2018年01月29日

EUソルベンシーIIにおけるLTG措置等の適用状況とその影響(3)-EIOPAの2017報告書の概要報告-

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1―はじめに

前回のレポートでは、EIOPA(欧州保険年金監督局)が2017年12月21日に公表した「長期保証措置と株式リスク措置に関する報告書2017(Report on long-term guarantees measures and measures on equity risk 2017)」1に基づいて、EU(欧州連合)のソルベンシーIIにおける長期保証(Long-Term Guarantees:LTG)措置及び株式リスク措置のうち、UFR(Ultimate Forward Rate:終局フォワードレート)の使用、MA(マッチング調整)及びVA(ボラティリティ調整)の適用状況について、その国別の適用会社数やSCR(Solvency Capital Requirement:ソルベンシー資本要件)比率への影響等について報告した。

今回のレポートは、EIOPAの報告書の第3のセクションから、TTP(技術的準備金に関する移行措置)とTRFR(リスクフリー金利に関する移行措置)という移行措置及びDBER(デュレーションベースの株式リスクサブモジュール)、ED(株式リスクチャージの対称調整メカニズム)の株式リスク措置及びERP(ソルベンシー資本要件に準拠しない場合の回復期間の延長)の適用状況について、その国別の適用会社数やSCR比率への影響等を報告する23
 
 
1 News  https://eiopa.europa.eu/Pages/News/EIOPA-publishes-its-annual-analysis-on-the-use-of-long-term-guarantees-measures-and-measures-on-equity-risk-20-12-2017.aspx 
報告書 https://eiopa.europa.eu/Publications/Reports/2017-12-20%20LTG%20Report%202017.pdf
2 前回のレポートで述べたように、以下の図表及び図表の数値は、特に断りが無い限り、EIOPAの「長期保証措置と株式リスクに対する措置に関する報告書2017」からの抜粋によるものであり、必要に応じて、筆者による分析数値を加えたり、表の項目の順番を変更する等の修正を行っている。
3 LTG措置や株式リスク措置の具体的説明については、「EUソルベンシーIIにおけるLTG措置等の適用状況とその影響(1)-EIOPAの報告書2017の概要報告-」を参照していただきたい。
 

2―措置毎の国別の適用状況(適用会社及びSCR比率への影響等)

2―措置毎の国別の適用状況(適用会社及びSCR比率への影響等)-その2(TTP、TRFR)-

この章では、TTP(技術的準備金に関する移行措置)とTRFR(リスクフリー金利に関する移行措置)という移行措置の適用状況について、その国別の適用会社数やSCR 比率への影響等を報告する。

1|TTP(技術的準備金に関する移行措置)
(1)適用会社
TTPは11カ国からの163社が適用している。なお、前回の2016年の報告書では今回の11カ国に加えて、ブルガリアからの1社を含む12カ国からの154社が適用していた。前回の報告書と比べて、ドイツとフランスで6社増加し、ポルトガルでは3社減少した。

国別では、ドイツが63社で最も多く、次が英国の29社、スペインの22社となっている。

なお、2016年1月1日以降に、25社からのTTPの適用申請がなされている(スペイン10社、ドイツ7社、フランス6社、オーストリアと英国1社ずつ)。
TTPの国別適用状況(会社数)
EEA全体では、技術的準備金の24.9%に対して、TTPが適用されているが、国別では英国が13.7%、ドイツが5.3%を占めている。
図表 TTPを使用している会社の技術的準備金のEEA市場シェア
ノルウェーでは88.9%の技術的準備金に対してTTPが適用されており、英国、フィンランド、ポルトガルでは50%以上の技術的準備金に対してTTPが適用されている。

TTPとMAやVAとの併用会社の状況については、それぞれ前回のレポートのMA、VAの項目で述べたとおりである。

また、TTPを使用しているグループの構成会社は112社で、その技術的準備金のEEAにおけるシェアは20.8%で、TTPを使用している会社の技術的準備金の83.5%をカバーしている。
(2)SCR比率への影響
TTPを適用しなかった場合のSCR比率については、以下の図表の通りである。

TTPを適用しているEEAの会社全体では212%から124%に88%ポイント低下する。

国別では、ドイツでは369%から136%に233%ポイント低下し、フランスでは292%から153%に139%ポイント低下し、ベルギーでは294%から159%に135%ポイント低下しており、これらの国々における影響の大きさが明らかになっている。
図表 TTP適用によるSCR比率への影響
なお、SCR比率の分母と分子に当たるSCRと適格自己資本へのTTPの非適用による影響は逆方向となっており、TTPの非適用により、EEA全体では、SCRは7.3%増加し、適格自己資本は37.4%減少する。

国別では、ドイツにおいて、SCRが17.7%増加し、適格自己資本が56.6%減少し、加盟国間でともに最大の影響度となっている。

次ページの図表が、TTPを使用している会社の適用前後の状況を示している。

TTPを使用している会社の70%の絶対的な影響は0%から200%ポイントの範囲内となっている。また、会社数の26%に相当する43社(技術的準備金の市場シェアは8%)がTTPを適用しない場合、SCR比率が100%未満となる。さらに、4社(技術的準備金の市場シェアは0.05%)が、TTPを適用しない場合、適格自己資本がマイナスになる。

なお、生命保険会社と損害保険会社の間で、影響度に明確な差異は見られない。
生命保険会社と損害保険会社の影響度の差
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中村 亮一

研究・専門分野

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