
・SDGsの意味するもの:2030年に向けた「世界的な優先課題および世界のありたい姿」
(筆者注)SDGsは『めざすべきゴール』を明確にしたもの。日本企業の誤解しやすい実現可能性の積み上げによる『必達目標』ではない。企業に求められるのは、本業における「SDGs達成への貢献」である。
1 GRI:Global Reporting Initiative(CSR報告書の国際ガイドラインを策定するNPO)、UNGC:United Nation Global Compact (国連主導で人権・労働・環境・腐敗防止の4分野・10原則を軸に展開、全世界で約12,900団体、日本企業は265社署名)、WBCSD:World Business Council for Sustainable Development(持続可能な開発のための世界経済人会議:世界の企業約200社のCEO連合体)
http://www.ungcjn.org/activities/topics/detail.php?id=204
・目的:企業のSDGsへの関心を戦略的ビジネスに転換するための手引書
⇒Shared Value Creation(共有価値の創出)のレンズを通して、社会・環境課題の解決に向けた事業機会の着想を提供 ⇒市場潜在性、社会的要請、各国政策の連携
⇒メガトレンド(人口動向、所得状況、テクノロジー、協働)の理解により説得力が増す
・特徴:事業機会は業種ごとに異なるため、業種別の独立した手引書
業種:製造業、食品・日用品、金融サービス、エネルギー・地下資源、化学工業、医療、運輸、気候変動(抜粋) ⇒業種特性に応じたSDG別のヒントや実例を示す
・シナジー:企業の活動・投資・イノベーションは、生産性および包摂的な経済成長と雇用創出を生み出していく上での重要な推進力である。・・・企業に対し社会的課題解決のための創造性とイノベーションを求め、UNGCを活用しつつ、ステークホルダーとの連携を推奨する。
SDGs採択から2年半が経過し、冒頭で述べた日本政府や日本経団連の動き、あるいはNPOなどの様々なセミナーを背景に、日本企業においてもSDGsへの関心が高まっている。その結果、SDGsの認識と理解も次第に深まり、自主的に取組を始める企業が増えてきた。事実、ホームページやCSR・サステナビリティ報告書において、SDGsへの言及や17目標の自社事業への関連付けが増えている。
しかし、SDGsの本質を理解し本業の中核に組み込んで積極的にSDGs達成への貢献に取り組む企業が少なからず登場している反面、表面的に該当しそうな17の目標アイコンを単に既存の取組に貼り付けただけの企業もみられる。これは日本企業のSDGsへの取組の二極化と言えそうである。
特に後者では、意図的というよりも、むしろ無意識に企業の担当者や経営者が「17あるアイコンのいくつかを紐付けしたただけで、SDGsに取り組んでいるような気分になっている」のかもしれない。一方で、「紐付けはできたけれど、このあと何をすればいいのか」との声も聞こえる。いずれにせよ、どのようにして紐付けしたのか説明がなければ、結果的に「SDGsウオッシュ」状態に陥ってしまう。
前述したように、17目標と169ターゲットは一体不可分である。それゆえ、各目標の狙いや意味は、その文章や略称・アイコンだけでは伝わりにくい面があるため、それぞれに複数あるターゲットから理解する必要がある。本気でSDGsを経営に組み込もうとするならば、これは不可欠である。すなわち、SDGsに取り組むということは、アウトカムたる17目標の達成に向けた実現手段(アウトプット)としての169のターゲットレベルで自社事業を見直すこと(再定義すること)である。
しかし、現状では、このターゲットレベルまできちっと読み込んで対応する企業は必ずしも多くないようである。実際、SDGsはどのように書かれているのか再確認してみたい。以下、抜粋である。
目標 1. あらゆる場所のあらゆる形態の貧困を終わらせる
1.1 2030年までに、現在1日1.25ドル未満で生活する人々と定義されている極度の貧困をあらゆる場所で終わらせる。
1.2 2030年までに、各国定義によるあらゆる次元の貧困状態にある、すべての年齢の男性、女性、子どもの割合を半減させる。
目標 2. 飢餓を終わらせ、食料安全保障及び栄養改善を実現し、持続可能な農業を促進する
2.1 2030年までに、飢餓を撲滅し、すべての人々、特に貧困層及び幼児を含む脆弱な立場にある人々が一年中安全かつ栄養のある食料を十分得られるようにする。
目標 4 . すべての人に包摂的かつ公正な質の高い教育を確保し、生涯学習の機会を促進する
4.1 2030年までに、すべての子どもが男女の区別なく、適切かつ効果的な学習成果をもたらす、 無償かつ公正で質の高い初等教育及び中等教育を修了できるようにする。
目標 5 . ジェンダー平等を達成し、すべての女性及び女児の能力強化を行う
5.1 あらゆる場所におけるすべての女性及び女児に対するあらゆる形態の差別を撤廃する。
目標 6. すべての人々の水と衛生の利用可能性と持続可能な管理を確保する
6.1 2030年までに、すべての人々の安全で安価な飲料水の普遍的かつ衡平なアクセスを達成する。
目標 7. すべての人々の安価かつ信頼できる持続可能な近代的エネルギーへのアクセスを確保する
7.2 2030年までに、世界のエネルギーミックスにおける再生可能エネルギーの割合を大幅に 拡大させる。
目標 8. 包摂的かつ持続可能な経済成長及びすべての人々の完全かつ生産的な雇用と働きがいの ある人間らしい雇用(ディーセント・ワーク)を促進する
8.2 高付加価値セクターや労働集約型セクターに重点を置くことなどにより、多様化、技術向上 及びイノベーションを通じた高いレベルの経済生産性を達成する。
目標 10. 各国内及び各国間の不平等を是正する
10.1 2030年までに、各国の所得下位40%の所得成長率について、国内平均を上回る数値を 漸進的に達成し、持続させる。
目標 12. 持続可能な生産消費形態を確保する
12.2 2030年までに天然資源の持続可能な管理及び効率的な利用を達成する。
目標 13. 気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じる
13.1 すべての国々において、気候関連災害や自然災害に対する強靱性(レジリエンス)及び適応 の能力を強化する。
目標 17. 持続可能な開発のための実施手段を強化し、グローバル・パートナーシップを活性化する
17.14 持続可能な開発のための政策の一貫性を強化する。
(筆者注)
SSDGs目標の番号は整数、ターゲットの番号は少数であることから、筆者は「SDGsは整数ではなく、少数で考えよう!」と訴えている。
(2018年03月23日「基礎研レポート」)
客員研究員
川村 雅彦
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