2017年10月10日

ドイツの生命保険会社の状況(1)-BaFinの2016年Annual Reportより(ソルベンシーIIスタート後の1年間)-

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4|包括的な進行中の監督
単にモデルの変更を見直すだけでは十分ではない。保険会社が適用される要件を遵守しているかどうかを包括的に評価するために、BaFinはモデルを変更することなく、他の領域で確認する適切な決定を行ったかどうかを検討しなければならない。したがって、内部モデルの継続的監督の範囲は、適切に幅広くなければならない。

5|会社の適合要件と監督
効率的な継続的監督は、(現在は主に事前申請及び申請段階のレビューから得られる)モデル及び経験の知識に基づいており、承認された内部プロセス及び更なるモデルの進展を決定する分析の結果を最大限に活用している。したがって、法律制定者は、大きく適合した方法で定期的に検証するために、BaFinに対する上記の義務と保険監督法第120条(1)に基づく保険会社の要件を設計した。

検証の下で、会社自身がモデルの弱点を見直し、結果としての調整の必要性を特定する。会社は、法的要件を遵守して、BaFinに詳細な自己評価を提出する。また、モデルの変更の有無の意思決定を透明な方法でBaFinに通知する。検証報告書は、最低年1回のベースで会社によって準備されなければならないが、これがBaFinに継続的な監督の核となる出発点を提示する。BaFinは結果を検証し、綿密に調査する。

6|情報の幅広い基盤
BaFinは、内部モデルだけでなく、特にモデルとは独立して、会社のリスクプロファイルとリスク管理制度の詳細な知識を常時確保しなければならない。この知識は、BaFin自身の調査だけでなく、リスクとソルベンシーの自己評価(ORSA)、定期監督報告(RSR)及び定量的報告テンプレート(QRT)等の情報源から得られる。これらに加えて、BaFinは個々の保険会社に、モデルの較正に関する情報パッケージを定期的に提供させている。

7|ベンチマーキング:有望な手段
2016年に、BaFinは、ソルベンシーIIの下での情報の評価を開始した。この情報は、年間を通して定期的に提供され始めた。BaFinは、個々の会社の継続的監督の一環として実施された特定の分析の結果を議論し、これらをベンチマーク比較に統合した。このようなピアレビューは、業界と比較して会社特有の結果を評価する必要がある場合等、監督の対象となる会社について貴重な洞察を提供する。これらの分析は、リスクの測定や評価のための方法論的アプローチを開発する場合等、業界全体にとっても価値のあるものになる。さらに、これらは、一貫した監督評価と実践に貢献し、またマクロプルーデンスの見通しも考慮に入れられる。

BaFinはまた、EIOPA(欧州保険年金監督局)が実施する汎欧州のベンチマークレビューにも参加している。 2016年の市場リスクベンチマーク調査と、動的なボラティリティ調整のマッピングと国債からのリスクに関する2つの研究は、年度中に完了する予定である。

8|効率
効率性がある程度求められたとしても、高度な複雑さと個別性を認識しているのは内部モデルの批評家だけではない。しかし、重要なことは、BaFinがこれらのテーラーメイドのリスク管理ツールの監視から得られる機会と新しいチャンスである。

継続的にモデルを監督し洗練することは、疑いがなく、費用がかかり挑戦的な仕事である。BaFinと会社にとって重要なのは、情報の交換と関連するプロセスが全ての法的要件を遵守して、できるだけ効率的かつ効果的に行われることを確実にすることである。これは、主に限られたリソースを考慮して適用される。実際に得られた経験(たとえば、相互依存モデルの検証と変更プロセスに関して)は、活用されなければならず、改善の余地が特定されなければならない。長期的には、効率的で効果的で継続的な監督が、内部モデルの成功と市場の受入れに貢献することになる。
 

5―ソルベンシーIIの長期保証措置や移行措置の適用状況

5―ソルベンシーIIの長期保証措置や移行措置の適用状況

ソルベンシーIIの下での長期保証措置や移行措置の適用状況については、以下の通りとなっている。

なお、EIOPAは、2016 年12 月16 日に「長期保証措置と株式リスク措置に関する報告書2016(Report on long-term guarantees measures and measures on equity risk 2016)」 及び2016年12 月15日に「2016 EIOPA 保険ストレステスト報告書(2016 EIOPA Insurance Stress Test Report)」 を公表して、EU(欧州連合)各国のソルベンシーIIにおける長期保証(Long-Term Guarantees:LTG)措置及び株式リスク措置についての保険会社の適用状況やその財政状態等に及ぼす影響を明らかにしている。この具体的内容については、保険年金フォーカス「EUソルベンシーIIにおけるLTG措置等の適用状況とその影響(1)~(4)」(2017.1.10~2017.1.16)で報告した。

この中で、基本的には2016年1月1日時点ベースでの、国別の各種措置の適用状況及びその影響等について報告しているが、ここでは改めてドイツの概要を報告しておく。なお、各種措置の適用会社数等が今回のBaFinのAnnual Reportでの報告と必ずしも一致していないのは、報告時期の差異によるものである。

ドイツの保険会社が適用している各種措置3は、以下の3つである。なお、これとは別に、ED(株式リスクチャージの対称調整メカニズム)を、SCRの株式リスクサブモジュールを算出するのに標準式を使用(部分内部モデルが株式リスクサブモジュールをカバーしていない場合を含む)している全ての会社313社が適用している。

1|VA(ボラティリティ調整)
・VA適用会社は、生命保険会社が58社、損害保険会社が25社
・VA適用会社の(国内)営業保険料シェアは、生命保険(含む医療保険)及び再保険合計の68.7%
・VA適用会社がVAを適用しなかった場合、SCR比率は286%から202%に85%ポイント(表面上の数値による差異ではなく、報告書の数値を使用、以下同様)低下、技術的準備金は0.8%増加

2|TTP(技術的準備金に関する移行措置)
・TTP適用会社は、生命保険会社が53社、損害保険会社が4社
・TTP適用会社がTTPを適用しなかった場合、SCR比率は340%から118%に223%ポイント低下、技術的準備金は13.2%増加
・なお、VAとTTPを併用している会社は48社で、その市場シェアは23.8%

3|TRFR(リスクフリー金利に関する移行措置)
・TRFRについては、生命保険会社1社が適用

また、以上の各種措置の適用前のSCR比率は134%で、適用後に286%となっている。
各種措置の適用数(生命保険会社)
 
3 各種措置の内容については、上記のレポート「EUソルベンシーIIにおけるLTG措置等の適用状況とその影響(1)-EIOPAの報告書の概要報告-」(2017.1.10)を参照していただきたい。
 

6―まとめ

6―まとめ

以上、ソルベンシーIIがスタートしての1年間を踏まえての、ソルベンシーIIを巡るドイツの現状のうち、内部モデルや各種措置の適用に関係する状況等について報告した。

次回以降、ソルベンシーII制度の下での報告(含むORSA)や低金利環境下での保険業界の状況に関するAnnual Reportの記述及び関連する情報等について報告していく。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2017年10月10日「保険・年金フォーカス」)

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【ドイツの生命保険会社の状況(1)-BaFinの2016年Annual Reportより(ソルベンシーIIスタート後の1年間)-】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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