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中国フィンテック、平安保険の戦略~ネット金融経済圏の形成、集まる4億人の金融ビッグデータ
基礎研REPORT(冊子版)10月号

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 片山 ゆき
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1―2016年、ネット金融( フィンテック)が黒転、純利益のおよそ1割に
まず、2016年の業績を振り返ってみると、総資産は5兆5,769億元( 前年比17.0%増、およそ94兆円)、収入保険料( 生損保合計)は、前年比21.7%増の4,696億元(約8兆円)で、生保・損保とも業界第2位を維持している。収入保険料を含むグループ全体の売り上げは、14.9%増の7,125億元で、営業利益は0.5%増の934億元と、2016年も増収増益となった。
2016年の純利益は、前年比15.1%増の624億元( 約1兆円)で、そのうち、保険事業が55.5%( 生保:35.9%、損保:19.6%)を稼ぎ、収益の最大の柱は生命保険事業であることに変わりはない[図表1]。新たな事業であるネット金融は、2016年に黒字に転じ、純利益の8.4%を占めた1。
1 2016年のネット金融事業の黒字化は、平安保険グループ傘下の企業が保有する株式を陸金所に譲渡する上で発生した収益94.97億元を会計規則上、計上したもので、事業そのものによる黒字化ははたされていない。
2―ネット金融経済圏の形成集まる4億人の金融ビッグデータ
平安保険がネット金融で提供する「生活サービス」は、金融機関として、その機能をより‘金融’に絞っている。例えば、保険料などの支払いが可能なネット決済の「壱銭包」、ネットを介して資金の貸し借りを仲介するP2Pや金融商品の購入が可能な「陸金所」、資産運用や財テクのアドバイスがもらえる「平安天下通」といった、資金の貸し借りや、金融商品による資産形成などに重点が置かれたサービスである[図表2]。一方、医師とオンラインで健康相談や、薬の手配ができる「平安好医生」、住宅の売買などの「平安好房」など、前掲の金融サービスとは直接関係ないものの、健康情報を通じた医療保険の加入や見直し、個人の不動産の売買といった資産形成につながるサービスもある。
特に、陸金所のP2Pについては、平安保険の高い信用を背景に、少額貸付の個人顧客に加えて、それよりも大きな金額を中小法人にも融資している点に特徴がある。2016年末時点で、個人向けの取引額は、前年の2.4倍にあたる1兆5,352億元(約26兆円)、中小法人向けは前年の5倍にあたる4兆2,000億元(約71兆円)と大幅に増加した。このP2Pによる平安保険の収入は、融資が成立した際の仲介手数料である。2016年末の陸金所の登録ユーザー数の累計は2,838万人、そのうちアクティブユーザー数が740万人と、ユーザー数、上掲の取引量とも中国最大規模である。
平安保険、陸金所には、借り手の信用状況、身元証明、資金希望額や使途、貸し手の資金状況など、個人のみならず、中小法人の動向を中心とした金融に関するアクティブな情報がどの金融機関よりも集まっている。
中国のP2Pは、既存の金融機関で個人の小口の借り入が難しく、更には若年層を中心とした旺盛な消費を背景に利用が進んでいる。また、平均の貸付利率がおよそ10%と、銀行の1年定期の金利1.5%と比べると遥かに高く、平均の借入期間が10ヶ月未満と、リスクは高いものの短期で高利回りの運用手段として、一気に広がった。同時に、詐欺や不正といった問題も多発しているが、規制の強化により市場の再編が進んでいる。2016年の市場は前年の2倍の規模に成長するなど、その勢いは更に増しつつある。
3― 新規顧客の2割はネットから、ネット金融の顧客の23%が生命保険へ加入
平安保険が発表した2016年上半期(1~6月)の状況によると、グループ内の金融サービスにおいて、ネット金融、既存の金融業務の両方を利用している顧客数は2015年末よりおよそ1,300万人増加の7,865万人で、顧客総数の2割を占めた。両方を利用するユーザーの特徴として、2016年上半期の金融商品等の平均契約件数は2.31件で、既存金融業務のみの顧客の2.16件よりも多い。また、ネット上のサービスの平均利用件数は2014年末時点の1.65件から2.44件まで増加するなど、ネットを介したサービスの利用意向が高くなっている[図表4]。
(2017年10月05日「基礎研マンスリー」)
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03-3512-1784
- 【職歴】
2005年 ニッセイ基礎研究所(2022年7月より現職)
(2023年 東京外国語大学大学院総合国際学研究科博士後期課程修了) 【社外委員等】
・日本経済団体連合会21世紀政策研究所研究委員
(2019~2020年度・2023年度~)
・生命保険経営学会 編集委員・海外ニュース委員
・千葉大学客員教授(2024年度~)
・千葉大学客員准教授(2023年度) 【加入団体等】
日本保険学会、社会政策学会、他
博士(学術)
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