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医療における規模の経済性-患者が増えると平均費用が増す?

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也
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製造業、物品販売業、サービス業を問わず、生産規模が拡大するに連れて、製品・サービス1単位あたりの平均費用が低下していくという、規模の経済性が成り立つとされている。これを医療において、実際のデータから確認しようとすると、妙なことが起こる場合がある。
横軸に患者数、縦軸に病院の平均費用をとり、各医療機関のデータをプロットする。これに近似曲線を描いて、平均費用曲線を推定すると、緩やかな右肩上がりの曲線となった。これは、患者が増えると、平均費用が増加することを示している。医療には、規模の経済性は働かないのだろうか。
一口に医療機関と言っても、病床数が1,000床を超える大病院から、30床前後の小病院、20床未満や、病床を持たない外来専門の診療所まで、様々である。医療の中身も、専門医による特定の医療機器や医薬品を用いた高度医療から、かかりつけ医でのプライマリ・ケアまで、大きな違いがある。
これらの違いを考慮すれば、大病院と、小病院・診療所を同列に論じることには、あまり意味がないとわかってくるだろう。これらを分けて、それぞれのグループについて、近似曲線を描いて、平均費用曲線を推定すると、次のようになる。
医療に限らず、こうした傾向は、一見似ているが、実は異なる製品やサービスを提供する産業で、目にすることがある。例えば、生保会社も損保会社も、保険を取り扱う会社として、同列に論じられる場合がある。しかし、よく見てみれば、生保会社の方が、終身保険や100歳満期定期保険など、取り扱う保険の期間が圧倒的に長い。このため、資産運用の期間は、超長期の生保に対して、比較的短期の損保というように、大きく異なっている。この違いを無視して、各保険会社の資産運用のデータをグラフに示して、分析を進めていくと、ミスリーディングな結果につながりかねない。
データをもとに、何かの傾向を推定する際には、まず、各データの母集団の内容が同質であることを確認する必要があると思われるが、いかがだろうか。
(2017年11月06日「研究員の眼」)

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員
篠原 拓也 (しのはら たくや)
研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務
03-3512-1823
- 【職歴】
1992年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所へ
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
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