2018年01月11日

2017~2019年度経済見通し

基礎研REPORT(冊子版)1月号

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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1―景気回復期間は戦後2番目の長さに

日本経済は着実な回復を続けており、実質GDPは2016年1-3月期から7四半期連続のプラス成長となった。2012年12月に始まった今回の景気回復は、2017年9月で58ヵ月となり、「いざなぎ景気」の57ヵ月を上回り、戦後2番目の長さになったとみられる。

今回の景気回復期の特徴としては、2014年4月に消費税率の引き上げが実施され、景気が足踏み状態となっていた期間が長かったため、過去の大型景気と比べて経済成長率が低いことが挙げられる。回復局面における成長率(年平均)は、いざなぎ景気の11.5%、バブル期の5.4%、戦後最長景気の1.6%に対して、今回は1.5%にとどまっている。

経済活動を企業部門と家計部門に分けてみると、企業部門は堅調だ。特に、企業収益(法人企業統計の経常利益)は今回の景気回復局面で65%増えており、いざなぎ景気には及ばないものの、バブル景気、戦後最長景気に匹敵する高い伸びとなっている[図表1]。
図表1:過去の大型景気との比較
こうした中、設備投資も底堅く推移している。企業収益の好調さを考えれば物足りないが、設備投資の伸びは年平均で3.6%と実質GDP成長率を大きく上回っている。

一方、家計部門は個人消費を中心に低調な推移が続いている。GDP統計の民間消費の伸びは年平均で0.5%、実質GDP成長率に対する相対的な伸びも約3分の1にすぎず、過去の景気回復局面の中で最も低い[図表2]。
図表2:アベノミクス景気は消費の弱さが目立つ
GDP統計の雇用者報酬は比較的順調に伸びているが、個人消費に直結する家計の可処分所得の伸びは、超低金利の長期化に伴う利子所得の低迷、マクロ経済スライドや特例水準の解消による年金給付額の抑制、年金保険料率の段階的引き上げによる社会負担の増加などから、雇用者報酬の伸びを大きく下回っている。アベノミクス開始からの5年弱で、実質雇用者報酬は5.4%増えているが、実質可処分所得はこの間に0.2%しか増えていない[図表3]。可処分所得の伸び悩みが消費低迷の主因と考えられる。
図表3:実質雇用者報酬と実質可処分所得の推移

2―企業の設備投資意欲は高まらず

設備投資は企業収益の改善を背景に底堅く推移している。日銀短観の2017年度設備投資計画は2016年度を上回る伸びとなっており、GDP統計の設備投資も2017年度に入ってから伸びを高めている。

ただし、足もとの設備投資の回復は、あくまでも企業収益の大幅な増加に伴う潤沢なキャッシュフローを主因としたもので、企業の設備投資スタンスが必ずしも積極化している訳ではない。企業の設備投資意欲を反映する「設備投資/キャッシュフロー比率」は低水準の推移が続いているが、企業収益が大幅に増加する中で設備投資の伸びが限定的にとどまっていることから、ここにきてさらに水準を切り下げている。

設備投資は先行きも堅調に推移するが、期待成長率の上昇によって企業の投資意欲が高まるまでには時間を要するだろう。また、好調が続く企業収益だが、2018年度には人件費上昇に伴うコスト増などから増益率が鈍化することが見込まれる。これに伴い2018年度入り後には設備投資の伸びも頭打ちとなる可能性が高い。

3―個人消費の回復は緩やかにとどまる

消費動向を左右する雇用所得環境の先行きを展望すると、雇用者数の大幅増加を主因として2017年度の名目雇用者報酬は前年比2.0%となるが、物価が上昇していることから、実質雇用者報酬は2016年度の前年比2.7%から同1.5%へと伸びが大きく低下することが見込まれる。

2018年度は企業業績の改善、物価上昇を受けて春闘賃上げ率が3年ぶりに前年を上回ることが予想される。今回の予測では、2018年の春闘賃上げ率は2017年の2.11%から2.35%まで高まることを想定している。この結果、2018年度の名目雇用者報酬は前年比2.4%と伸びが高まるが、円安、原油高の影響などから、消費者物価上昇率(生鮮食品を除く総合)が2017年度の前年比0.7%から同1.1%へと高まるため、実質雇用者報酬は前年比1.5%と2017年度と同じ伸びにとどまり、消費税率引き上げによって物価上昇率がさらに高まる2019年度には同1.1%へと伸びが低下するだろう[図表4]。

また、個人消費の動向を左右する家計の可処分所得の伸びが雇用者報酬の伸びを下回る状況は今後も継続する。2005年度に開始された年金保険料率の段階的な引き上げは2017年度で打ち止めとなるが、マクロ経済スライドによる年金給付額の抑制は引き続き実施されるためである。民間消費は2017年度には消費性向の上昇によって前年比1.3%と可処分所得の伸びを上回るが、2018年度は同0.9%、2019年度が同0.7%と可処分所得と同程度の伸びとなるだろう。
図表4:実質雇用者報酬の予測

4―実質成長率は2017年度1.9%、2018年度1.2%、2019年度1.0%を予想

日本経済は、円安基調や海外経済の回復に伴う輸出の増加、高水準の企業収益を背景とした設備投資の回復が続くことが見込まれる一方、実質所得の低迷が続く家計部門は消費、住宅投資ともに低調に推移する公算が大きい。当面は企業部門(輸出+設備投資)主導の成長が続くことが予想される。

2018年度は企業部門の改善が家計部門に一定程度波及し、名目賃金の伸びは2017年度よりも高まるだろう。ただし、物価上昇率が高まることから実質所得の伸びは限定的なものにとどまり、消費が景気の牽引役となることは引き続き期待できない。また、企業の投資スタンスが慎重な中では企業収益の減速に伴い設備投資の伸びが頭打ちとなることは避けられないだろう。この結果、2018年度の成長率は2017年度よりも明確に低下する可能性が高い。ただし、景気の回復基調は維持され、2018年度末頃には景気回復期間が戦後最長景気(2002年2月~2008年2月)を上回り、過去最長を更新する公算が大きい。

2019年度は2019年10月に予定されている消費税率引き上げ(8%→10%)が経済、物価に影響を及ぼす。ただし、前回よりも税率の引き上げ幅が小さく、飲食料品(酒類と外食を除く)及び新聞への軽減税率の適用によって、1%引き上げによる消費者物価への影響は従来の約4分の3にとどまる。また、税率引き上げは2019年度下期からとなるため、2019年度への影響は1%分(軽減税率導入を考慮すると0.75%分)となる。さらに、年度途中からの引き上げとなるため、駆け込み需要とその反動減は2019年度内でほぼ相殺されることが想定される。

2014年度の実質GDPは消費税率引き上げによる悪影響を主因として▲0.3%のマイナス成長となった。次回の消費税率引き上げは前回に比べて経済に対するマイナスの影響が小さくなることに加え、2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催に伴う押し上げ効果も期待されることから、2019年度の経済成長率が大きく落ち込むことは避けられるだろう。

実質GDP成長率は2017年度が1.9%、2018年度が1.2%、2019年度が1.0%と予想する[図表5]。
図表5:実質GDP成長率の推移
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斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

(2018年01月11日「基礎研マンスリー」)

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