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- 注目される移民政策の行方-DACAの期限が迫る中、「国境の壁」建設とのせめぎ合いで移民政策議論が本格化
2018年01月19日
3.移民対策強化の経済への影響
(高度人材の不足)就業ビザ発給審査厳格化の影響が顕在化
トランプ大統領が17年4月に署名した「米国製品購入および米国民雇用」に関する大統領令6では、米国内の労働者に高い賃金の職を創出するために、就労ビザの一種であるH-1Bビザ審査の厳格化が指示された。H-1Bビザは、専門知識もしくは特殊技能を有する大卒以上の学位取得者を対象とした短期就労ビザの一種である。現在、新規に発行されるビザは年間6.5万人で、これとは別に修士号取得者に対して2万人の上限がある。
トランプ大統領が17年4月に署名した「米国製品購入および米国民雇用」に関する大統領令6では、米国内の労働者に高い賃金の職を創出するために、就労ビザの一種であるH-1Bビザ審査の厳格化が指示された。H-1Bビザは、専門知識もしくは特殊技能を有する大卒以上の学位取得者を対象とした短期就労ビザの一種である。現在、新規に発行されるビザは年間6.5万人で、これとは別に修士号取得者に対して2万人の上限がある。
H-1Bビザの継続申請を含んだ申請件数、許可件数の推移をみると、10年度(10年10月1日~11年9月30日)の24.8万件から16年度には39.9万件に増加する一方、許可件数は19.2万件から34.8万件に増加している(図表8)。
この結果、申請件数に対する許可件数の割合は、10年度の77.4%から16年度の87.2%まで概ね上昇基調となっていた。
しかしながら、大統領令が出された後の17年度は、申請件数が33.6万件に減少した一方、許可件数は19.7万件に大幅な減少となったことから、許可率は58.7%と大幅に低下しており、大統領令の影響が顕著にでていることが分かる。
一方、このようなH-1Bビザ許可件数減少の影響を一番受けるのは米国のIT関連企業と考えられる。実際、同ビザ申請件数に占めるコンピュータ関連のシェアは、16年度から2年連続で7割程度と非常に高くなっている。このため、ビザ審査基準の厳格化によるIT関連企業の影響が最も大きいだろう。
6 “Presidential Executive Order on Buy American and Hire American” (17年4月18日) https://www.whitehouse.gov/presidential-actions/presidential-executive-order-buy-american-hire-american/
この結果、申請件数に対する許可件数の割合は、10年度の77.4%から16年度の87.2%まで概ね上昇基調となっていた。
しかしながら、大統領令が出された後の17年度は、申請件数が33.6万件に減少した一方、許可件数は19.7万件に大幅な減少となったことから、許可率は58.7%と大幅に低下しており、大統領令の影響が顕著にでていることが分かる。
一方、このようなH-1Bビザ許可件数減少の影響を一番受けるのは米国のIT関連企業と考えられる。実際、同ビザ申請件数に占めるコンピュータ関連のシェアは、16年度から2年連続で7割程度と非常に高くなっている。このため、ビザ審査基準の厳格化によるIT関連企業の影響が最も大きいだろう。
6 “Presidential Executive Order on Buy American and Hire American” (17年4月18日) https://www.whitehouse.gov/presidential-actions/presidential-executive-order-buy-american-hire-american/
(労働力への影響)移民なしでは35年にかけて労働力人口は減少
次に、全般的な労働力人口に対する影響について確認する。トランプ大統領は不法移民の強制送還の徹底や、移民資格審査の厳格化などによって移民人口の減少を目指している。これまでみたように、移民は労働力人口の2割弱のシェアを占めており、政策変更に伴う影響が大きいほか、不法移民の強制送還が強化される場合には、農林水産業や建設業で人材不足が深刻化するとみられる。
次に、全般的な労働力人口に対する影響について確認する。トランプ大統領は不法移民の強制送還の徹底や、移民資格審査の厳格化などによって移民人口の減少を目指している。これまでみたように、移民は労働力人口の2割弱のシェアを占めており、政策変更に伴う影響が大きいほか、不法移民の強制送還が強化される場合には、農林水産業や建設業で人材不足が深刻化するとみられる。
さらに、将来の労働力人口低下への影響が懸念される。米国ではベビー・ブーマーが大量に引退する時期を迎えるため、米国生まれの労働力人口は減少することが見込まれている。ピューリサーチセンターの試算7によれば、両親も含めて米国生まれの25-64歳人口は、05年~15年の+4.8百万人増から、15-25年に▲4.3百万人、25-35年にも▲3.8百万人の減少に転じることが示されている(図表9)。
一方、足元の移民増加ペースや、年齢構成が今後も維持される場合には、移民の両親から米国で出生する人口の増加や、海外からの移民によって、増加ペースは鈍化するものの、35年まで25-64歳人口は増加基調を持続することが可能になることが示されている。
このため、高齢化に伴い労働力人口の減少が見込まれる米国では、寧ろ海外からの積極的な移民の流入が労働力の確保という点では重要だろう。
7 ”Immigration projected to drive growth in the U.S. working-age population through at least 2035” (17年3月8日)http://www.pewresearch.org/fact-tank/2017/03/08/immigration-projected-to-drive-growth-in-u-s-working-age-population-through-at-least-2035/
一方、足元の移民増加ペースや、年齢構成が今後も維持される場合には、移民の両親から米国で出生する人口の増加や、海外からの移民によって、増加ペースは鈍化するものの、35年まで25-64歳人口は増加基調を持続することが可能になることが示されている。
このため、高齢化に伴い労働力人口の減少が見込まれる米国では、寧ろ海外からの積極的な移民の流入が労働力の確保という点では重要だろう。
7 ”Immigration projected to drive growth in the U.S. working-age population through at least 2035” (17年3月8日)http://www.pewresearch.org/fact-tank/2017/03/08/immigration-projected-to-drive-growth-in-u-s-working-age-population-through-at-least-2035/
(DACA廃止の影響)今後10年間で2,830億ドルの損失
最後に、18年3月にDACAが廃止された場合の経済への影響について確認したい。保守系のシンクタンクであるケイトー研究所は、DACAプログラムの対象者75万人が強制送還された場合に、今後10年間でGDPを2,150億ドル減少させるほか、税収減により政府の歳入を600億ドル減少させると試算している。
さらに、強制帰国させるコストは1人平均1万ドルを超えるため、75万人を帰国させるコスト(75億ドル)を加味すると、今後10年間でDACA廃止に伴う損失が2,830億ドルに上ると試算8している。同研究所以外にも複数のシンクタンクが試算しているが、概ね経済損失になるとの結論では一致しているようだ。
8 “The Economic and Fiscal Impact of Repealing DACA”(17年1月18日)https://www.cato.org/blog/economic-fiscal-impact-repealing-daca
最後に、18年3月にDACAが廃止された場合の経済への影響について確認したい。保守系のシンクタンクであるケイトー研究所は、DACAプログラムの対象者75万人が強制送還された場合に、今後10年間でGDPを2,150億ドル減少させるほか、税収減により政府の歳入を600億ドル減少させると試算している。
さらに、強制帰国させるコストは1人平均1万ドルを超えるため、75万人を帰国させるコスト(75億ドル)を加味すると、今後10年間でDACA廃止に伴う損失が2,830億ドルに上ると試算8している。同研究所以外にも複数のシンクタンクが試算しているが、概ね経済損失になるとの結論では一致しているようだ。
8 “The Economic and Fiscal Impact of Repealing DACA”(17年1月18日)https://www.cato.org/blog/economic-fiscal-impact-repealing-daca
4.今後の見通し・注目点
DACAに対する世論調査(18年1月)では、トランプ氏の積極的支持者を除いてDACA支持が半数を超えており、全体では7割が支持するなど国民的な支持が強い(図表10)。また、与党共和党幹部やトランプ大統領もDACA廃止を望んでいないため、「国境の壁」建設費用の確保と併せて維持される可能性が高いとみられる。
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経歴
- 【職歴】
1991年 日本生命保険相互会社入社
1999年 NLI International Inc.(米国)
2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
2014年10月より現職
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会 検定会員
(2018年01月19日「Weekly エコノミスト・レター」)
公式SNSアカウント
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