2017年05月08日

SDGs達成に向けて投資家が果たす役割と責任

一橋大学大学院 商学研究科 加賀谷 哲之

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2015年9月の国連総会にて、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択された。2030アジェンダでは、17のゴール169のターゲットから構成される、持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals; SDGs)が含まれている(図表1)。SDGsは2000年に採択されたMDGsの後を継ぐ形で公表されている。MDGs(Millennium Development Goals)が、先進国によると途上国支援という色彩が強く、企業の関与も限定的に記述されているにとどまっていたのに対して、SDGsでは、先進国と途上国がともに達成すべき目標であり、企業により積極的な貢献を求めている点が大きく異なるポイントである。
持続可能な開発目標(SDGs)の17のゴール
日本を代表する企業のCSR担当者から構成されるCSR研究会(企業活力研究所)では、2016年度に「社会課題(SDGs等)解決に向けた取り組みと国際機関・政府・産業界の連携のあり方」という研究テーマにて、主要なステークホルダーに対するインタビュー調査や企業のCSR担当者へのアンケート調査で日本企業のSDGsの現状や課題を明らかにした。詳細については、企業活力研究所・CSR研究会のホームページにて報告書が掲載されているため、ご覧いただきたい。ここでは、特に欧州企業との比較で、日本企業のSDGsをめぐる取り組みの実態に焦点をあて、説明をしていくことにしよう。

我々はCSR Europeの協力をえて、欧州企業と日本の上場企業それぞれのCSR担当者にアンケート調査を行った。ここで特筆すべきは、日本企業は欧州企業と比べて、経営陣によるSDGsの認知度が低いこと(日本25.5%vs欧州65.4%)、日本企業の経営陣は欧州企業と比べて、SDGsを新たなビジネスチャンスとしてとらえておらず、国際的なビジネスの場で重要なトピックとなっていると認識していない点、そもそもCSRなどへの関心が高くない点が確認される(図表2)。この結果、実際にSDGsへの短期・中長期の取り組みを持っている企業の割合も低い状態にとどまっている。
経営陣にSDGsが認識された理由・きっかけ(単位:%)
ではなぜ日本企業の経営者はSDGsに対する認識が十分ではなく、その取り組みについて必ずしも十分に進展していないのだろうか。企業の競争力や企業価値にCSRやSDGsの取り組みが与える影響を識別することが容易ではなく、さまざまなステークホルダーとの対話の機会でそれらのトピックが十分に取り上げられてこなかったことが影響していると考える。

近年、そうした環境が変化しつつある。2017年に公表されたエデルマン・トラストバロメーターによれば、企業セクターに対する一般消費者からの信頼感が低迷している。こうした信頼感の低迷は、中・長期的な企業価値毀損の原因になりかねない。さらに、グローバルにみて保護主義が蔓延しつつあり、各国・各地域に対する貢献の大きさが当該企業の事業機会に大きな影響を与える可能性も高まっている。こうした中で、企業が社会的課題に対して積極的な役割を果たすことで、一般消費者からの信頼感を増大させ、中長期のリスクを回避し、自社のDNAや企業理念に対する理解を促進させ、社員一人ひとりの誇りを磨き高めることも可能となる。

こうした取り組みを促進させるにあたって、投資家が果たすべき役割・責任も大きくなっている。近年、スチュワードシップ・コードを契機に、投資家も持続的な企業価値創造という観点からの投資先企業に対する説明責任があることが明確化され、そのための働きかけが求められるようになっているためである。とりわけ長期投資などに取り組むためには、リスクマネジメントという観点からもESGなどに関わる取り組みを積極的に評価することが求められる。投資家と経営者との高品質なCSR、SDGs、ESGをめぐる対話・エンゲージメントを展開することで、日本でもそうした取り組みが加速することを期待したい。
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一橋大学大学院 商学研究科

加賀谷 哲之

研究・専門分野

(2017年05月08日「ニッセイ年金ストラテジー」)

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