2017年09月25日

欧州大手保険グループの2017年上期末SCR比率の状況について-ソルベンシーIIに基づく数値結果報告-

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1―はじめに

欧州大手保険グループの2017年上半期決算の発表が8月に行われており、それに伴い、ソルベンシーII制度に基づく各種数値等も開示されている。今回は、各社の2017年上期末のSCR比率の状況等について、SCR比率の水準やその感応度及び2014年末から2017年上期末にかけての推移等を報告する。
 

2―欧州大手保険グループのSCR比率

2―欧州大手保険グループのSCR比率

欧州大手保険グループのSCR比率(=自己資本/SCR(Solvency Capital Requirement:ソルベンシー資本要件))の2014年末から2017年上期末の推移については、下記の表の通りとなっている。なお、ZurichはソルベンシーIIの対象ではないが、参考のためスイスの制度に基づく数値等を掲載している。
欧州大手保険グループのSCR比率等の推移
この表によれば、2017年上期末においては、2016年末と比較して、ほぼ各社ともSCR比率が上昇している。Generali、Aegon、Zurichの比率が10%ポイント以上上昇しているが、特にAegonは後で述べるような方策を講じることで、比率が28%ポイントと大幅に上昇している。

なお、SCR比率の推移は、各社の資本充実やリスクテイクへの方針の差異等を反映して、一律ではなく、必ずしも市場環境に対応して同一のトレンドを示しているわけではない。

さらには、(1)各社の生保と損保等の事業や地域別の構成比率の差異等から、目標とするSCR比率等が異なっている、(2)事業の地域構成の差異からくる為替等の影響の程度が異なっている、(3)各社とも引き続き規制当局との交渉等を踏まえた内部モデルの変更や洗練化を実施してきている、等の理由から、単純な各社間の絶対水準や年度間の推移の比較ができない、ことには注意が必要になる。
 

3―各社のSCR比率や感応度の推移

3―各社のSCR比率や感応度の推移

各社とも、2016年1月からのソルベンシーII制度の実施に向けて、SCR比率の充実や感応度の抑制に向けた対応を行ってきていたが、2017年に入ってからも、着実に営業利益を積み上げることに加えて、劣後債の発行等で資本の充実を図ってきている。

なお、以下のSCR比率の推移の要因分解は、各社の公表資料に基づいているが、例えば「経営行動(management action)」に何を含めるのか等が必ずしも統一されているわけではない。さらには、感応度の対象内容やシナリオも各社各様である。

加えて、要因分解に関する情報提供が行われている時期も必ずしも統一されておらず、以下の報告は、各社の情報提供に基づいている。
1|AXA
(1)SCR比率の推移
AXAは、2016年3月に2047年に満期を迎える15億ユーロの劣後債を発行、2016年9月に8.5億ユーロの無期限劣後債を発行する等して、自己資本の充実を図っている。

2016年末は、不利な金融市場環境の影響等で、SCR比率は2015年末に比べて8%ポイント低下したが、2017年上期末では、主として予想配当利回りを上回る営業利益率が寄与して、 2016年末に比べて4%ポイント上昇している。
AXAのSCR比率推移の要因
(2)感応度の推移
感応度については、2014年末から2015年末にかけて、金利感応度を大きく低下させていたが、2015年末以降は、ほぼ横ばいとなっている。
AXAの感応度の推移
(3)トピック
AXAは、2017年上半期において、以下の資本取引を行うことで、効率的な資本管理を行っている。

・1月2日、英国P&C商業ブローカーであるBluefin のMarshへの売却完了
・1月11日、2047年に満期を迎える10億米ドルの劣後債の発行完了
・4月28日、ルーマニアの事業のVienna保険グループへの売却完了
・5月10日、米国事業のIPOの意向の公表
・5月10日、AXA株式の買戻し及び特定の株式に基づく報酬制度の希薄化効果の排除の公表
・6月30日時点で、37,000,000株の購入によりこのプログラムを完了
・7月3日、AXA Life Europe Limited’のオフショア・インベストメント・ボンド事業のLife Company Consolidation Groupへの売却完了
2|Allianz
(1)SCR比率の推移
Allianzは、韓国生命保険事業を2016年12月に売却したこと等が貢献して、2015年末から2016年末にかけて、SCR比率を200%から218%へと大きく18%ポイント上昇させた。

2017年上半期は、好調な業績で引き続き高水準の営業利益を計上するとともに、年初にモデル変更を行ったことがSCR比率にプラスに働いている。さらに、市場の動向もプラスであったが、一方で、第1四半期に30億ユーロの株式買戻しを行った影響があり、2016年末からのSCR比率の上昇は1%ポイントにとどまった。
SCR比率推移の要因
SCR比率推移の要因
(2)感応度の推移
感応度については、2016年末に低下していた株式市場の変動に対する感応度が上昇して、2015年末の水準に戻っている。一方で、信用スプレッドの感応度は低い水準にとどまっている。
Allianzの感応度の推移
(3)トピック
Allianzは、その2017年上半期業績報告用のプレゼンテーション資料の中で、以下の図表の通り、ドイツの生命保険会社のSCR比率の分布を、移行措置が無い場合も含めて示すことで、グループのAllianz Lebenが強力な資本ポジションを有していることを訴求している。 
ドイツの生命保険会社のSCR比率の分
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中村 亮一

研究・専門分野

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