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じわり存在感、「パワーカップル」の妻の特徴は?ー高収入妻はDINKS だけでなく、出産前後の30 代や子育て中もキャリアを積み続けた50 代のDEWKS でも多い
基礎研REPORT(冊子版)11月号

生活研究部 上席研究員 久我 尚子
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1―はじめに
「パワーカップル」という言葉は、日本では、橘木俊詔ら著「夫婦格差社会-二極化する結婚のかたち」(中公新書、2013年)をきっかけに使われ始めたようだ。ここでは、医師夫婦などの高学歴・高収入の「パワーカップル」と、それと対極にあるような「ウィークカップル」などの現代社会における夫婦の姿が捉えられている。
「女性の活躍促進」政策もあり、今後、共働き世帯は増えていく。その中で「パワーカップル」の存在感も増すことが予想される。また、現在の住宅市場の状況などを見ると、「パワーカップル」には個人消費の牽引役としての期待が寄せられる。
現在、「パワーカップル」はどれくらい存在するのだろうか。また、どのような特徴があるのだろうか。本稿では特に妻の状況に注目して見ていく。
2―パワーカップル妻の動向
近年、高年収の夫ほど妻の就業率が下がるという経済学で言う「ダグラス・有沢の法則」に変化の兆しがある。
現在でもこの傾向はあるのだが、全体的に働く女性が増えているために、夫が高収入でも働く妻は増えている。総務省「労働力調査」によると、年収700万円以上の夫を持つ妻の労働力率は、2013年から2016年にかけて57.2%から60.9%へと上昇している。
また、同調査によれば、妻が高年収であるほど夫も高年収であり、夫婦の年収は比例関係にある。
よって、高年収同士が夫婦となることで、夫婦(世帯)間の経済格差が広がる可能性がある。
さて、パワーカップルはどの程度存在するのだろうか。「パワーカップル」に明確な定義はないが、仮に共働きで年収700万円以上の妻を「パワーカップル」妻として、その実態を確認する。
まず、弊社調査1にて、20~60代の共働き世帯の妻全体について、年収階級の分布を見ると、「300万円未満」が6割を超えて圧倒的に多い[図表1]。一方、パワーカップル妻である年収700万円以上は5.3%である。
年代別には、いずれの年代でも最も多いのは年収300万円未満で、特に40代以上では7割を占めて多い。一方で年収700万円以上のパワーカップル妻は、いずれの年代でも1割に満たないが、30代(7.4%)や50代(6.5%)で比較的多い。
なお、この年収700万円以上の共働き妻について、年代の分布を見ると、30代(32.6%)、50 代(30.2%)、40 代(27.9%)の順で、3割程度で並ぶ。
1 生命保険加入実態等の調査、調査対象20~60代男女、インターネット調査、2016 /12実施、調査機関は日経リサーチ、有効回答数6,296(うち今回対象は810、配偶者のいる女性で本人と配偶者の職業が正社員・正職員、経営者・役員、嘱託・派遣・契約社員、公務員、パート・アルバイト、自営業・自由業のいずれか)。
雇用形態別には、非正規雇用者や自営業・自由業では年収300万円未満が多く、正規雇用者では年収300万円以上が多い[図表2]。また、正規雇用者では年収700万円以上のパワーカップル妻が10.4%を占め、共働き妻全体と比べると約2倍存在することになる。
なお、この年収700万円以上の共働き妻について、雇用形態の分布を見ると、正規雇用者(65.1%)が圧倒的に多く、非正規雇用者(27.9%)、自営業・自由業(7.0%)の順である。
ところで、共働き妻について雇用形態と年代の関係を見ると、年齢とともに正規雇用者の割合が低下し、非正規雇用者の割合が上昇する。20~30代では過半数が正規雇用者だが、40代以上では非正規雇用者が6割を超える。
このことと、図表1で20代と比べて30代で年収700万円以上の高年収層がやや増えることや、30代と比べて40代で高年収層が減り年収300万円未満層が増えることを合わせると、M字カーブ問題で言われるように、出産頃までは順調にキャリアを積むものの、出産・子育てを機に離職し、子育てが落ち着いてから家庭を重視した働き方で復職している様子が窺える。

次に、ライフステージ別に共働き妻の年収階級の分布を見ると、いずれのステージでも「300万円未満」が最も多く、特に、第一子小学校入学~第一子高校入学、第一子独立~孫誕生では7割を超える[図表3]。次いで、いずれも「300~700万円未満」が多く、結婚と第一子誕生、第一子大学入学で3割を超える。
一方、年収700万円以上は、第一子中学校入学(9.6%)、第一子大学入学(8.4%)、第一子誕生(7.1%)、末子独立(6.6%)、結婚(5.9%)で比較的高い。サンプル数の少なさを考慮する必要はあるが、第一子大学入学や末子独立では、半数以上が年収1,000万円を超える。
なお、この年収700万円以上の共働き妻について、ライフステージの分布を見ると、最も多いのは結婚(27.9%)で、次いで第一子誕生と第一子大学入学、孫誕生(いずれも14.0%)が並ぶ。
図表3にて、結婚より第一子誕生で年収700万円以上の高年収層がやや増えること、また、第一子誕生より第一子小学校入学で高年収層が減り年収300万円未満層が増えること、さらに、年収300万円未満が7割を超える状態は第一子高校入学まで続くことから、やはり、第一子出産頃までは順調にキャリアを積むものの、子育て期は家庭を重視した働き方に変える様子が窺える。ただし、高年収層は第一子大学入学や末子独立でも比較的多く、当該層では年収1千万円超の割合も比較的高いため、子育て期もキャリアを積み続ける女性もわずかながら存在し、それがパワーカップル妻に、また、年収1千万円超につながっている様子もある。一方でパワーカップル妻のライフステージでは結婚が3割弱を占めて最も多く、子供を持たないDINKS(Double Income No Kids)も多い。
ひと昔前は高年収妻というと優雅なDINKSの印象が強かったかもしれない。しかし、最近のパワーカップル妻はDINKSだけでなく、第一子出産前後の30代のキャリア形成初期と子育て中もキャリアを積み続けた50代のキャリア形成後期のDEWKS(Double Employed With Kids)でも多くなっている。
ただし、現在のところ、未だ女性の出産後の就業継続率は高くない。よって、パワーカップル妻は30代の出産前後のDEWKSで比較的多いものの、そのうちいくらかは仕事と育児の両立の困難さから離職している。いかに就業継続できるかが、パワーカップルを増やす鍵となる。
3―おわりに
本来、家庭と仕事のバランスをどう取るかは個人が自由に選択できるべきだ。しかし、女性のキャリアコース選択には、夫の長時間労働や社会的風潮などの外的要因が大きな影響を与える。また、妊娠・出産を経て育児休業や時間短縮勤務等を利用すると、昇進・昇格とは縁遠い「マミートラック」に固定されがちな状況もある。現在のところ、女性が働き続けるには「マミートラック」か、管理職コースを目指すかという二択になりかねず、これが少なからず子育て期の離職にもつながっている。
不本意な理由による離職は、労働者個人にも社会全体にも不利益だ2。働き方の多様化に向けた政策が進められているが、キャリアコースを自由に選択できれば、生涯に渡って収入を得やすくなり、消費活性化にもつながる。
(2017年11月08日「基礎研マンスリー」)

03-3512-1878
- プロフィール
【職歴】
2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
2021年7月より現職
・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
・総務省「統計委員会」委員(2023年~)
【加入団体等】
日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society
久我 尚子のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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