2018年01月29日

EUソルベンシーIIにおけるLTG措置等の適用状況とその影響(3)-EIOPAの2017報告書の概要報告-

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(3)技術的準備金への影響
TTPを適用しなかった場合の適用会社の技術的準備金への影響は、以下の図表の通りである。

EEA全体では、適用会社の技術的準備金は6.2%増加する。

国別では、ドイツの適用会社が12.8%と最も大きな影響を受け、スペインが10.3%、オーストリアが9.9%、ギリシャが9.5%と続いている。
図表 TTP適用による技術的準備金への影響
2|TRFR(リスクフリー金利に関する移行措置)
(1)適用会社
TRFRは4カ国(ドイツ、フランス、ギリシャ、アイルランド)からの6社が適用している。
全てが生命保険会社又は生損保兼営会社である。
TRFRの国別適用状況(会社数)
これらの会社のEEA全体における技術的準備金の市場シェアは無視できるレベルであり、ギリシャの3社の国内市場におけるシェアも約20%である。

なお、6社のうち5社は、TRFRと同時にVAも適用している。

(2)SCR比率への影響
TRFRの非適用により、適用会社全体の平均SCR比率は186%から123%に63%ポイント低下する。

適用会社のSCR比率の分母のSCRは9.7%増加し、分子の適格自己資本は27.6%減少する。

(3)技術的準備金への影響
TRFRの非適用により、適用会社の技術的準備金は7.0%増加する。
3|TTPTRFRへの依存度
TTP又はTRFRを適用する会社及びPIP(phasing-in plan:段階的計画)の提出を求められた会社の国別内訳は、以下の図表の通りである。

TTP又はTRFRを適用する会社は169社あり、このうちの60社が2016年のある時点でSCR全額をカバーするためにTTP又はTRFRの適用に依存しなければならなかったため、2016年にPIPを提出しなければならなかった。ただし、このうちの16社(ドイツ14社、フィンランドとポルトガルの各1社)は、2016年末ではSCR遵守のためにTTP又はTRFRの適用に依存する必要はなかった。
TTP又はTRFRを適用する会社数及びPIPを要請されている会社数
(1)PIPのレビュー
NSAs(National Supervisory Authorities:国家監督当局)が受け取ったPIPは、以下の図表が示すような共通の要素を含んでいた。
共通の要素
上記の図表の手段のうちの「リスクプロファイルの削減」については、投資ミックスの変更、再保険プログラムの変更、資産負債マッチングの改善であり、「商品設計の変更」は、保険料の引き上げ、資本集約的な商品の削減、保証レベルの削減、新しいタイプの年金商品の開発に焦点が当てられた。「その他」には、ランオフ、別会社との合併、MAの使用の申請が含まれている。

なお、2つのNSAsが定量的又は定性的に不十分又は不適切であると判明したPIPを再提出する必要があったと報告した。例えば、計画された手段の記述が不完全であったり、期待される影響が十分に定量化されていなかったりした場合、重要な基礎となる前提条件(移行期間中に引き受けられる新契約等)が感応度分析の対象とならなかった場合等が含まれていた。

SCRを完全にカバーするために移行措置に依存している会社は、毎年進捗報告書を提出することになる。
(2)NSAsのビュー
NSAsは、一般的には、移行措置への依存を2032年1月1日までに無くすことができると確信している。しかし、いまだ移行期間の早い段階であり、バイオメトリクス経験、保証商品から非保証商品へのシフト能力、低金利環境の持続性など、内外の要素がどのように進展するのかという(不確実性を有する)重要なエクスポジャーにさらされている、と強調している。

以下の図表が、移行措置無しでSCRに準拠していない会社数と、その場合の適格自己資本の不足額の概要を示している。
TTPやTRFRの移行措置を適用しなかった場合の影響
これによれば、英国の会社(2016年の数字が入手できない)を除いた場合、EEAレベルで移行措置無しでSCRに準拠していない会社は、2016年初めの35社から5社減少し、2016年末(2017年報告書)には30社となった。また、これらの会社がSCR要件を遵守するために必要な適格自己資本は、2016年初めの52.6億ユーロから2016年末の27.8億ユーロに24.8億ユーロ減少している。

2016年末の国別では、英国が61.2億ユーロで最高で、ドイツは、年初の34.6億ユーロから年末の15.9億ユーロへ必要自己資本額が大きく減少した。 

(3)NSAsによって取られる(ことが想定されている)監督措置
NSAsは、SCRを遵守するために移行措置に依存している会社に対して取った措置や取ることを想定している措置についての報告を求められ、以下のような様々なアプローチを報告している。

・会社のリスクを評価する際に、TTPの適用有無の両方のケースの会社のソルベンシーポジションを検討する。

・作業計画の作成時に移行措置の影響が無い会社のリスクの水準を測定し、特にSCRを完全にカバーするために移行措置に依存している場合に、TTP又はTRFRを使用している会社のレビューを優先する。

・会社が、リスクを測定し、リスク選好度を定義するために適切な指標(即ち、移行措置無しで)を使用し、その戦略において、移行措置の使用を通じてのみSCRに従うという事実を考慮し、ソルベンシー問題に関してAMSB(管理・経営・監督機関)に明確で関連性のある情報を提示し、SFCR(ソルベンシー財務状況報告書)に関連情報を提供する、ことを期待している。

・将来のソルベンシー状況を危険にさらす可能性があると考えられる場合、配当支払に同意しない。

・2016年12月31日から2017年1月1日までの移行措置の1/16削減の会社への影響を理解するためのテストを行った。

・移行措置に依存している会社数とSCRに準拠するために移行措置が必要とされる程度を定期的に市場に明示的に通知している。

・2つのNSAsが、移行措置の適用に関する期待を定める監督声明を伝達した。1つのNSAは、会社は、資本分配とTTPランオフを許可した後、一定の運用条件の下で資本ポジションが持続可能であることを実証できるはずであるという期待を含めた。

NSAsは一般的に、会社がPIPに取り組んでいる手段を実施することを期待し、進捗報告書をレビューして移行期間中の進捗状況を監視すると報告した。NSAsは、PIP又は進捗報告書が不十分であり、この不十分さが修正計画によって修正されない場合、移行措置の取消が考慮されると報告した。
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中村 亮一

研究・専門分野

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