医療・ヘルスケア
2019年01月16日

医療費控除によって所得税は軽減されるの?

保険研究部 准主任研究員 岩﨑 敬子

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3――セルフメディケーション税制について

セルフメディケーション税制は、医療費控除の特例で、「健康の維持増進及び疾病の予防への取組として一定の取組を行う個人が、平成29年1月1日以降に、スイッチOTC医薬品(要指導医薬品及び一般用医薬品のうち、医療用から転用された医薬品)を購入した際に、その購入費用について所得控除を受けることができるもの」22です。従来の医療費控除と併用はできませんが、従来の医療費控除が適用されない場合でも、セルフメディケーション税制は適用される場合があります。また、どちらも適用可能な場合は、どちらで申請した方が還付額が大きくなるのか検討して、申請するとよいでしょう。

1セルフメディケーション税制の適用を受けるための要件
セルフメディケーション税制の適用を受けるためには、健康の維持増進及び疾病の予防への取組として一定の取組を行ったことを証明する必要があります。この一定の取組とは表5の項目を指します。
表5. 健康の維持増進及び疾病予防への取組としての一定の取組
表5に挙げられた項目のうち、一つでも行っていれば、一定の取組を行ったとみなされます。申告の際には、これらの取組を行ったことを証明する領収書や結果通知表の提出が必要です24。市町村が自治体の予算で住民サービスとして実施する健康診査や、任意で受診した全額自己負担の健康診査は含まれません。また、一定の取組みを行うためにかかった費用は所得控除の対象になりません23
 
22 引用: 厚生労働省「セルフメディケーション税制(医療費控除の特例)について」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000124853.html (2018/12/17アクセス)
23 厚生労働省「セルフメディケーション税制に関する Q&A」
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/0000176205.pdf (2018/12/17アクセス)
24 厚生労働省 〔「一定の取組」の証明方法について〕https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/0000143635.pdf (2018/12/17アクセス)
2セルフメディケーション税制の対象
セルフメディケーション税制は平成29年1月1日から平成33年12月31日までの間の、自己又は自己と生計を一にする者のスイッチOTC医薬品の購入代が対象です。つまり、従来の医療費控除の対象である薬の購入費の中の一部の品目への特例と捉えることができます。対象品目は厚生労働省のWEBサイトで確認できます。一般的なかぜ薬や、胃腸薬、鼻炎薬、目薬、水虫薬など様々な医薬品が対象に含まれます25
 
25 対象品目は厚生労働省の以下のWEBサイトより、「対象品目一覧」参照(2018/12/13アクセス) https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000124853.html
3セルフメディケーション税制による控除金額
セルフメディケーション税制による医療費控除額は、対象の商品の購入費の合計から保険などで補填される金額と1万2千円を差し引いた額(式6)で、最高で8万8千円です26
式6  医療費控除額(セルフメディケーション税制)  = 対象品目の購入費 - 補填額 -1万2千円
 
26 国税庁「特定一般用医薬品等購入費を支払ったとき(医療費控除の特例)【セルフメディケーション税制】」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1129.htm
4 セルフメディケーション税制の申請方法
セルフメディケーション税制の申請は、通常の医療費控除の申請と同様に確定申告(還付申告)を行う必要があります。申請に必要な書類は、通常の医療費控除の申請と同様で、医療費控除の明細書に代わり、セルフメディケーション税制の明細書が必要です27。セルフメディケーション税制の明細書は対象品目を購入した際の領収書やレシートを元に作成しますが、従来の医療費控除の申請時と同様に領収書やレシート自体の提出は不要です。領収書やレシートは自宅で5年間保管する必要があります。
 
27 国税庁の下記WEBサイトよりダウンロード可能 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/yoshiki/02/pdf/ref2.pdf  (2018/12/17アクセス)
5 医療費控除とセルフメディケーション税制
セルフメディケーション税制の対象品目の購入費は、従来の医療費控除の対象に含まれます。そして、従来の医療費控除とセルフメディケーション税制は併用できません。そのため、どちらで申請するかは、セルフメディケーション税制の対象品目の購入費と、セルフメディケーション税制の対象品目の購入費を含めた従来の医療費控除の対象額から自身で検討する必要があります。

まず、セルフメディケーション税制対象品目の購入費が1万2千円以上で、従来の医療費控除の対象金額が10万円以上の場合、還付額を比較するために計算が必要です。まず、従来の医療費控除は控除額の上限が200万円なのに対し、セルフメディケーション税制の上限は8万8千円です。そのため、従来の医療費控除額が8万8千円を超える場合は、従来の医療費控除の方が控除額が大きくなります。

一方、従来の医療費控除額が8万8千円以下の場合は、従来の医療費控除の対象額とそれに占めるセルフメディケーション税制の対象額の大きさから、どちらの方が還付額が大きくなるか計算できます。例えば、総所得金額が200万円以上で、従来の医療費控除の対象額が12万円の場合を考えます。この場合、従来の医療費控除額は2万円(12万円-10万円)です。セルフメディケーション税制の対象額がそのうち4万円の場合、セルフメディケーション税制を適用した場合の医療費控除額は2万8千円(4万円-1万2千円)で、従来の医療費控除額より大きくなります(図1の上の例)。一方、セルフメディケーション税制の対象額が3万円の場合は、セルフメディケーション税制を適用した場合の医療費控除額は1万8千円(3万円-1万2千円)で、従来の医療費控除を活用した方が控除額が大きくなります(図1の下の例)。
図1. 医療費控除とセルフメディケーション減税の控除額の比較(本文中の例)
同一世帯で、夫は従来の医療費控除での申請、妻はセルフメディケーション税制による申請、と別々に申請することも可能です。どの制度を利用して医療費控除の申請を行うかは申請者に委ねられています。自身に最適な方法で制度を活用しましょう。
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保険研究部   准主任研究員

岩﨑 敬子 (いわさき けいこ)

研究・専門分野
応用ミクロ計量経済学・行動経済学 

経歴
  • 【職歴】
     2010年 株式会社 三井住友銀行
     2015年 独立行政法人日本学術振興会 特別研究員
     2018年 ニッセイ基礎研究所 研究員
     2021年7月より現職

    【加入団体等】
     日本経済学会、行動経済学会、人間の安全保障学会
     博士(国際貢献、東京大学)
     2022年 東北学院大学非常勤講師
     2020年 茨城大学非常勤講師

(2019年01月16日「基礎研レター」)

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