2018年01月29日

EUソルベンシーIIにおけるLTG措置等の適用状況とその影響(3)-EIOPAの2017報告書の概要報告-

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3―措置毎の国別の適用状況(適用会社及びSCR比率への影響等)-その3(DBER、ED、ERP)-

この章では、DBER(デュレーションベースの株式リスクサブモジュール)、ED(株式リスクチャージの対称調整メカニズム)の株式リスク措置及びERP(ソルベンシー資本要件に準拠しない場合の回復期間の延長)の適用状況について報告する。

1|DBERデュレーションベースの株式リスクサブモジュール)
2016年12月31日時点では、フランスの会社1社のみが適用している。

当該会社のSFCR(ソルベンシー財務状況報告書)によれば、DBERを非適用にすることでSCR比率はDBER有り(ただし、TTP及びVA適用無し)の105.5%から78.9%へ26.6%ポイント低下する。しかし、SCRにおいてDBERを非適用にすることによる影響は、当該会社が株式リスクの移行措置を適用した場合には補填される可能性がある。

なお、前回の報告書で報告されていたように、11カ国(チェコ、デンマーク、フィンランド、ドイツ、アイスランド、リトアニア、ラトビア、オランダ、ポーランド、スロバキア、ブルガリア)で、DBERは国内法で規定されていなかった。

残りの国々では、以下の理由からDBERが適用されていない、としていた。

(1) 国内市場の商品がソルベンシーII指令の第304条の基準を満たしていない。
(2) 会社が年金市場であまりアクティブでない。
(3) このサブモジュールへの必要性や関心が無い。
(4) ソルベンシーII指令第308条b(13)の株式移行措置4のため、DBERを適用するインセンティブが今のところない。ただし、移行措置の段階的消滅の過程でより多くの適用があるかもしれない。
 
4 2016年1月1日以前に購入した株式についての移行措置
2|ED(又はSA)(株式リスクチャージの対称調整メカニズム)
SAは、SCRの株式リスクサブモジュールを算出するのに標準式を使用(部分内部モデルが株式リスクサブモジュールをカバーしていない場合を含む)している全ての会社が適用している。

以下の図表は、その国別の適用状況を示している。
図表 SAの国別適用状況(会社数)
今回の影響調査では、情報要求は、重要性の臨界値(技術的準備金の損失吸収能力差引き後の株式リスクに対する資本要件をSCRで割った数値が50%)を超えている会社に対して行われ、この臨界値を超えない会社は任意ベースで提出できる、とした。結果として、重要性の臨界値を上回る133の会社、重要性の臨界値を超えない94の会社、何らの目安が提供されていない4社、合計22の加盟国からの231の会社からのデータが受領された。これらの会社の株式投資は、EEAにおける全ての会社の株式投資総額の25%に相当している。

データ分析は、ソルベンシーII指令第308b条(13)に基づく株式リスクの移行措置を適用する会社と、当該措置を適用しない会社との間で区別されている。検討対象のサンプル内で、56社が株式リスクに関する移行措置を適用すると報告し、175社はそれを適用しないと報告している。

以下の図表は、株式移行措置を適用しない会社について、SAを非適用とした場合のSCR及びSCR比率へのEEAレベル及び各国における影響を示している。

2016年12月31日のSAは1.44%だったので、SAをゼロに設定すると、SCRを計算するために適用される株式エクスポジャーに対するストレスが増加する。EEAレベルでは、株式移行措置を適用しない会社のSCRに対する平均影響度は0.9%である。また、SCR比率は、218%から216%に2%ポイント低下する。なお、株式リスクにさらされた会社(すなわち重要性の臨界値を超える会社)のみの場合、SCRに対する平均影響度は1.3%となり、SCR比率は232%から230%に2%ポイント低下する。
図表 SA を非適用とした場合のSCR及びSCR比率への影響(株式移行措置非適用会社)
次ページの図表は、株式移行措置を適用した会社について、SAを非適用とした場合のSCR及びSCR比率へのEEAレベル及び各国における影響を示している。

EEAレベルでは、株式移行措置を適用した会社のSCRに対する平均影響度は0.5%である。また、SCR比率は、303%から302%に1%ポイント低下する。なお、株式リスクにさらされた会社(すなわち重要性の臨界値を超える会社)のみの場合の影響度も同じとなっている。
図表 SA を非適用とした場合のSCR及びSCR比率への影響(株式移行措置適用会社)
3|ERPソルベンシー資本要件に準拠しない場合の回復期間の延長)
回復期間の延長は、NSAsからの要請に基づいて、EIOPAが「例外的に不利な状況(an exceptional adverse situation)」を宣言した時に適用されるが、これまでのところEIOPAはそのような要請を受けていない。

2016年12月31日時点で、SCR要件を満たしていない会社数は、以下の通りとなっている(全ての適用されるLTG措置や株式措置を反映したベース)。2016年1月1日時点でSCR要件を満たしていなかった会社のうちいくつかは、2016年の最初の数ヶ月で、資本調達、例えば再保険によるリスク回避、他の会社との合併等により、SCR要件の遵守を達成しており、さらにはソルベンシーIIの適用前に再編や解散の手続きに入った会社もある。
SCR要件の充足状況(会社数)
なお、ソルベンシーII指令第308条b(14)の移行措置によれば、「2015年末において、ソルベンシーIの資本要件を満たしているが、ソルベンシーIIの適用初年度でSCRを満たしていない会社は、2017年12月31日までに要件を満たすことが認められる。」となっている。
 

4―まとめ

4―まとめ

以上、今回のレポートでは、EIOPAの報告書の第3のセクションから、TTPとTRFRという移行措置及びDBER、ED(又はSA)の株式リスク措置及びERPの適用状況について、その国別の適用会社数やSCR比率への影響等を報告してきた。

TTPについては、主要国の保険会社が適用しているが、特にドイツや英国で、SCR要件の遵守の上で大きな意味合いを有するものとなっている。また、今回の報告書では、SCR全額をカバーするためにTTPやTRFRという移行措置を適用している会社に対するPIPに関する状況についても、その具体的な改善手段やNSAsのレビューや監督措置が明らかにされている。移行措置適用の収束に向けて、今後各保険会社がどのような対策を図り、それに対して各国監督当局がどのように対応していくのかは大変興味深い。

次回の4回目のレポートでは、報告書の第2のセクションに記載されている、全体的な観点から見た場合の、LTG措置や株式リスク措置が、保険契約者保護、保険会社の投資、消費者及び商品、EU保険市場における競争と公平な競争の場及び金融安定性に与える影響について報告する。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2018年01月29日「保険・年金フォーカス」)

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【EUソルベンシーIIにおけるLTG措置等の適用状況とその影響(3)-EIOPAの2017報告書の概要報告-】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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