2017年10月10日

ドイツの生命保険会社の状況(1)-BaFinの2016年Annual Reportより(ソルベンシーIIスタート後の1年間)-

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1―はじめに

ドイツの生命保険会社の健全性やソルベンシー等の財務状況については、昨今の低金利環境が継続する中で、引き続き注目の的となっている1。こうしたドイツの生命保険会社の状況については、これまでもいくつかのレポートで報告してきた。

1年前には、ドイツの保険監督官庁であるBaFin(Bundesanstalt fur Finanzdienstleistungsaufsicht:連邦金融監督庁)の2015年のAnnual Report(年次報告書)及び、IMF(国際通貨基金)がドイツの金融監督に対して行った FSAP(Financial Sector Assessment Program:金融セクター評価プログラム)の結果を公表した報告書に基づいて、ドイツの生命保険会社の財務状況等に対して、BaFinやIMFがどのような見解を示しているのか、について4回に分けて報告2した。

今回は、BaFinの2016年のAnnual Report等に基づいて、ドイツの生命保険会社の状況や業界が抱える課題及びこれらの課題に対するBaFinの考え方等について、複数回に分けて報告する。

まずは今回のレポートでは、ソルベンシーIIがスタートしての1年間を踏まえての、ソルベンシーIIを巡るドイツの現状のうち、内部モデルや各種措置の適用に関係する状況等について、BaFinの2016年のAnnual Reportにおける記載内容を中心に報告する。
 
1 ドイツにおける低金利環境下でのBaFinの対応等については、基礎研レポート「金利低下に保険監督当局はどう対応してきたのか -ドイツ BaFin の例-」(2015.6.15)を参照していただきたい。
2 保険年金フォーカス「ドイツの生命保険会社の状況(1)-BaFinの2015年Annual Reportより(低金利環境下における状況、内部モデルの適用等)-」(2016.9.20)、「ドイツの生命保険会社の状況(2)-BaFinの公表資料より(ソルベンシーII比率の状況)-」(2016.9.26)、「ドイツの生命保険会社の状況(3)-IMFによるFSAPの報告書「保険部門の監督」-」(2016.10.3)、「ドイツの生命保険会社の状況(4)-IMFによるFSAPの報告書「ストレステスト」-」(2016.10.4)
 

2―ソルベンシーIIスタート後の1年間についてのBaFinの評価等

2―ソルベンシーIIスタート後の1年間についてのBaFinの評価等

2016年はソルベンシーIIがスタートした最初の年であった。BaFinは、この1年間を振り返って、以下の通り、その評価等を行っている。

|全体的には順調と評価
全体的には、「保険監督のための規制枠組みであるソルベンシーIIの目的は、リスクをより透明にし、管理しやすくすることであったが、制度は成功裏にスタートし、保険会社は徐々にそれに対処する方法を学んでいる。」と評価している。 しかし、広範な準備にもかかわらず、枠組みは引き続き会社とBaFinの両方に課題を提起している。特に、「低金利環境の継続」という困難な市場状況が、ZZR(Zinszusatzreserve:追加責任準備金)の積立負担を増加させており、これに対して、保険・年金基金監督の最高業務責任者であるFrank Grund博士は、「BaFinはこの困難な状況を注意深く監視し、必要に応じて介入する。」と述べている。

2016年夏に、BaFinは、それぞれの保険クラスについて新しい報告制度の下での最初の数字を示したが、1日目の報告(Day 1 Report)を分析したところ、損害保険のわずかな例外を除いて、全ての保険会社が新しいソルベンシー資本要件を適切に満たすことができていた。

生命保険会社のSCR比率(=適格自己資本/SCR(ソルベンシー資本要件))は、困難な資本市場環境のために大きく変動したが、第4四半期末に最高水準に達した。対照的に、民間医療保険会社のSCR比率は、2016年全体でほぼ安定しており、第2四半期の減少後、第4四半期末にかけて再び開始時の水準に近づいた。損害保険会社及び再保険会社のSCR比率は比較的安定していた。

変化する市況に起因してボラティリティが高いため、SCR比率を簡単に比較することは慎重に検討する必要がある、としている。

また、ソルベンシーIIでは、監督は、純粋なルール・ベースからよりプリンシプル・ベースに向かっており、この種の監督が必要とする全ての挑戦を伴っている。BaFinがこれまでに行った解釈の決定は、保険会社に必要な指針を提供しているが、このプロセスを継続する予定である、としている。

|保険・年金基金監督の最高業務責任者であるFrank Grund博士の意見
Frank Grund博士は、Annual Reportの中で、現在の保険監督について、以下のような意見を述べている。

全体的
・市場参加者は新しい監督制度を扱う上でより良くなってきている。

・公衆は情報を正しく解釈する作業に直面するが、主要指標の分析には、例えば、内部モデル又は標準式における会社固有パラメータのような個々の状況を考慮に入れる差別化されたアプローチが必要となる。

・適切な時系列が利用可能になり、合理的に完全な画像が得られるまでに数年かかる。

異なる反応と目的
・ソルベンシーIIは欧州全体で統一された監督体制を作ったが、保険会社が運営する法的枠組みは調和のとれたものからは長い道のりであり、民法、商法、税法について考える必要がある。さらなる調和と異なる国の現実の認識との間の適切なバランスを見つけることは困難な作業である。

・市場価値に基づく監督制度の導入は、法的・経済的環境の他の側面を変えることができないことを忘れてはならない。さらには、会社は次々と新しい監督制度に適合しない。

顧客にとっての移行措置
・移行措置の適用は必ずしも脆弱性の兆候ではなく、顧客にとっても円滑な移行を確実にするための戦略的決定である可能性があるため、このような措置を避けることが常に推奨されるわけではない。

・移行措置を適用している会社に対しては警告を発するだけである。

プリンシプル・ベースの監督
・BaFinは、繰延税金やORSA(リスクとソルベンシーの自己評価)に関連する問題について、保険会社が彼らの立場を見つけるのを支援するために、解釈指針の形でガイダンスを提供している。BaFinの次のステップは、現在までに受領したORSA報告書に改善の余地があることが示されていることから、ORSAの内容により詳細に対処することである。

比例性
・比例性とは、保険者が適用される要件を遵守する必要がないことを意味するものではない。それは「どうか」の問題ではなく、「どのように」の問題である。

・BaFinは、可能な限り、ソルベンシーIIの比例適用に関する詳細なガイダンスを業界に提供する。

ソルベンシーII比率のドライバー
・2017年に、BaFinはソルベンシーII比率のドライバーをより詳しく見ていく。将来の監督実務に合わせて、市場の動きに対するSCR比率の感応度に焦点を当てる。生命保険会社のSCR比率が長期債務の結果として金利の変動に対して非常に敏感であるため、主な焦点は生命保険会社に当てられる。

消費者保護
・将来の消費者保護に影響を与える重要な規制上の意思決定は、今後2年間で行われる。

・保険販売業務指令(Insurance Distribution Directive:IDD)は、2018年2月23日までにドイツの法律に移行されなければならないが、商品がまだ開発中であっても、消費者のニーズを考慮に入れることが求められる。

・PRIIPs規制(パッケージ化されたリテール及び保険ベースの投資商品に関する重要情報文書についての規制)は、個人投資家向けの新しい重要情報文書 PRIIPs KIDの枠組みを確立することを目的としている。
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中村 亮一

研究・専門分野

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