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- 欧州通貨基金(EMF)構想と欧州預金保険スキーム(EDIS)
2017年10月20日
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銀行同盟には2つの狙いがある。銀行と母国の信用力を切り離すことと、銀行の経営問題の解決にあたり公的資金の投入を極力回避することだ。共に世界金融危機から債務危機の過程で大きな問題となり、危機の拡大阻止と再発防止の両面で銀行同盟が求められた。
銀行同盟の完成には、少なくとも2つの改革が必要とされている。
1つは、預金保険制度の改革だ。欧州委員会は、SSM、SRMに続いて預金保険についても段階的な一元化を進めるべく、15年11月に「欧州預金保険スキーム(EDIS)」を提案した。今年1月にはEDISが各国の制度を補完する第 1 段階に入り、20年からは各国制度とEDISが協同する第2段階、24年には一元化し、各国の制度をEDISに置き換えるという提案だった。しかし、一部の銀行の不良債権比率がなお高く、銀行セクターのリスク削減が十分ではないとの理由から、ドイツなどが反対し、政治合意に至らないままだった。
欧州委員会は、18年中に銀行同盟の完成に目処をつけるべく、10月11日にEDISの修正案を提案した。EDISの新提案では、第1段階を再保険の段階、第2段階を協同保険の段階とし、EDISに置き換えるという提案は取り下げた。第1段階では、各国の預金保険に対してEDISが流動性を供給し、各国は返済の義務を負う。第2段階では、EDISが損失を負担する段階に入るが、第1段階から第2段階には、資産査定によって不良債権等の削減が十分進展したと判断された段階で移行するという条件を付けた。ドイツの意向を汲んだ妥協案だが、ドイツは、新たなEDISの提案を前進と受け止めつつも、慎重な構えを崩していないようだ。
EDIS始動の前提となる不良債権の処理の加速については、今年7月の閣僚理事会で行動計画で合意している。欧州委員会は、加盟国レベルの資産管理会社(AMC)の設立、不良債権の流通市場の発展を促すための法整備、貸倒れ引当金の最低水準の導入などについて、18年春の採択に向けた準備を進めている。
銀行同盟の完成には、少なくとも2つの改革が必要とされている。
1つは、預金保険制度の改革だ。欧州委員会は、SSM、SRMに続いて預金保険についても段階的な一元化を進めるべく、15年11月に「欧州預金保険スキーム(EDIS)」を提案した。今年1月にはEDISが各国の制度を補完する第 1 段階に入り、20年からは各国制度とEDISが協同する第2段階、24年には一元化し、各国の制度をEDISに置き換えるという提案だった。しかし、一部の銀行の不良債権比率がなお高く、銀行セクターのリスク削減が十分ではないとの理由から、ドイツなどが反対し、政治合意に至らないままだった。
欧州委員会は、18年中に銀行同盟の完成に目処をつけるべく、10月11日にEDISの修正案を提案した。EDISの新提案では、第1段階を再保険の段階、第2段階を協同保険の段階とし、EDISに置き換えるという提案は取り下げた。第1段階では、各国の預金保険に対してEDISが流動性を供給し、各国は返済の義務を負う。第2段階では、EDISが損失を負担する段階に入るが、第1段階から第2段階には、資産査定によって不良債権等の削減が十分進展したと判断された段階で移行するという条件を付けた。ドイツの意向を汲んだ妥協案だが、ドイツは、新たなEDISの提案を前進と受け止めつつも、慎重な構えを崩していないようだ。
EDIS始動の前提となる不良債権の処理の加速については、今年7月の閣僚理事会で行動計画で合意している。欧州委員会は、加盟国レベルの資産管理会社(AMC)の設立、不良債権の流通市場の発展を促すための法整備、貸倒れ引当金の最低水準の導入などについて、18年春の採択に向けた準備を進めている。
単一破綻処理基金のバックストップと欧州通貨基金構想
銀行同盟のもう1つの課題がバックストップの制度化だ。
銀行同盟の土台となるEUの単一規則集では、株主の他、一定のルールに基づき債権者にも負担を求めるベイル・インの原則が導入された。SRMは、銀行の破綻・再生に活用する資金として、単一破綻処理基金(SRF)を備えている。SRFの積立ては2016年に開始、2023年の完成を目指す過程にある。17年6月末時点の残高は174億ユーロ、最終的な規模は付保預金の1%相当の550億ユーロに達すると想定されている。圏内の複数の銀行で破綻処理が必要になり、SRFが枯渇した場合に活用する「最後の手段」としてバック・ストップも銀行同盟の完成の課題とされている。
10月9日に開催されたユーロ圏財務相会合(ユーログループ)では、SRFのバックストップとしてのESMの活用については広く支持が得られたようだ。
欧州委員会の工程表では、ESMの機能強化による欧州安定基金(EMF)の創設も盛り込まれている(図表1)。ユーロ危機対応では、IMFの関与が前提となったが、将来の危機には、EUのみで対処できるように監視機能を強化する。ユーロ参加国が先進国であり、かつ、その危機がユーロの制度的な欠陥に起因することから、IMFの資金を利用することには批判があった。ユーロ圏が危機対応力を高めることは必要であり、EMF構想は財政ルールの遵守を確実にしたいドイツの提案でもある。
ユーログループは、11月もユーロ制度改革について議論する方針であり、ユンケル委員長は欧州議会での施政方針演説で、12月にESMのEMFへの改革について具体的な提案を行なう方針も表明している。
12月のユーロ圏首脳会議に向けた議論の行方が注目される。
銀行同盟の土台となるEUの単一規則集では、株主の他、一定のルールに基づき債権者にも負担を求めるベイル・インの原則が導入された。SRMは、銀行の破綻・再生に活用する資金として、単一破綻処理基金(SRF)を備えている。SRFの積立ては2016年に開始、2023年の完成を目指す過程にある。17年6月末時点の残高は174億ユーロ、最終的な規模は付保預金の1%相当の550億ユーロに達すると想定されている。圏内の複数の銀行で破綻処理が必要になり、SRFが枯渇した場合に活用する「最後の手段」としてバック・ストップも銀行同盟の完成の課題とされている。
10月9日に開催されたユーロ圏財務相会合(ユーログループ)では、SRFのバックストップとしてのESMの活用については広く支持が得られたようだ。
欧州委員会の工程表では、ESMの機能強化による欧州安定基金(EMF)の創設も盛り込まれている(図表1)。ユーロ危機対応では、IMFの関与が前提となったが、将来の危機には、EUのみで対処できるように監視機能を強化する。ユーロ参加国が先進国であり、かつ、その危機がユーロの制度的な欠陥に起因することから、IMFの資金を利用することには批判があった。ユーロ圏が危機対応力を高めることは必要であり、EMF構想は財政ルールの遵守を確実にしたいドイツの提案でもある。
ユーログループは、11月もユーロ制度改革について議論する方針であり、ユンケル委員長は欧州議会での施政方針演説で、12月にESMのEMFへの改革について具体的な提案を行なう方針も表明している。
12月のユーロ圏首脳会議に向けた議論の行方が注目される。
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(2017年10月20日「Weekly エコノミスト・レター」)
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経歴
- ・ 1987年 日本興業銀行入行
・ 2001年 ニッセイ基礎研究所入社
・ 2023年7月から現職
・ 2011~2012年度 二松学舎大学非常勤講師
・ 2011~2013年度 獨協大学非常勤講師
・ 2015年度~ 早稲田大学商学学術院非常勤講師
・ 2017年度~ 日本EU学会理事
・ 2017年度~ 日本経済団体連合会21世紀政策研究所研究委員
・ 2020~2022年度 日本国際フォーラム「米中覇権競争とインド太平洋地経学」、
「欧州政策パネル」メンバー
・ 2022年度~ Discuss Japan編集委員
・ 2023年11月~ ジェトロ情報媒体に対する外部評価委員会委員
・ 2023年11月~ 経済産業省 産業構造審議会 経済産業政策新機軸部会 委員
伊藤 さゆりのレポート
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