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- 欧州経済見通し-拡大続くユーロ圏/低成長、高インフレの英国-
2017年12月11日
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1.景気拡大続くユーロ圏
( 17年のユーロ圏実質GDPは2.3%。年初の予想を大きく上回るペースで拡大 )
2017年のユーロ圏は、政治的な不確実性への懸念が重石となった年初の予想を大きく上回るペースで拡大した。欧州中央銀行(ECB)の金融緩和が下支えとなり、世界経済の好転が追い風となった。
今月7日公表の7~9月期の実質GDPは前期比0.6%、前期比年率2.4%で、4四半期連続で年率2%のラインを超えた。実質GDPと連動性が高い総合PMIは、10月56.0、11月57.5と生産の拡大と縮小の分かれ目となる50を超える水準で改善するなど10~12月期も景気回復の勢いは衰えていない。
年間の実質GDP成長率は前年比2.3%と世界金融危機以降で最も高い成長となる見通しだ。すべてのユーロ導入国でプラス成長が見込まれるのも世界金融危機後で初めてだ。
個人消費は、7~9月期は前期比0.3%で4~6月期までの同0.5%からやや鈍化したが、雇用・所得環境と消費者マインドの改善は続いており、基調は強い。2017年初の時点では、原油要因でインフレ率が上振れ、実質所得の伸びが鈍化する影響が懸念された(図表2)。しかし、雇用回復ピッチの加速、家計の経済・雇用の先行きに対する見方の改善と購買意欲の高まりで、消費拡大の基調は途切れなかった。
2017年のユーロ圏は、政治的な不確実性への懸念が重石となった年初の予想を大きく上回るペースで拡大した。欧州中央銀行(ECB)の金融緩和が下支えとなり、世界経済の好転が追い風となった。
今月7日公表の7~9月期の実質GDPは前期比0.6%、前期比年率2.4%で、4四半期連続で年率2%のラインを超えた。実質GDPと連動性が高い総合PMIは、10月56.0、11月57.5と生産の拡大と縮小の分かれ目となる50を超える水準で改善するなど10~12月期も景気回復の勢いは衰えていない。
年間の実質GDP成長率は前年比2.3%と世界金融危機以降で最も高い成長となる見通しだ。すべてのユーロ導入国でプラス成長が見込まれるのも世界金融危機後で初めてだ。
個人消費は、7~9月期は前期比0.3%で4~6月期までの同0.5%からやや鈍化したが、雇用・所得環境と消費者マインドの改善は続いており、基調は強い。2017年初の時点では、原油要因でインフレ率が上振れ、実質所得の伸びが鈍化する影響が懸念された(図表2)。しかし、雇用回復ピッチの加速、家計の経済・雇用の先行きに対する見方の改善と購買意欲の高まりで、消費拡大の基調は途切れなかった。
固定資本形成は直近2四半期の成長への寄与度では個人消費を上回るようになっている(図表1)。7~9月期は前期比1.1%増で、知的財産生産物(研究開発投資)が押し上げた4~6月期に比べて鈍化したが、13年1~3月期を谷とする現在の景気拡大局面(注1)の平均(前期比0.7%)を上回るペースを維持した。固定資本形成は、世界金融危機と債務危機による二段階の打撃で大きく落ち込んだ後も停滞気味だったが、足もと回復のピッチが加速している。特に、機械設備投資が勢いを増しており、7~9月期には世界金融危機前の08年1~3月期の水準を回復した(図表5)。住宅投資も、スペインなどの住宅バブル崩壊の影響で底這いが続いたが、15年半ばを境に回復軌道に乗った。他方、住宅以外のその他建設投資の回復は引き続き鈍い。南欧など債務危機に見舞われた国を中心に財政健全化のために公共投資を削減した影響が残っている。財政の健全化の進展、さらにECBの金融緩和によって資金調達環境は広く安定しているが、回復力は鈍く、残された課題となっている。
外部環境の改善で輸出の伸びも加速した。7~9月期は前期比1.2%で、4~6月期の同1%を上回った。内需の堅調もあり輸入の伸びも加速したが、7~9月期は輸出の伸びが輸入を上回り、成長への寄与は僅かながらプラスに転じた。
(注1)CEPR(Center for Economic and Policy Research)のユーロ圏景気循環日付による。
外部環境の改善で輸出の伸びも加速した。7~9月期は前期比1.2%で、4~6月期の同1%を上回った。内需の堅調もあり輸入の伸びも加速したが、7~9月期は輸出の伸びが輸入を上回り、成長への寄与は僅かながらプラスに転じた。
(注1)CEPR(Center for Economic and Policy Research)のユーロ圏景気循環日付による。
( 18年も消費と投資を両輪に2.1%成長。インフレ率はECBの目標圏に届かず )
18年も引き続き個人消費と投資が両輪となり、実質GDPは前年比2.1%と2%超のペースのを維持する見通しだ。企業は、好業績を背景に、製造業、サービス業ともに雇用意欲を高めている。欧州委員会の10~11月の「設備投資計画」調査でも18年の投資計画は、今年を上回る見通しだ。
世界金融危機の後、開いた状態が続いたGDPギャップは18年にはいよいよ解消する見通しだ。
失業の解消もさらに進むが、賃金の伸びに加速の兆候はなく、穏やかな伸びに留まる見通しだ。エネルギー・食品を除くコア・インフレ率は11月も前年同月比0.9%、賃金を反映するサービス価格は1.2%と共に2%目標の達成に必要な水準(1.5%程度)を下回っている。一層の雇用改善とともに、上向くと見込まれるが、そのテンポは緩やかだろう。財・サービス市場におけるデジタル化の進展や、グローバルな競争圧力、さらに圏内での労働市場改革の進展などが、インフレ圧力を抑制する要因として働くからだ。
総合インフレ率は、18年年間も1.5%とECBの目標圏内に届かないままだろう。
18年も引き続き個人消費と投資が両輪となり、実質GDPは前年比2.1%と2%超のペースのを維持する見通しだ。企業は、好業績を背景に、製造業、サービス業ともに雇用意欲を高めている。欧州委員会の10~11月の「設備投資計画」調査でも18年の投資計画は、今年を上回る見通しだ。
世界金融危機の後、開いた状態が続いたGDPギャップは18年にはいよいよ解消する見通しだ。
失業の解消もさらに進むが、賃金の伸びに加速の兆候はなく、穏やかな伸びに留まる見通しだ。エネルギー・食品を除くコア・インフレ率は11月も前年同月比0.9%、賃金を反映するサービス価格は1.2%と共に2%目標の達成に必要な水準(1.5%程度)を下回っている。一層の雇用改善とともに、上向くと見込まれるが、そのテンポは緩やかだろう。財・サービス市場におけるデジタル化の進展や、グローバルな競争圧力、さらに圏内での労働市場改革の進展などが、インフレ圧力を抑制する要因として働くからだ。
総合インフレ率は、18年年間も1.5%とECBの目標圏内に届かないままだろう。
( ECBは緩和縮小を探る。18年も基本は著しく緩和的な金融環境を維持 )
ECBは、10月の政策理事会で、18年初から国債等の資産買い入れを現在の月600億ユーロから月300億ユーロに削減し、9月まで継続することなどを決めている(注1)。ECBは、景気拡大の定着とともに緩和縮小を探り始めているが、「フォワード・ガイダンス」で、資産買い入れはオープン・エンド(無期限)、資産買い入れ終了までは政策金利を維持する約束しており、18年も基本的に著しく緩和的な金融環境が維持される(図表10)。
ECBは、純資産買入れ停止の条件である「物価目標(2%以下でその近辺)に整合的な軌道への調整の進展」を、総合インフレ率だけでなく、賃金指標やコア・インフレ、サービス価格などから総合的に判断するだろう。資産買入れは、9月末以降、18年末までさらに減額して継続し、終了すると思われる。
ECBは、先行きについて、「フォワード・ガイダンス」で、FRBの手順と同じく資産買い入れ停止が先、利上げ開始が後を約束していることから、利上げ開始は19年入り後、現在0.4%の中銀預金金利のマイナス幅の縮小から着手するだろう。FRBが17年10月に開始した償還した国債の再投資停止によるバランス・シート縮小は、20年以降となるだろう。
ECBの緩和縮小への慎重姿勢は、2%以下でその近辺のインフレ目標の達成への軌道に乗っていないことが最大の理由だ。同時に、過剰債務と銀行の不良債権問題の解消が十分に進展していないことも背景にある。18年は過剰債務と銀行の不良債権問題の解決の正念場の年と位置づけられよう。
(注1)ECBのフォワード・ガイダンスの詳細については Weeklyエコノミスト・レター2017-11-17「ECBの緩和縮小-景気拡大でも慎重姿勢の3つの理由」をご参照下さい。 ECBのフォワード・ガイダンスの詳細については Weeklyエコノミスト・レター2017-11-17「ECBの緩和縮小-景気拡大でも慎重姿勢の3つの理由」をご参照下さい。
ECBは、10月の政策理事会で、18年初から国債等の資産買い入れを現在の月600億ユーロから月300億ユーロに削減し、9月まで継続することなどを決めている(注1)。ECBは、景気拡大の定着とともに緩和縮小を探り始めているが、「フォワード・ガイダンス」で、資産買い入れはオープン・エンド(無期限)、資産買い入れ終了までは政策金利を維持する約束しており、18年も基本的に著しく緩和的な金融環境が維持される(図表10)。
ECBは、純資産買入れ停止の条件である「物価目標(2%以下でその近辺)に整合的な軌道への調整の進展」を、総合インフレ率だけでなく、賃金指標やコア・インフレ、サービス価格などから総合的に判断するだろう。資産買入れは、9月末以降、18年末までさらに減額して継続し、終了すると思われる。
ECBは、先行きについて、「フォワード・ガイダンス」で、FRBの手順と同じく資産買い入れ停止が先、利上げ開始が後を約束していることから、利上げ開始は19年入り後、現在0.4%の中銀預金金利のマイナス幅の縮小から着手するだろう。FRBが17年10月に開始した償還した国債の再投資停止によるバランス・シート縮小は、20年以降となるだろう。
ECBの緩和縮小への慎重姿勢は、2%以下でその近辺のインフレ目標の達成への軌道に乗っていないことが最大の理由だ。同時に、過剰債務と銀行の不良債権問題の解消が十分に進展していないことも背景にある。18年は過剰債務と銀行の不良債権問題の解決の正念場の年と位置づけられよう。
(注1)ECBのフォワード・ガイダンスの詳細については Weeklyエコノミスト・レター2017-11-17「ECBの緩和縮小-景気拡大でも慎重姿勢の3つの理由」をご参照下さい。 ECBのフォワード・ガイダンスの詳細については Weeklyエコノミスト・レター2017-11-17「ECBの緩和縮小-景気拡大でも慎重姿勢の3つの理由」をご参照下さい。
(2017年12月11日「Weekly エコノミスト・レター」)
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経歴
- ・ 1987年 日本興業銀行入行
・ 2001年 ニッセイ基礎研究所入社
・ 2023年7月から現職
・ 2011~2012年度 二松学舎大学非常勤講師
・ 2011~2013年度 獨協大学非常勤講師
・ 2015年度~ 早稲田大学商学学術院非常勤講師
・ 2017年度~ 日本EU学会理事
・ 2017年度~ 日本経済団体連合会21世紀政策研究所研究委員
・ 2020~2022年度 日本国際フォーラム「米中覇権競争とインド太平洋地経学」、
「欧州政策パネル」メンバー
・ 2022年度~ Discuss Japan編集委員
・ 2023年11月~ ジェトロ情報媒体に対する外部評価委員会委員
・ 2023年11月~ 経済産業省 産業構造審議会 経済産業政策新機軸部会 委員
伊藤 さゆりのレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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2025/04/18 | トランプ関税へのアプローチ-日EUの相違点・共通点 | 伊藤 さゆり | Weekly エコノミスト・レター |
2025/03/28 | トランプ2.0でEUは変わるか? | 伊藤 さゆり | 研究員の眼 |
2025/03/17 | 欧州経済見通し-緩慢な回復、取り巻く不確実性は大きい | 伊藤 さゆり | Weekly エコノミスト・レター |
2025/03/07 | 始動したトランプ2.0とEU-浮き彫りになった価値共同体の亀裂 | 伊藤 さゆり | 基礎研マンスリー |
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