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作られた有意性-前提に、手を加えられてはいないか?
                                                保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也
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手順(1) 示したいことと反対のことを、帰無仮説として設定する
手順(2) 帰無仮説を否定する(「棄却する」という) 確率の水準(「有意水準」という)を設定する
手順(3) 臨床試験や健康調査などを行って、データを収集する
手順(4) 帰無仮説を前提とした場合に、収集したデータが得られる確率(「P 値」という)を計算する
手順(5) 計算されたP 値と、有意水準を比較して、帰無仮説を評価する
手順(5)の評価で、P値が有意水準未満の場合、帰無仮説が棄却される。即ち、統計的な論証が得られたことになる。この場合、示したいことが示されたとして、自説を展開することができる。
一方、P値が有意水準以上の場合、帰無仮説は棄却されない。これは、統計学的には、帰無仮説が否定されなかったことを意味する。しかし、かといって、帰無仮説が肯定された訳でもない。つまり、帰無仮説は、否定も肯定もされない、中途半端な状態になったことを意味する。
通常、仮説検定を行う研究者は、自分の論説を展開する上で、ある命題を統計学的に示したいという強い意図を持っている。例えば、研究開発対象の候補薬には効果があるとか、喫煙とがん発症の間には関連性がある、などといったことだ。この状況を誇張して、やや口語的に言えば、研究者は、統計的検定を通じて、帰無仮説を棄却したくて、うずうずしている。検定の結果、もし、帰無仮説が棄却できないとなると、自説が論証できないため、困ってしまうことになるからだ。
帰無仮説が棄却できなかった場合に、そのデータを用いた論証をあきらめられればよいが、これはそう簡単な話ではない。通常、臨床試験の実施には、多額のコストや、多くの時間が費やされている。「臨床試験で、有意義な結果は得られませんでした」では、済まされないかもしれない。
そこで、何とかならないかと、研究者は考えてしまいがちだ。まず、すぐに思いつくのが、手順(2)で、有意水準を高めに設定し直すことだ。例えば、有意水準を1%と設定して検定したところ、P値が3%となったため、有意水準を5%に設定し直す。これは、スポーツで言えば、プレーの後に、ルールを変えて、正反対のジャッジをするようなもので、本末転倒と言える。このようなことを防止するために、臨床試験では、あらかじめ計画書を作成し、その中で有意水準を明記することとされている。
次に、手順(3)で、収集するデータの数を増やすことが考えられる。次の例を見てみよう。候補薬を投与された人の70%、候補薬と形状や味がそっくりだが何も薬効のない対照薬(プラセボ)を投与された人の63%が回復している。回復割合には、7%の差がある。しかし、P値を計算してみると、32.4%もあり(*)、有意水準1%で、帰無仮説は棄却されない。((*) P値は、ピアソンのカイ二乗検定という検定の値[以下、同じ])
疫学に限らず、一般に、統計学の仮説検定の仕組みには、研究者が恣意的に結果を操作できてしまう可能性がある。仮説検定の結果を把握する際には、検定方法の説明書類(臨床試験の計画書等)を通じて、恣意的な設定がないかどうかを、よく確認することが必要と考えられるが、いかがだろうか。
(2017年09月04日「研究員の眼」)
                                        保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員
篠原 拓也 (しのはら たくや)
                                研究・専門分野
                                保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務
                            
03-3512-1823
- 【職歴】
1992年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所へ
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員 
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