2017年12月01日

法人企業統計17年7-9月期-増益率鈍化は特殊要因の剥落が主因、企業収益は絶好調を維持

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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1.増益率大幅鈍化も、実態は二桁増益が継続

経常利益の推移 財務省が12月1日に公表した法人企業統計によると、17年7-9月期の全産業(金融業、保険業を除く、以下同じ)の経常利益は前年比5.5%と5四半期連続の増加となったが、17年4-6月期の前年比22.6%からは伸びが大きく鈍化した。製造業は前年比44.4%(4-6月期:同46.4%)と4四半期連続の二桁増益となったが、非製造業が前年比▲9.5%(4-6月期:前年比12.0%)と5四半期ぶりの減益となった。
経常利益の伸びは大きく鈍化したが、これは16年7-9月期の経常利益が純粋持株会社の子会社からの受取配当の急増という特殊要因で大きく押し上げられていた裏が出た面が大きい。純粋持株会社を除いた経常利益は前年比23.2%(4-6月期:同28.7%)と4四半期連続の二桁増益となる。経常利益は実態としては好調を維持している。
売上高経常利益率の要因分解(製造業)/売上高経常利益率の要因分解(非製造業)
製造業は世界経済の回復や円安基調に伴う輸出の増加などから売上高が前年比3.9%(4-6月期:同4.8%)と3四半期連続で増加したことに加え、売上高経常利益率が16年7-9月期の5.0%から7.0%へと大きく改善したことが大幅増益につながった。売上高経常利益率を要因分解すると、人件費要因、変動費要因、人件費要因、金融費用要因のいずれも利益率の押し上げに寄与した。人件費は前年比1.9%の増加となったが、売上高の伸びを大きく下回っているため、売上高人件費率が低下し利益率改善の一因となった。

一方、非製造業は個人消費を中心とした国内需要がやや低調だったため、売上高が前年比5.2%(4-6月期:7.4%)と前期から伸びが鈍化し、売上高経常利益率が16年7-9月期の5.3%から4.6%へと悪化した。ただし、利益率の悪化は金融費用の特殊要因の剥落によって利益率が前年差▲1.0ポイント押し下げられたことによるもので、金融費用要因を除いた利益率は改善を続けている。

2.製造業の経常利益(季節調整値)は過去最高を更新

経常利益の内訳を業種別に見ると、製造業は、鉄鋼(前年比135.5%)、生産用機械(同141.1%)が前年同期から倍増するなど、ほとんどの業種が前年比二桁以上の大幅増益となった。一方、非製造業は、卸売・小売業は前年比36.8%と4四半期連続の二桁増益となったが、サービス業が前年比▲51.2%の大幅減益となったことが非製造業の経常利益を大きく押し下げた。

ただし、サービス業の大幅減益は前述したとおり、純粋持株会社の経常利益が特殊要因により16年7-9月期に前年比109.9%の急増となった裏が出たもので、実態として収益が大きく悪化しているわけではない。サービス業の本業の利益を表す営業利益は前年比10.4%(4-6月期:同0.5%)と前期から伸びを大きく高めている。

なお、サービス業のうち純粋持株会社の経常利益は子会社からの受取配当の急増を主因として16年7-9月期に前年比858.9%となったが、17年7-9月期はその反動により同▲83.1%となった。
経常利益(季節調整値)の推移 季節調整済の経常利益は前期比▲1.5%(4-6月期:同2.2%)と6四半期ぶりに減少した。製造業は前期比1.2%(4-6月期:同0.8%)と6四半期連続で増加したが、非製造業が前期比▲3.1%(4-6月期:同3.1%)と2四半期ぶりに減少した。

17年7-9月期の経常利益(季節調整値)は20.4兆円となり、過去最高益となった4-6月期の20.7兆円から水準がやや低下したものの、過去2番目の高水準にある。

特に、円安、海外経済の回復を背景に輸出の増加が続く製造業は3四半期連続で過去最高益を更新した。

3.設備投資は伸びを高めるが、投資スタンスは依然慎重

設備投資(ソフトウェアを含む)は前年比4.2%と4四半期連続で増加し、4-6月期の同1.5%から伸びを高めた。非製造業は前年比5.9%(4-6月期:同6.9%)と伸びが鈍化したが、製造業が前年比1.4%(4-6月期:同▲7.6%)と2四半期ぶりの増加となった。

季節調整済の設備投資(ソフトウェアを除く)は前期比1.0%(4-6月期:同▲2.0%)と2四半期ぶりに増加した。製造業(4-6月期:前期比▲3.7%→7-9月期:同0.5%)、非製造業(4-6月期:前期比▲1.2%→7-9月期:同1.3%)ともに増加に転じた。

設備投資は前期から伸びを高めたが、企業収益の好調さに比べれば低調で、企業の投資スタンスは慎重なままだ。企業の設備投資意欲を反映する「設備投資/キャッシュフロー比率」は低水準の推移が続いているが、企業収益が大幅に増加する中で設備投資の伸びが限定的にとどまっていることから、16年度入り後はさらに水準を切り下げている。

企業の期待成長率が低水準にとどまる中では、企業の設備投資意欲が大きく高まり、キャッシュフローに対する設備投資の水準を大きく引き上げることは考えにくい。先行きについても、企業収益に比べ設備投資の回復ペースは緩やかにとどまる可能性が高いだろう。
設備投資(ソフトウェアを含む)の推移

4.7-9月期・GDP2次速報は小幅上方修正を予想

本日の法人企業統計の結果等を受けて、12/8公表予定の17年7-9月期GDP2次速報では、実質GDPが前期比0.4%(前期比年率1.5%)となり、1次速報の前期比0.3%(前期比年率1.4%)から若干上方修正されると予測する。
2017年7-9月期GDP2次速報の予測 設備投資は前期比0.2%から同0.4%へと上方修正されるだろう。設備投資の需要側推計に用いられる法人企業統計の設備投資(ソフトウェアを除く)は前年比4.3%となり、4-6月期の同0.6%から伸びが高まった。また、金融保険業の設備投資は4-6月期の前年比19.3%(4-6月期:同▲5.9%)の大幅増加となった。法人企業統計ではサンプル替えに伴う断層が生じるため、当研究所でこの影響を調整したところ、設備投資は前年比で3%程度の伸びとなり、公表値の伸びは若干下回った。設備投資は上方修正を予想しているが、修正幅は小幅にとどまる可能性が高い。

また、民間在庫変動は1次速報で仮置きとなっていた原材料在庫、仕掛品在庫に法人企業統計の結果が反映され、1次速報の前期比・寄与度0.2%から同0.3%へと若干上方修正されると予想する。その他の需要項目では、公的固定資本形成は9月の建設総合統計の結果が反映され、1次速報の前期比▲2.5%から同▲2.9%へと下方修正されるだろう。
 
なお、12/8の17年7-9月期GDP2次速報では、16年度の年次推計値が合わせて公表され、四半期の計数は17年1-3月期までが速報値から年次推計値に改定される。また、民間消費、設備投資については、速報推計における需要側推計値と供給側推計値の加重平均のウェイトの見直しが行われる。17年7-9月期の成長率は、法人企業統計を中心とした基礎統計の追加に加え、16年度の年次推計に伴う遡及改定、推計方法変更の影響を受けるため、不確定要素が多いことを念頭に置いておく必要がある。
 
 

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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

(2017年12月01日「経済・金融フラッシュ」)

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