2017年10月03日

欧州保険業界におけるM&Aの動向-2012年~2016年の動向 M&Aから見える欧州保険業界-

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任   松岡 博司

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本稿では、米国の保険格付と調査の専門会社であるAMベスト社が発表したレポート “European Mergers and Acquisitions:Consolidation is the Trend(欧州のM&A:統合がトレンド)”を紹介する形で、2012年~2016年の欧州保険市場におけるM&Aの動向を見ていく。

本稿では、生命保険、医療保険、損害保険、再保険等、全ての保険種目の保険会社のM&Aを対象としている。
 

1――各年の欧州保険会社M&Aの動向

1――各年の欧州保険会社M&Aの動向

グラフ1は、2012年~2016年の各年に、欧州保険会社が買収者または被買収社となったM&A取引金額の推移である。欧州保険業界におけるM&Aの動きは、2014年と2015年に大きく増加した後、2016年に大きく減少し、ちょうど2012年当時の水準に戻った形となっている。
グラフ1 欧州保険会社が関与したM&A案件の金額推移(発表ベース)(億ドル)
一方グラフ2は、EUの保険・年金監督機関であるEIOPA(欧州保険・職域年金局)が2016年6月に発表した”EIOPA Financial Stability Report(EIOPA財務安定性レポート)中のM&Aが保険会社に与えた影響についてのレポートに掲載されている、2000年~2015年の欧州保険会社M&A全738件の金額と件数の推移グラフを転載したものである。具体的な数値までは明かされていないイメージ図にすぎないが、傾向的にはグラフ1と似たような動きを示している。

欧州保険市場については、(1)長引く低金利環境への対応(収益のあがらない事業の売却、規模を拡大しての収益力強化等)と(2)2016年から実施されたEUのソルベンシーII規制への対応(規制上不利となる事業の売却、規制上有利となる多様化の推進、諸報告書作成に企業体力を有するため大手グループに加わる方が有利とされることへの対応等)という2つの対応を主な理由として、M&Aが増加するとの見込みがあった。

この見方でグラフ1を見ると、低金利下の苦しい収益状況の中、2016年から実施されるソルベンシーII規制に備えるため、その実施を目前に控えた2014年~2015年にM&Aがピークを迎えたのだなと思えるが、グラフ2を提示したEIOPAは、「ここ数年の増加傾向は、株式市場の業績と一致をなすものであるが、ソルベンシーIIの導入を根拠としたM&A活動のピーク予測を裏付けるようなものではないようである。」とソルベンシーII主犯論をやんわりといなしている。
グラフ2 欧州保険会社M&Aの金額推移と件数推移

2――M&Aのタイプ別分布状況(2012年~2016年5年間総合、金額の分布状況)

2――M&Aのタイプ別分布状況

1|5つのタイプに分類した分布状況
次のグラフ3は、2012年から2016年の5年間に行われた総額640億ドルのM&A案件の属性を鑑みて5つのタイプに分け、各タイプへの取引金額ベースの分布状態(構成割合)を示したものである。2012年~2016年を一まとめにして見ている。

本来、M&Aはさまざまな目的を持って実施されるので、1つの案件が複数のタイプに該当することが当然である。しかし当レポートにおいてAMベストは、あえて各案件を、もっともその案件の特徴を言い当てていると考えられるいずれか1つのタイプのみに割り当てるように取り扱っている。

そのようにして分類された結果、グラフ3は、5つのタイプ中4つのタイプへの分布が均等化されたものとなった。
グラフ3 欧州保険会社M&Aのタイプ別分布状況(2012年~2016年5年間総合、金額ベース)
2|タイプ別の状況
(1)1つの国の国内市場内での統合
買い手と売り手が母国市場を同じくする形の、1つの国の国内市場における統合の動きが25%を占めた。欧州諸国の保険業界は長い歴史を有しているが、いまだに各国市場内の統合が大きなテーマであり続けている。ただしこの25%の構成比は、少数の生保会社の間で行われた大規模M&Aがカテゴリー全体の構成比を引き上げることになった結果とのことである。

具体的な案件は、英国におけるアビバによるフレンズライフの買収(2014年)、オランダにおけるNNグループとデルタ・ロイドの合併(2016年発表)、スイスにおけるヘルヴェティアとナショナーレスイスの合併(2014年)等である。

このような形のM&Aの今後についてAMベストは、さらなる大規模統合の目は間違いなくあるものの、欧州各国内における大規模な統合については競争政策上、最終的に制限される可能性が高く、大規模会社による1国市場内の統合は、散発的に発生する程度であろうとしている。

(2)先進国の保険会社間の国境を越えたM&A
欧州先進国の保険会社による、欧州その他の先進国への進出または撤退の動きが24%を占めた。最近は撤退のためのM&Aが目立ったようだ。

主な事例としては、スタンダードライフ(英国)がカナダの事業をマニュライフ(カナダ)に売却した事例(2014年)、アリアンツ(ドイツ)が米国の保険子会社ファイヤーマンズファンドの個人向け損保事業をエース(米国)に売却した事例(2014年)、アビバ(英国)がカナダでRBCジェネラル保険(カナダ)を買収した事例(2016年)が挙げられている。

各国保険市場間の結びつきが強まるとともに、各国とも市場の成熟度が増している。保険市場はもともと地域色が強い市場でもある。各国の保険会社が成熟した本国市場から飛び出して他国に進出する動き、進出先の市場成熟度が増すとともに収益化できなかった国から撤退する動きは、今後も持続的に発生しそうである。

(3)ロンドン市場(ロイズ保険市場)の保険会社を対象としたM&A
ロイズ保険市場で活動する保険会社をターゲットとする買収が24%を占めた。主に損保会社、再保険会社である。2015年に発表された、わが国の三井住友海上によるアムリンの買収、XL グループによるカトリングループの買収がこのカテゴリー最大規模の買収であった。

世界各国から買い手が現れるようになったことにより、ロイズ保険市場で巨大なM&Aが発生した。

ロイズ保険市場で活躍する保険会社は世界各国にさまざまなライセンスを持っていて、スペシャリティと言われる専門性の高い保険事業を行っている。これが買収者にとっての魅力となっている。

ただしロイズ保険市場には、今後の買収の対象となりそうな独立系保険会社があまり残っていない。AMベストはこのタイプのM&Aが今後も大きな構成比を占めることはないだろうとしている。
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保険研究部   主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

松岡 博司 (まつおか ひろし)

研究・専門分野
生保経営・生保制度(生保販売チャネル・バンカシュランス等、主に日本生命委託事項を中心とする研究)

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