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- ブラジル経済の見通し-2017年は3年ぶりのプラス成長と予想。18年は大統領選挙の行方に注目。
2017年12月04日
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1――経済概況・見通し
(経済概況) 7-9月期の実質GDP成長率は3四半期連続プラス成長
12月1日、ブラジル地理統計院(IBGE)は、2017年7-9月期のGDP統計を公表した。7-9月期の実質GDP成長率は前期比0.1%増(季節調整値)と、前期の同0.7%増からは低下したものの、3四半期連続のプラス成長となった。
12月1日、ブラジル地理統計院(IBGE)は、2017年7-9月期のGDP統計を公表した。7-9月期の実質GDP成長率は前期比0.1%増(季節調整値)と、前期の同0.7%増からは低下したものの、3四半期連続のプラス成長となった。

GDPの約3分の2を占める民間消費は前期比1.2%増と3四半期連続のプラス成長となった。インフレ率の低下と金融緩和によって消費者のセンチメントが改善し、好調を維持している。
政府消費は同0.2%減と前期の同0.1%減からさらに悪化した。過去2年の景気後退による税収不足と16年末に成立した歳出上限法によって政府は歳出の抑制を余儀なくされており、低調が続いている。
総固定資本形成は同1.6%増と前期の同0.0%減から改善し、15四半期ぶりのプラス成長に転じた。公的部門においては政府消費同様、緊縮的な財政政策が足かせになったと見られるが、民間部門では住宅市場の活況が牽引したと推測される。
純輸出は輸出が同4.1%増、輸入が同6.6%増となった結果、成長率寄与度が▲0.3%ポイント(前期:同0.6%ポイント)と大きく悪化した。国内需要の回復が財輸入の増加につながった。
通関ベースで見ると、輸出は、前期に引き続きコモディティ価格の回復と数量ベースの増加による一次産品輸出額の増加が輸出総額を押し上げた。輸入は、内需の回復を背景に、資本財を中心に数量ベースで増加し、輸入総額を押し上げた。結果として、9月までの貿易収支黒字は1989年の統計開始以来最大の水準に達したが、足元では黒字幅は縮小している。

農牧業は前期比3.0%減と前期の同2.3%減からさらに悪化した。米国産穀物の豊作による大豆やとうもろこしの価格低下が影響したと考えられる。
鉱工業は前期比0.8%増と前期の同0.4%減から改善した。鉱業が同0.2%増(前期:同0.2%減)、製造業が同1.4%増(前期:同0.2%増)、電気・ガス・水道が同0.1%増(前期:同2.0%減)、建設業が0.0%増(前期:同1.9%減)と全部門で改善した。
GDPの約6割を占めるサービス業は前期比0.6%増と前期の同0.8%増から悪化したものの、3四半期連続のプラス成長となった。保健衛生・教育が同0.2%増(前期:同0.2%減)、情報通信が同0.1%減(前期:同2.2%減)と改善した以外は、小売が同1.6%増(前期:同2.2%増)、不動産が同0.9%増(前期:同1.3%増)、金融・保険が同0.1%増(前期:同0.3%増)、運輸・倉庫・郵便が同0.0%減(前期:同0.9%増)、その他サービスが同0.2%増(前期:同0.9%増)と悪化した。
(今後のポイント) 18年は成長ペースが加速するも、大統領選挙が今後のブラジルの行方を左右する
ブラジル経済は緩やかに回復しており、2017年は3年ぶりのプラス成長に転じることは確実である。また2018年は民間消費が引き続き堅調に推移するとともに、総固定資本形成の回復によって成長ペースが加速すると予想する(図表3)。しかし、2015年と16年の景気後退による影響で、2018年の実質GDPは2012年の水準にも及ばない見通しである。今後ブラジルが継続的に成長していくには、現在テメル政権が推し進めている構造的課題の解消が重要である。その意味では2018年10月に予定されている大統領選挙がブラジルの今後の行方を左右する大きな鍵となるだろう。
ブラジルは「ブラジルコスト1」に代表される構造的課題を多く抱えており、世界銀行が公表するビジネス活動の容易度ランキングにおいても190ヵ国中123位(2017)2となるなど、経済活動にも悪影響を与えている。
現行のテメル政権以前は2003年から16年にかけて、左派の労働者党(PT)政権が続いた。労働者党政権はポピュリズム的手法によって大衆の支持を確保し、政権を維持したが、その結果財政状況は大きく悪化した。2016年には、ルセフ元大統領が国家会計の不正に関わったとして罷免されると、当時副大統領であったブラジル民主運動党(PMDB,中道)のテメル氏が大統領となった。テメル大統領は緊縮財政と構造改革を掲げ、これまでに歳出上限法の成立と労働法の改正を実現した他、現在コンセッション方式のインフラ投資プログラムや年金制度改革に着手している。これらの痛みを伴う改革によって、テメル政権の支持率は低空飛行が続いているものの、海外投資家は期待を高めており、対内直接投資は堅調に推移している。
しかし、17年5月にテメル大統領の収賄疑惑が浮上して以降、改革は停滞しており、特に財政状況の改善に不可欠な年金制度改革の行方は不透明となっている。現在、テメル大統領の失職の可能性は低下しているものの、2018年10月の大統領選挙には出馬しない意向を表明しており、大統領選挙までに年金改革を実現できるか、また次期大統領が改革志向を引き継ぐか、注目されている3。
ブラジル経済は緩やかに回復しており、2017年は3年ぶりのプラス成長に転じることは確実である。また2018年は民間消費が引き続き堅調に推移するとともに、総固定資本形成の回復によって成長ペースが加速すると予想する(図表3)。しかし、2015年と16年の景気後退による影響で、2018年の実質GDPは2012年の水準にも及ばない見通しである。今後ブラジルが継続的に成長していくには、現在テメル政権が推し進めている構造的課題の解消が重要である。その意味では2018年10月に予定されている大統領選挙がブラジルの今後の行方を左右する大きな鍵となるだろう。
ブラジルは「ブラジルコスト1」に代表される構造的課題を多く抱えており、世界銀行が公表するビジネス活動の容易度ランキングにおいても190ヵ国中123位(2017)2となるなど、経済活動にも悪影響を与えている。
現行のテメル政権以前は2003年から16年にかけて、左派の労働者党(PT)政権が続いた。労働者党政権はポピュリズム的手法によって大衆の支持を確保し、政権を維持したが、その結果財政状況は大きく悪化した。2016年には、ルセフ元大統領が国家会計の不正に関わったとして罷免されると、当時副大統領であったブラジル民主運動党(PMDB,中道)のテメル氏が大統領となった。テメル大統領は緊縮財政と構造改革を掲げ、これまでに歳出上限法の成立と労働法の改正を実現した他、現在コンセッション方式のインフラ投資プログラムや年金制度改革に着手している。これらの痛みを伴う改革によって、テメル政権の支持率は低空飛行が続いているものの、海外投資家は期待を高めており、対内直接投資は堅調に推移している。
しかし、17年5月にテメル大統領の収賄疑惑が浮上して以降、改革は停滞しており、特に財政状況の改善に不可欠な年金制度改革の行方は不透明となっている。現在、テメル大統領の失職の可能性は低下しているものの、2018年10月の大統領選挙には出馬しない意向を表明しており、大統領選挙までに年金改革を実現できるか、また次期大統領が改革志向を引き継ぐか、注目されている3。
1 複雑な税制、労働・雇用面での過剰な保護措置、不十分なインフラ整備などビジネス面での障害となるブラジルの制度や構造の総称。
2 BRICsのその他国のランキング(2017)はロシア(40位)、中国(78位)、インド(130位)となっている。なお、日本は34位。
3 採決の日程が12月5日、6日に決まったものの、採決にまで至るかは不透明となっている。
2――実体経済の動向
(民間消費) 低インフレによって、堅調に推移。今後は改正労働法による労働市場の底上げに期待
7-9月期の民間消費は前期比1.2%増となった。17年3月に引き出しが開始されたFGTS(勤続期間補償基金)4による消費の押し上げ効果は4-6月期から若干剥落したと考えられるが、前期と同水準の前期比プラス成長(前期:同1.2%増)を維持しており、消費の回復は明確となった。その原因はインフレ率の低下に伴う消費マインドの改善である。2016年始から続くインフレ率の低下は2017年も続いており、8月には前年比+2.5%と1999年以来の低水準を記録した。消費者信頼感指数は、政治不安によって一時的に下落したが、足元では上昇傾向が続いている(図表4)。消費者の購買意欲の低下も底を打ち、小売売上高と国内新車販売台数は前年比増へと転じている(図表5)。
今後は、低インフレの継続と労働市場の改善によって民間消費は引き続き堅調に推移するだろう。
7-9月期の民間消費は前期比1.2%増となった。17年3月に引き出しが開始されたFGTS(勤続期間補償基金)4による消費の押し上げ効果は4-6月期から若干剥落したと考えられるが、前期と同水準の前期比プラス成長(前期:同1.2%増)を維持しており、消費の回復は明確となった。その原因はインフレ率の低下に伴う消費マインドの改善である。2016年始から続くインフレ率の低下は2017年も続いており、8月には前年比+2.5%と1999年以来の低水準を記録した。消費者信頼感指数は、政治不安によって一時的に下落したが、足元では上昇傾向が続いている(図表4)。消費者の購買意欲の低下も底を打ち、小売売上高と国内新車販売台数は前年比増へと転じている(図表5)。
今後は、低インフレの継続と労働市場の改善によって民間消費は引き続き堅調に推移するだろう。

今後の注目点は、11月中旬に施行された改正労働法5による影響である。従来の労働法は過度に雇用者に配慮した内容であり、その点では雇用者に有利に作用した側面もある。一方で、その内容から雇用者のモチベーションや生産性の低下を招いていたとの指摘もある。また従来の労働法は「ブラジルコスト」の代表事例として挙げられることも少なくなく、国内外の企業が雇用を躊躇する要因になっていたとも言われている。今回の改正は、雇用者の生産性向上や企業の雇用促進につながると考えられ、労働市場の底上げが期待される。そして、18年平均の失業率は11.5%まで低下すると予想する。
4 FGTSとは、労働者を不当な解雇から保護する制度であり、企業に労働者の前月の賃金の8%を退職手当として積み立てることを義務付け、労働者は正当な理由なく解雇された場合等に引き出しが可能となる。従来、自己都合退職の場合はFGTSを3年間引き出せなかったが、連邦政府は自己都合退職の場合でも3年以内の引き出しを認めるなど要件を一時的に緩和した。
5 勤務時間の上限の拡大や解雇要件の緩和、パートタイムの残業が可能となるなどの改正が行われた。
(2017年12月04日「基礎研レター」)
神戸 雄堂
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